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第I部 わが国を取り巻く安全保障環境

2 ニュージーランド

アーデーン首相率いる労働党とニュージーランド・ファースト党による連立政権は18(平成30)年7月、新たな国防政策「戦略国防政策ステートメント2018」を発表した36。16(平成28)年の国防白書発表以降の戦略環境の大きな変化として、大国間競争、気候変動、サイバー・宇宙空間が挙げられた。

そのうえで、本ステートメントは、ニュージーランドの国家安全の目標として、公共の安全、主権と領土の一体性の防護、コミュニケーションライン37の保護、国際秩序の強化、経済的繁栄の維持、民主的制度と国家価値の維持、自然環境の保護を掲げた。そして、これら目標を達成するため、南極から赤道に至る近隣地域での部隊運用能力の確保を最優先とし、アジア太平洋地域の秩序に対する挑戦などが自国の安全及び繁栄に影響を与えうるとの考えの下、国際ルールに基づく秩序の維持を世界中で支援するための国防力が必要であるとした。また、米・英・豪・加との効果的作戦の実施能力38、域外作戦に貢献可能な軍の規模及び質の維持も優先事項として挙げられた。

このほか、災害の増加に苦しむ太平洋島嶼国への配慮と同地域への関与を積極化しようとする新政権の戦略39を反映し、気候変動が及ぼす影響とそれに対する軍の役割が初めて明記された。また、南シナ海問題に関して、従来は、中国を名指しせず、特定の立場をとらなかったが、今回は「中国が国益追求に自信を深めたことにより、近隣諸国や米国との緊張が高まっている」とし、南シナ海での中国による軍事拠点化の状況について具体的に言及した。

対外関係については、ANZUS条約に基づき、米豪と緊密な関係を維持しており、特にオーストラリアを最も親密な同盟国と位置付けている。米国との関係においては、ニュージーランドが非核政策をとって米艦艇の入港を拒否したことから、1985(昭和60)年以来、米国はニュージーランドに対する防衛義務を停止しているが、ウェリントン宣言(10(平成22)年)40及びワシントン宣言(12(平成24)年)41を通じて、外交・軍事分野における関係を強化しており、米国は「親密な戦略的パートナー」となっている。中国とは一帯一路への協力、空軍の共同演習などを通じて二国間関係が発展する一方、「戦略国防政策ステートメント2018」で示されたとおり警戒姿勢もみられる42

ニュージーランド軍は、9,000人の兵力を保有しており43、国連安保理決議により禁止されている北朝鮮籍船舶の「瀬取り」を含む違法な海上活動に対して、哨戒機による警戒監視活動を行ったほか、韓国の国連軍司令部軍事休戦委員会(UNCMAC)や中東、南太平洋などに人員を派遣し、地域の平和と安定に貢献している。

19(令和元)年6月、軍の装備に関する30(令和12)年までの200億NZドルの投資方針を示す「国防能力計画2019」が発表された。同計画に基づき、太平洋島嶼国との関係強化、気候変動への対応及び海上警備能力強化のため、艦艇、ヘリ、輸送機等の取得が計画されている。

36 本ステートメントは、16(平成28)年に発表された前回の国防白書の内容を見直し、新政権の国防政策目標及び戦略的方向性を明らかにするものである。

37 同ステートメントの説明によると、通信のほか、貿易及び関与を含むとされる。

38 ニュージーランドは宇宙分野についてもこれら4か国との協力を重視している。

39 アーデーン政権は18(平成30)年3月、太平洋島嶼国との関係を強化する新たな政策「パシフィック・リセット」を発表し、5月には今後4年間で過去4年間の約30%にあたる約7億1,400万NZドルをODAに追加するほか、11月には1,000万NZドルの基金を設立すると表明した。

40 外交・軍事分野における戦略的関係の強化を主な内容とする。

41 防衛協力の拡大を主な内容とする。

42 ニュージーランド通信大手のスパークは「5G」ネットワークにファーウェイ製機器を使用する申請を行ったところ、安全保障上のリスクを理由にニュージーランド政府通信保安局により却下された旨発表した。

43 「ミリタリー・バランス(2019)」による。