平成の防衛省・自衛隊 〜30年の歩み〜

I 安全保障環境と自衛隊の取組

平成元年~9年(1989~1997年) 平成の始まり、そして冷戦後の世界の始まり

平成元年、ベルリンの壁が崩壊し、40年以上続いた冷戦は終結しました。それまでの米ソ両国を中心とした東西間の軍事的対峙の構造は消滅し、国際情勢が大きく変化する中で、自衛隊は、阪神・淡路大震災など大規模な災害への対応、カンボジアでのPKO活動など国際平和協力活動にも取り組みました。自衛隊に対する内外からの評価が高まり、防衛力の役割が広がりました。

平成3年ペルシャ湾掃海部隊派遣

湾岸戦争後、ペルシャ湾にはイラクが敷設した多数の機雷が残された。わが国船舶の航行の安全を確保するため、海自掃海部隊が派遣された。自衛隊創設以来、初の国際協力であった。

平成4~5年カンボジアPKO

自衛隊にとって初めての国連平和維持活動となったカンボジアでの活動では、道路・橋の修理や停戦監視活動などを行った。修理実績は、道路で延べ約100km、橋は約40か所に及んだ。

平成6年ルワンダ難民救援

ルワンダ内戦により発生した難民を救援するため、医療、防疫、給水、空輸などの業務を行った。これはわが国初の人道的な国際救援活動であった。

阪神・淡路大震災(平成7年)

地震発生当初から約100日間にわたり、最大時には1日約1万9,000人の自衛隊員が災害派遣に従事した。この活動の教訓を踏まえ、各種法律の改正及び地方公共団体との連携強化など災害派遣態勢の充実が図られた。

地下鉄サリン事件(平成7年)

東京都内の地下鉄駅構内及び列車内でサリンを使用した無差別殺人事件が発生。陸上自衛隊の化学防護隊などが派遣され、霞が関や日比谷で毒性ガスの検知及び除染などを行った。

SACOの設置(平成7年)

日米両政府は沖縄県に所在する在日米軍施設・区域にかかわる諸問題を協議するため、「沖縄に関する特別行動委員会(SACO)」設置で合意した。SACOは翌8年に最終報告を取りまとめ、当時の沖縄県に所在する在日米軍施設・区域の面積の約21%を返還することに合意した。

平成10年代(1998~2007年) 弾道ミサイル、国際テロリズム。新たな脅威の高まり

平成10年代、わが国を取り巻く安全保障環境には大きな変化が生じました。特に、9.11テロをはじめとする国際テロ組織の活動が深刻なものとなり、これに加えて大量破壊兵器や弾道ミサイルの拡散が進展するなど、新たな脅威や多様な事態への対応が課題となりました。

自衛隊は、国際テロリズムに対して国際社会の一員として対処すべく、インド洋での補給活動を実施しました。

また、イラクでの人道復興支援活動などにも従事し、国際平和協力活動は、わが国防衛や公共の秩序の維持といった任務と並ぶ自衛隊の本来任務と位置づけられるようになりました。

弾道ミサイルの脅威に対しては、弾道ミサイル防衛(BMD)システムの整備に着手しました。

平成11年能登半島沖不審船事案

領海内で発見した不審船2隻に対処するため、初の海上警備行動が発令された。海自護衛艦による停船命令、警告射撃やP-3Cによる爆弾投下などを行った。その後、不審船は北朝鮮の工作船であると判断された。

平成13~19年対テロ支援活動

米国同時多発テロに対応し、国際的なテロリズムの防止・根絶のための国際社会の取組に寄与するため、補給艦、護衛艦などが派遣された。派遣部隊は、米海軍艦艇などへの補給を行った。

平成15~21年イラク人道復興支援活動

フセイン政権崩壊後のイラクの被災民の救援や復興支援などのため自衛隊が派遣され、医療、給水などの活動を行った。

平成15~16年有事関連法制成立

わが国に対する武力攻撃などへの対処に関して必要な法制として、15年に、基本法的な性格をもつ武力攻撃事態対処法など事態対処関連3法が、翌16年に、国民保護法など事態対処法制関連7法が整備された。

平成15年BMDの導入決定

大量破壊兵器や弾道ミサイルの拡散が進んだため、平成19年のペトリオットPAC-3の部隊配備開始、イージス艦のスタンダード・ミサイル(SM-3)発射試験成功により、わが国独自の弾道ミサイル防衛体制が整備された。

平成17年日米「2+2」

日米両政府は、日米両国の共通戦略目標を達成するため、日米の役割・任務・能力の具体的方向性を示すとともに、普天間飛行場の代替施設設置をキャンプ・シュワブ沖にすることなどで合意した。

平成18年北朝鮮核実験

北朝鮮は日本海に7発の弾道ミサイルを発射するとともに、初の核実験の実施を発表。このような新たな脅威に対応するため、BMDシステムの整備などの体制確立が進められた。

平成20年代(2008~2019年) 活発化する周辺国の軍事活動、未曽有の大災害。自衛隊の対応は増加の一途へ

平成20年代、中国、インドの発展に伴うパワーバランスの変化など、わが国を取り巻く安全保障環境は一層厳しさを増し、様々な安全保障上の課題や不安定要因がより顕在化・先鋭化してきました。中国の軍事活動が活発化する一方で、北朝鮮の核兵器・弾道ミサイル開発が進展し、自衛隊は、周辺海空域での警戒監視活動を常時継続的に実施するとともに、弾道ミサイル防衛部隊を展開し、不測の事態に備えるようになりました。

また、一国のみでは対応困難なグローバルな課題に対応するため、海賊対処部隊の派遣、他国軍への能力構築支援といった国際的な活動にも取り組みました。一方で、国内では、東日本大震災をはじめとする大規模災害が続発し、自衛隊は、被災者救助や生活支援に当たりました。

平成21年~現在海賊対処行動

ソマリア沖・アデン湾では海賊行為が多発・急増。わが国関係船舶を海賊行為から防護するため、海上警備行動が発令され、海自護衛艦・航空機などが派遣された。その後、海賊対処法が成立し、わが国船舶のみならず諸外国の船舶も護衛対象となった。

平成23年東日本大震災

東日本大震災は、東北地方の沿岸部を中心に壊滅的な被害を及ぼした。防衛省・自衛隊は、最大時には10万人を超える態勢で人命救助、生活支援、原子力災害への対応などにあたった。 この際、米軍は最大で人員約1万6,000名を投入するなど大規模な支援活動を行った。(「トモダチ作戦」)

平成24年~現在尖閣諸島周辺の動向の活発化

わが国政府による尖閣3島の所有権取得以降、中国公船が尖閣諸島周辺のわが国領海へ断続的に侵入するなど、中国の海軍艦艇や公船の活動が急速に拡大・活発化した。

平成24年能力構築支援の実施

相手国軍隊などが国際の平和及び地域の安定のための役割を適切に果たすことを促進し、わが国にとって望ましい安全保障環境を創出するため、能力構築支援への取組を開始した。

平成25年国家安全保障会議の創設

わが国の外交・防衛政策の司令塔として、国家安全保障会議が創設された。また、国家安全保障に関する基本方針として、わが国として初めて「国家安全保障戦略」が策定された。

平成27年新ガイドライン発表

戦後70年という節目に行われた日米「2+2」会合で、安全保障環境の変化や安保・防衛分野での日米の連携の強化などを反映し、新たな「日米防衛協力のための指針」(新ガイドライン)が発表された。

平成27年平和安全法制の成立

平和安全法制が成立し、わが国が対処すべき事態として新たに「存立危機事態」が追加されるとともに、「在外邦人等の保護措置」、「米軍等の部隊の武器等の防護」及びいわゆる「駆け付け警護」などを可能とする規定が新設された。

平成29~30年中国軍の活動拡大・活発化を示す事象

中国海軍の潜水艦が尖閣諸島周辺のわが国接続水域内を潜没航行した。中国海軍艦艇及び航空戦力は、太平洋や日本海においても軍事活動を拡大・活発化させている。

平成30年12月、新たな時代に対応するため、わが国の未来の礎となる防衛の在るべき姿についての新たな指針として、「平成31年度以降に係る防衛計画の大綱」が策定されました。

II 役割と体制

07大綱 冷戦後の情勢を踏まえ、防衛力のコンパクト化と質的向上を図り、新たな役割を追加

平成8年度以降に係る防衛計画の大綱について(平成7年11月28日、安全保障会議・閣議決定)

  • わが国が初めて防衛計画の大綱を策定したのは昭和51年。この51大綱は、東西冷戦の構造下、自らが力の空白となってわが国周辺地域における不安定要因とならないよう、独立国としての必要最小限の基盤的な防衛力を保有する考え方、すなわち「基盤的防衛力構想」を採用しました。
  • 平成に入って冷戦は終結しましたが、国際情勢は依然として不透明・不確実な要素をはらみ、また、国際貢献や災害派遣への国民の期待が高まったことを背景として、07大綱が策定されました。
  • 07大綱では、「基盤的防衛力構想」を基本的に踏襲しつつ、防衛力の合理化・効率化・コンパクト化を推進するとともに、必要な機能の充実と防衛力の質的な向上を図ることとしました。また、防衛力の役割として「わが国の防衛」に加え、「大規模災害など各種の事態への対応」及び「より安定した安全保障環境の構築への貢献」を追加しました。

16大綱新たな脅威や多様な事態への対応のため、抑止から対処を重視する方針に転換

平成17年度以降に係る防衛計画の大綱について(平成16年12月10日、安全保障会議・閣議決定)

  • 16大綱は、米国に対する9.11テロや北朝鮮の弾道ミサイル開発など、大量破壊兵器や弾道ミサイルの拡散の進展、国際テロ組織の活動などの新たな脅威や多様な事態への対応が課題となったことを背景として策定されました。
  • 16大綱では、それまでの抑止効果を重視する防衛力から対処能力を重視する方針に転換し、新たな脅威や多様な事態に実効的に対応するとともに、国際平和協力活動にも主体的かつ積極的に取り組めるよう「多機能で弾力的な実効性のある防衛力」を構築することとしました。また、「基盤的防衛力構想」の有効な部分は継承することとしました。
体制整備の主要事項

22大綱新たな安全保障環境を踏まえ、防衛力の「運用」に焦点を当てた動的防衛力を構築

平成23年度以降に係る防衛計画の大綱について(平成22年12月17日、安全保障会議・閣議決定)

  • 22大綱は、中国などの国力が増大し、グローバルなパワーバランスに変化が生じるとともに、北朝鮮や中国の軍事動向などわが国周辺の軍事情勢も複雑さを増しているといった新たな安全保障環境を踏まえて策定されました。
  • 22大綱では、防衛力の存在自体による抑止力を重視した、従来の「基盤的防衛力構想」によることなく、平素から各種の活動を適時、適切に行うことによって国家の意思や高い防衛力を示す「動的な抑止」を重視した「動的防衛力」を構築することとしました。その際、装備、人員、編成、配置などの抜本的な見直しによる思い切った効率化・合理化を図ることとしました。

25大綱厳しさを増す安全保障環境を踏まえ、統合運用による機動的な防衛力を構築

平成26年度以降に係る防衛計画の大綱について(平成25年12月17日、国家安全保障会議・閣議決定)

  • 25 大綱は、北朝鮮の核兵器・弾道ミサイル開発が重大かつ差し迫った脅威となり、中国が軍事活動を拡大・活発化するなどわが国を取り巻く安全保障環境が一層厳しさを増したことや東日本大震災での教訓などを踏まえ、わが国として初となる国家安全保障戦略とともに策定されました。
  • 25大綱では、海上優勢・航空優勢の確保など各種活動を下支えする防衛力の「質」及び「量」を必要かつ十分に確保するとともに、後方支援基盤も強化することで、統合運用によりシームレスかつ臨機に即応して機動的な活動を行う「統合機動防衛力」を構築することとしました。
体制整備の主要事項