昭和二十八年十月二十一日
条約第二十六号
(第一条約の第一条と同じ。)
(第一条約の第二条と同じ。)
(第一条約の第三条と同じ。)
この条約によって保護される者は、紛争又は占領の場合において、いかなる時であると、また、いかなる形であるとを問わず、紛争当事国又は占領国の権力内にある者でその紛争当事国又は占領国の国民でないものとする。
紛争当事国の領域内において、被保護者が個人として紛争当事国の安全に対する有害な活動を行った明白なけん疑があること又はそのような活動に従事していることを当該紛争当事国が確認した場合には、その被保護者は、この条約に基く権利及び特権でその者のために行使されれば当該紛争当事国の安全を害するようなものを主張することができない。
この条約は、第二条に定める紛争又は占領の開始の時から適用する。
締約国は、第十一条、第十四条、第十五条、第十七条、第三十六条、第百八条、第百九条、第百三十二条、第百三十三条及び第百四十九条に明文で規定する協定の外、別個に規定を設けることを適当と認めるすべての事項について、他の特別協定を締結することができる。いかなる特別協定も、この条約で定める被保護者の地位に不利な影響を及ぼし、又はこの条約で被保護者に与える権利を制限するものであってはならない。
被保護者は、この条約の適用を受ける間は、前記の協定の利益を引き続き享有する。但し、それらの協定に反対の明文規定がある場合又は紛争当事国の一方若しくは他方が被保護者について一層有利な措置を執った場合は、この限りでない。
(第一条約の第七条と同じ。)
(第一条約の第八条と同じ。)
(第一条約の第九条と同じ。)
(第一条約の第十条と同じ。)
(第一条約の第十一条と同じ。)
第二編の規定は、特に人種、国籍、宗教又は政治的意見による不利な差別をしないで、紛争当事国の住民全体に適用されるものとし、また、戦争によって生ずる苦痛を軽減することを目的とする。
締約国は平時において、紛争当事国は敵対行為の開始の時以後、自国の領域及び必要がある場合には占領地区において、傷者、病者、老者、十五歳未満の児童、妊産婦及び七歳未満の幼児の母を戦争の影響から保護するために組織される病院及び安全のための地帯及び地区を設定することができる。
紛争当事国は、次の者を差別しないで戦争の危険から避難させるための中立地帯を戦闘が行われている地域内に設定することを、直接に又は中立国若しくは人道的団体を通じて、敵国に提案することができる。
関係当事国が提案された中立地帯の地理的位置、管理、食糧の補給及び監視について合意したときは、紛争当事国の代表者は、文書による協定を確定し、且つ、これに署名しなければならない。その協定は、その地帯の中立化の開始の時期及び存続期間を定めなければならない。
傷者、病者、虚弱者及び妊産婦は、特別の保護及び尊重を受けるものとする。
各紛争当事国は、軍事上の事情が許す限り、死者及び傷者を捜索し、難船者その他重大な危険にさらされた者を救援し、並びにそれらの者をりやく奪及び虐待から保護するために執られる措置に便益を与えなければならない。
紛争当事国は、傷者、病者、虚弱者、老者、児童及び妊産婦を攻囲され、又は包囲された地域から避難させるため、並びにそれらの地域へ向うすべての宗教の聖職者、衛生要員及び衛生材料を通過させるため、現地協定を締結するように努めなければならない。
傷者、病者、虚弱者及び妊産婦を看護するために設けられる文民病院は、いかなる場合にも、攻撃してはならず、常に紛争当事国の尊重及び保護を受けるものとする。
文民病院が亨有することができる保護は、それらの病院がその人道的任務から逸脱して敵に有害な行為を行うために使用された場合を除く外、消滅しないものとする。但し、その保護は、すべての適当な場合に合理的な期限を定めた警告が発せられ、且つ、その警告が無視された後でなければ、消滅させることができない。
傷者若しくは病者たる軍隊の構成員がそれらの文民病院で看護を受けている事実又はそれらの戦闘員から取り上げられたがまだ正当な機関に引き渡されていない小武器及び弾薬の存在は、敵に有害な行為と認めてはならない。
文民病院の運営及び管理に正規にもっぱら従事する職員(傷者及び病者たる文民、虚弱者並びに妊産婦の捜索、収容、輸送及び看護に従事する者を含む。)は、尊重し、且つ、保護しなければならない。
陸上にある護送車両隊若しくは病院列車又は海上にある特別仕立の船舶で傷者及び病者たる文民、虚弱者並びに妊産婦を輸送するものは、第十八条に定める病院と同様に尊重し、且つ、保護しなければならず、また、国の同意を得て、戦地にある軍隊の傷者及び病者の状態の改善に関する千九百四十九年八月十二日のジュネーヴ条約第三十八条に定める特殊標章を掲げて表示しなければならない。
傷者及び病者たる文民、虚弱者並びに妊産婦の輸送又は衛生要員及び衛生材料の輸送にもっぱら使用される航空機は、すべての紛争当事国の間で特別に合意された高度、時刻及び路線に従って飛行している間、攻撃してはならず、尊重しなければならない。
各締約国は、他の締約国(敵国である場合を含む。)の文民のみにあてられた医療品及び病院用品並びに宗教上の行事に必要な物品からなるすべての送付品の自由通過を許可しなければならない。各締約国は、また、十五歳未満の児童及び妊産婦にあてられた不可欠の食糧品、被服及び栄養剤からなるすべての送付品の自由通過を許可しなければならない。
紛争当事国は、戦争の結果孤児となり、又はその家族から離散した十五歳未満の児童が遺棄されないこと並びにその生活、信仰の実践及び教育がすべての場合に容易にされることを確保するために必要な措置を執らなければならない。それらの者の教育は、できる限り、文化的伝統の類似する者に任せなければならない。
紛争当事国の領域又はその占領地域にあるすべての者に対しては、それらの者の家族が所在する場所のいかんを問わず、厳密に私的性質を有する消息をその家族との間で相互に伝えることができるようにしなければならない。それらの通信は、すみやかに、且つ、不当に遅延させることなく送付しなければならない。
各紛争当事国は、戦争のため離散した家族が相互に連絡を回復し、できれば再会しようとする目的で行う捜索を容易にしなければならない。各紛争当事国は、特に、この事業に従事する団体が自国にとって許容し得るものであり、且つ、その団体が自国の安全措置に従うものである限り、その団体の活動を助成しなければならない。
被保護者は、すべての場合において、その身体、名誉、家族として有する権利、信仰及び宗教上の行事並びに風俗及び習慣を尊重される権利を有する。それらの者は、常に人道的に待遇しなければならず、特に、すべての暴行又は脅迫並びに侮辱及び公衆の好奇心から保護しなければならない。
被保護者の所在は、特定の地点又は区域が軍事行動の対象とならないようにするために利用してはならない。
被保護者を権力内に有する紛争当事国は、その機関がそれらの被保護者に与える待遇については、個人に責任があるかどうかを問わず、自らその責任を負う。
被保護者は、利益保護国、赤十字国際委員会、その在留する国の赤十字社(赤新月社又は赤のライオン及び太陽社)並びに被保護者に援助を与える団体に申し立てるためのあらゆる便益を有する。
特に被保護者又は第三者から情報を得るために、被保護者に肉体的又は精神的強制を加えてはならない。
締約国は、特に、その権力内にある被保護者に肉体的苦痛を与え、又はそれらの者をみな殺しにするような性質の措置を執ることを禁止することに同意する。この禁止は、被保護者の殺害、拷問、肉体に加える罰、身体の切断及びそれらの者の医療上必要でない医学的又は科学的実験に適用されるばかりでなく、文民機関によって行われると軍事機関によって行われるとを問わず、その他の残虐な措置にも適用される。
被保護者は、自己が行わない違反行為のために罰せられることはない。集団に科する罰及びすべての脅迫又は恐かつによる措置は、禁止する。
人質は、禁止する。
紛争の開始に当り又はその期間中に紛争当事国の領域を去ることを希望するすべての被保護者は、その退去がその国の国家的利益に反しない限り、その領域を去る権利を有する。それらの者の退去の申請に対しては、正規に定める手続に従って決定しなければならず、この決定は、できる限りすみやかに行わなければならない。退去を許されたそれらの者は、その旅行に必要な金銭を所持し、及び適当な量の個人用品を携帯することができる。
前条に基き許される退去は、安全、衛生、保健及び食糧について満足すべき条件で実施しなければならない。それらに関するすべての費用は、抑留国の領域の出国地点からは目的国が負担し、中立国へ退去する場合には、利益を受ける者が属する国が負担するものとする。その移動の実施細目は、必要があるときは、関係国間の特別協定で定めることができる。
前項の規定は、紛争当事国が敵の権力内にある自国民の交換及び送還に関して特別協定を締結することを妨げるものではない。
訴訟係属中拘禁されている被保護者又は自由刑に服している被保護者は、その拘禁中人道的に待遇しなければならない。
それらの者は、釈放されたときは、直ちに、前各条に従って領域を去ることを要求することができる。
被保護者の地位は、この条約、特に、第二十七条及び第四十一条により認められる特別の措置を例外として、原則として平時における外国人に関する規定によって引き続き規律されるものとする。いかなる場合にも、被保護者に対しては、次の権利を与えなければならない。
戦争の結果収入を得る職業を失った被保護者に対しては、有給の職業につく機会を与えなければならない。その機会は、安全上の考慮及び第四十条の規定に従うことを条件として、被保護者が在留する国の国民が亨有する機会と同等のものでなければならない。
被保護者は、その在留する紛争当事国の国民と同等の程度以上には労働を強制されないものとする。
被保護者を権力内に有する国は、この条約に掲げる統制措置が不充分と認める場合においても、第四十二条及び第四十三条の規定による住居指定又は抑留の措置以上にきびしい統制措置を執ってはならない。
住居を指定する決定によって通常の住居から他の場所に移転を要求された者に対して第三十九条第二項の規定を適用するに当っては、抑留国は、できる限りこの条約の第三編第四部に定める福祉の基準に従わなければならない。
被保護者の抑留又は住居指定は、抑留国の安全がこれを絶対に必要とする場合に限り、命ずることができる。
利益保護国の代表者を通じて自発的に抑留を求める者があって、その者の事情が抑留を必要とするときは、その者を権力内に有する国は、その者を抑留しなければならない。
被保護者で抑留され、又は住居を指定されたものは、再審査のために抑留国が指定する適当な裁判所又は行政庁で、その処分についてできる限りすみやかに再審査を受ける権利を有する。抑留又は住居指定が継続される場合には、前記の裁判所又は行政庁は、事情が許すときは、原決定に対して有利な変吏をするため、定期的に且つ少くとも年に二回、各事件の審査を行わなければならない。
抑留国は、抑留され、若しくは住居を指定され、又は抑留若しくは住居指定から解放された被保護者の氏名をできる限りすみやかに利益保護国に通知しなければならない。但し、それらの者が反対した場合は、この限りでない。本条第一項に掲げる裁判所又は行政庁の決定は、同一の条件の下に、できる限りすみやかに利益保護国に通告しなければならない。
抑留国は、この条約に掲げる統制措置を適用するに当っては、事実上いずれの政府の保護をも亨有していない亡命者を、それらの者が法律上敵国の国籍を有するということのみに基いて敵性を有する外国人として取り扱ってはならない。
被保護者は、この条約の締約国以外の国に移送してはならない。
被保護者に関して執られた制限的措置は、まだ廃止されていない限り、敵対行為の終了後できる限りすみやかに廃止しなければならない。
被保護者の財産に関して執られた制限的措置は、抑留国の法令に従って、敵対行為の終了後できる限りすみやかに廃止しなければならない。
占領地域にある被保護者は、いかなる場合にも及びいかなる形においても、占領の結果その地域の制度若しくは政治にもたらされる変更、占領地域の当局と占領国との間に締結される協定又は占領国による占領地域の全部若しくは一部の併合によってこの条約の利益を奪われることはない。
領域を占領された国の国籍を有しない被保護者は、第三十五条の規定に従うことを条件として、その領域を去る権利を行使することができる。これに関する決定は、同条に基いて占領国が定める手続に従って行わなければならない。
被保護者を占領地域から占領国の領域に又は占領されていると占領されていないとを問わず他の国の領域に、個人的若しくは集団的に強制移送し、又は追放することは、その理由のいかんを問わず、禁止する。
占領国は、国又は現地の当局の協力の下に、児童の監護及び教育に充てられるすべての施設の適当な運営を容易にしなければならない。
占領国は、被保護者に対し、自国の軍隊又は補助部隊において勤務することを強制してはならない。自発的志願を行わせることを目的とする圧迫又は宣伝は、禁止する。
いかなる契約、協定又は規則も、労働者の自発的意志があるとないとを問わず、また、その者の在留する場所のいかんを問わず、利益保護国の介入を要請するため同国の代表者に申し立てる労働者の権利を害するものであってはならない。
占領国のために労働者を働かせる目的で占領地域において失業を生じさせ、又は労働者の就職の機会を制限するためのすべての措置は、禁止する。
個人的であると共同的であるとを問わず私人に属し、又は国その他の当局、社会的団体若しくは協同団体に属する不動産又は動産の占領軍による破壊は、その破壊が軍事行動によって絶対的に必要とされる場合を除く外、禁止する。
占領国は、占領地域にある公務員又は裁判官が良心に従い自己の職務の遂行を避ける場合にも、それらの公務員若しくは裁判官の身分を変更し、又は何らかの方法でそれらの者に対して制裁を加え、若しくは強制的若しくは差別的措置を執ってはならない。
この禁止は、第五十一条第二項の適用を妨げるものではない。この禁止は、公務員の職を免ずる占領国の権利に影響を及ぼすものではない。
占領国は、利用することができるすべての手段をもって、住民の食糧及び医療品の供給を確保する義務を負う。特に、占領国は、占領地域の資源が不充分である場合には、必要な食糧、医療品その他の物品を輸入しなければならない。
占領国は、利用することができるすべての手段をもって、占領地域における医療上及び病院の施設及び役務並びに公衆の健康及び衛生を、国及び現地の当局の協力の下に、確保し、且つ、維持する義務を負う。占領国は、特に、伝染病及び流行病のまん延を防止するため必要な予防措置を採用し、且つ、実施しなければならない。すべての種類の衛生要員は、その任務の遂行を許されるものとする。
占領国は、軍の傷者及び病者の看護のため緊急の必要がある場合に限り、且つ、患者の看護及び療養のため並びに文民たる住民の入院に対する要求のため適当な措置が適当な時に執られることを条件として、単に一時的にのみ文民病院を徴発することができる。
文民病院の材料及び貯蔵品は、それらが文民たる住民の要求によって必要である限り、徹発することができない。
占領国は、聖職者に対し、その者と同一の宗派に属する者に宗教上の援助を与えることを許さなければならない。
占領国は、また、宗教上の要求から必要とされる書籍及び物品からなる送付品を受領し、且つ、占領地域におけるそれらの送付品の分配を容易にしなければならない。
占領地域の住民の全部又は一部に対する物資の供給が不充分である場合には、占領国は、その住民のための救済計画に同意し、且つ、その使用することができるすべての手段によりその計画の実施を容易にしなければならない。
救済品は、第五十五条、第五十六条及び第五十九条に基く占領国の責任を免除するものではない。占領国は、いかなる形においても、救済品の指定された用途を変更してはならない。但し、緊急の必要がある場合であって、占領地域の住民の利益のためであり、且つ、利益保護国の同意を得たときは、この限りでない。
前各条に掲げる救済品の分配は、利益保護国の協力及び監督の下に行わなければならない。この任務は、また、占領国と利益保護国との間の協定によって、中立国、赤十字国際委員会又はその他の公平な人道的団体に委任することができる。
占領地域にある被保護者は、緊急の安全上の考慮に従うことを条件として、個人あての救済品を受領することを許されるものとする。
占領国が緊急の安全上の考慮から課する一時的且つ例外的措置に従うことを条件として、
同様の諸原則は、重要な公益事業を維持し、救済品を分配し、及び救援事業を組織化することによって文民たる住民の生活条件を確保することを目的として既に存在し、又は将来設立される非軍事的性質を有する特別の団体の活動及び職員に対しても、適用する。
被占領国の刑罰法令は、これらの法令が占領国の安全を脅かし、又はこの条約の適用を妨げる場合において、占領国が廃止し、又は停止するときを除く外、引き続き効力を有する。占領地域の裁判所は、このことを考慮し、且つ、裁判の能率的な運営を確保する必要を認め、前記の法令で定めるすべての犯罪行為についてその任務を引き続き行わなければならない。
もっとも、占領国は、占領地域の住民をして、自国がこの条約に基くその義務を履行し、当該地域の秩序ある政治を維持し、且つ、占領国の安全、占領軍又は占領行政機関の構或員及び財産の安全並びにそれらが使用する施設及び通信線の安全を確保することができるようにするため必要な規定に従わせることができる。
占領国が制定した刑罰規定は、住民の言語で公布し、且つ、住民に周知させた後でなければ、効力を生じない。それらの刑罰規定の効力は、そ及しないものとする。
第六十四条第二項に基き占領国が公布した刑罰規定に違反する行為があった場合には、占領国は、被疑者を占領国の正当に構成された非政治的な軍事裁判所に引き渡すことができる。但し、この軍事裁判所は、被占領国で開廷しなければならない。上訴のための裁判所は、なるべく被占領国で開廷しなければならない。
裁判所は、犯罪行為が行われる前に適用されており、且つ、法の一般原則、特に、刑罰は犯罪行為に相応するものでなければならないという原則に合致する法令の規定のみを適用しなければならない。裁判所は、被告人が占領国の国民ではないという事実を考慮に入れなければならない。
占領国を害する意思のみをもって行った犯罪行為であって、占領軍又は占領行政機関の構成員の生命又は身体に危害を加えず、重大な集団的危険を生ぜず、且つ、占領軍若しくは占領行政機関の財産又はそれらが使用する施設に対して重大な損害を与えないものを行った被保護者は、抑留又は単なる拘禁に処せられる。但し、その抑留又は拘禁の期間は、犯罪行為に相応するものでなければならない。また、抑留又は拘禁は、そのような犯罪行為に関し被保護者から自由を奪うために執る唯一の措置としなければならない。この条約の第六十六条に定める裁判所は、その裁量により、拘禁の刑を同期間の抑留の刑に変えることができる。
すべての場合において、犯罪行為について責任を問われた被保護者が裁判があるまでの間に勾留された期間は、当該被保護者に科する拘禁の本刑に通算しなければならない。
被保護者は、占領前若しくは占領の一時的中断の間に行った行為又はそれらの期間中に発表した意見のために、占領国によって逮捕され、訴追され、又は有罪とされることはない。但し、戦争の法規及び慣例に違反した場合は、この限りでない。
敵対行為の開始前に被占領国の領域内に亡命していた占領国の国民は、敵対行為の開始後に行った犯罪行為に係る場合又は敵対行為の開始前に行った普通法上の犯罪行為で被占領国の法令によれば平時において犯罪人引渡が行われるものに係る場合を除く外、逮捕され、訴追され、有罪とされ、又は占領地域から追放されることはない。
占領国の権限のある裁判所は、正式の裁判を行った後でなければ、判決を言い渡してはならない。
被告人は、防ぎょのため必要な証拠を提出する権利を有し、特に、証人の喚問を求めることができる。被告人は、自ら選任した資格のある弁護人の援助を受ける権利を有し、その弁護人は、自由に被告人を訪問することができるものとし、また、防ぎょの準備のため必要な便益を亨有する。
有罪の判決を受けた者は、裁判所が適用する法令で定める不服申立の権利を有する。その者に対しては、不服申立又は請願の権利及びこれを行使することができる期間について完全に告げなければならない。
この部に定める刑事手続は、不服申立があった場合に準用するものとする。裁判所が適用する法令が不服申立について規定していない場合には、有罪の判決を受けた者は、事実認定及び判決について、占領国の権限のある当局に請願する権利を有する。
利益保護国の代表者は、被保護者の裁判に立ち会う権利を有する。但し、例外的に占領国の安全のため裁判が非公開で行われる場合は、この限りでない。この場合には、占領国は、利益保護国にその旨を通知しなければならない。裁判の期日及び場所に関する通知書は、利益保護国に送付しなければならない。
死刑又は二年以上の拘禁の刑を含む判決は、理由を附してできる限りすみやかに利益保護国に通知しなければならない。その通知書には、第七十一条に基いて行われる通知との関係及び拘禁の刑の場合には、刑が執行される場所を記載しなければならない。それらの判決以外の判決の記録は、裁判所が保存し、且つ、利益保護国の代表者の閲覧に供しなければならない。死刑又は二年以上の拘禁の刑を含む判決の場合において許される不服申立の期間は、利益保護国が判決の通知書を受領した時から起算する。
死刑の判決を受けた者は、いかなる場合にも、特赦又は死刑の執行の停止を請願する権利を奪われないものとする。
犯罪行為の責任を問われた被保護者は、被占領国で勾留されるものとし、有罪の判決を受けた場合には、被占領国で刑に服するものとする。それらの者は、できる限り、勾留されている他の者から分離されなければならず、また、食糧及び衛生の条件については、良好な健康状態を保つに充分であり、且つ、被占領国の監獄で与えられる条件と少くとも同等である条件を亨有する。
占領地域の裁判所で犯罪行為の責任を問われ、又は有罪の判決を受けた被保護者は、占領の終了に当り、解放された地域の当局に関係記録とともに引き渡さなければならない。
占領国は、安全上の絶対的理由のために被保護者に関して安全措置を執ることが必要であると認めた場合においても、住居指定又は抑留の措置以上の措置を執ることができない。
紛争当事国は、第四十一条、第四十二条、第四十三条、第六十八条及び第七十八条の規定による場合を除く外、被保護者を抑留してはならない。
被抑留者は、完全な私法七の行為能力を保持し、且つ、その行為能力に伴う権利で被抑留者としての地位と矛盾しないものを行使するものとする。
被保護者を抑留する紛争当事国は、無償で、それらの者を給養し、及びその健康状態に必要な医療をそれらの者に提供しなければならない。
抑留国は、被抑留者をできる限りその国籍、言語及び習慣に応じて収容しなければならない。同一国の国民である被抑留者は、言語が異なるという理由だけで分離してはならない。
抑留国は、戦争の危険に特にさらされている地区に収容所を設けてはならない。
被抑留者は、捕虜及び他の何らかの理由で自由を奪われている者と分離して収容し、且つ、管理しなければならない。
抑留国は、被保護者を、その抑留の開始の時から、衛生上及び保健上のすべての保障を与え、且つ、気候のきびしさ及び戦争の影響に対する有効な保護を与える建物又は区画に収容することを確保するため、必要且つ可能なすべての措置を執らなければならない。いかなる場合にも、常股的な収容所は、不健康な地域又は気候が被抑留者にとって有害である地域に設けてはならない。被保護者が一時的に抑留されている地域が不健康地であるか、又はその地域の気候がその者の健康にとって有害である場合には、当該被保護者は、事情が許す限りすみやかに一層適当な収容所に移さなければならない。
抑留国は、被抑留者に対し、その宗派のいかんを問わず、宗教的儀式を行うための適当な場所を自由に使用させなければならない。
すべての収容所には、他の適当な便益を利用することができる場合を除く外、酒保を設備しなければならない。酒保は、被抑留者が個人的の福祉及び慰安を増進するような食糧品及び日用品(石けん及びたばこを含む。)を現地の市場価格より高くない価額で買うことができるようにすることを目的とする。
空襲その他の戦争の危険にさらされているすべての収容所には、必要な保護を確保するため適当な数及び構造の避難所を設備しなければならない。警報があった場合には、被抑留者は、前記の危険から宿舎を防護するために残存する者を除く外、できる限りすみやかに避難所に入ることができる。住民のために執る防護措置は、被抑留者にも適用しなければならない。
収容所では、火災の危険に対して適切なすべての予防措置を執らなければならない。
被抑留者の毎日の食糧配給の量、質及び種類は、それらの者を良好な健康状態に維持し、且つ、栄養不良を防止するのに充分なものでなければならない。被抑留者の食習慣も、また、考慮に入れなければならない。
被抑留者は、抑留されたときは、必要な被服、はき物及び着替の下着を携行し、且つ、その後必要が生じた場合にそれらを入手するため、すベての便益を与えられるものとする。被抑留者が、気候に対して充分な被服を所持せず、且つ、これを入手することができない場合には、抑留国は、それらの者に被服を無償で与えなければならない。
各収容所には、資格のある医師の指揮の下に置かれ、且つ、被抑留者が必要とする治療及び適当な食事を受けることができる適当な病舎を備えなければならない。伝染病及び精神病にかかった患者のために隔離室を設けなければならない。
被抑留者の身体検査は、少くとも月に一回行わなければならない。その検査は、特に、被抑留者の健康、栄養及び清潔状態の一般的状態を監視し、並びに伝染病、特に結核、マラリア及び性病を検出する”ことを目的としなければならない。その検査は、特に、各被抑留者の体重の測定及び少くとも年に一回のエックス線による検診を含むものとする。
被抑留者は、抑留当局が定める日常の紀律に従うことを条件として、自己の宗教上の義務の履行(自己の宗教の儀式に出席することを含む。)について完全な自由を亨有する。
抑留国は、被抑留者の知的、教育的及び娯楽的活動並びに運動競技を奨励しなければならない。但し、それらの活動及び競技に参加するかどうかは、被抑留者の自由に任さなければならない。抑留国は、特に適当な場所を提供して、被抑留者がそれらの活動及び競技をするため可能なすべての措置を執らなければならない。
抑留国は、被抑留者が希望しない限り、それらの者を労働者として使用してはならない。抑留されていない被保護者に強制的に課せられればこの条約の第四十条又は第五十一条の違反を構成するような労働及び品位を傷つけるような又は屈辱的な性質を有する労働は、いかなる場合にも、禁止する。
すべての労働分遣所は、収容所の一部とされ、且つ、これに従属するものとする。抑留国の権限のある当局及び収容所長は、当該労働分遣所におけるこの条約の規定の遵守について責任を負う。収容所長は、その収容所に所属する労働分遣所の最新の表を保管し、また、その収容所を訪問することがある利益保護国、赤十字国際委員会又はその他の人道的団体の代表にその表を送付しなければならない。
被抑留者は、個人用品を保持することを許されるものとする。被抑留者が所持する金銭、小切手、証券等及び有価物は、正規の手続による場合を除く外、取り上げることができない。取り上げた物に対しては、詳細な受取証を発給しなければならない。
すべての被抑留者は、たばこ、化粧用品等の物品を購入するために充分な手当を定期的に支給されるものとする。その手当の支払は、勘定への貸記又は購入券の形によって行うことができる。
各収容所は、抑留国の正規の軍隊又は行政庁から選ばれた責任のある将校又は公務員の指揮下に置かなければならない。収容所を指揮する将校又は公務員は、自国の公用語(公用語が二以上あるときは、そのうちの一)で書かれたこの条約の謄本を所持し、且つ、この条約の適用について責任を負わなければならない。被抑留者を監督する職員は、この条約及びその適用を確保するため執られる行政措置の諸規定について教育を受けるものとする。
収容所における紀律制度は、人道の原則に合致するものでなければならず、且つ、いかなる場合にも、被抑留者に対しその健康に危険な肉体疲労を与え、又は肉体的若しくは精神的苦痛を伴う規定を含むものであってはならない。入墨による識別又は身体に対する記号若しくは標示の押印による識別は、禁止する。
特に、長時間にわたる直立及び点呼、懲戒のための訓練、軍事的訓練及び演習並びに食糧配給量の減配は、禁止する。
被抑留者は、自己を権力内に有する当局に対し、抑留条件に関する要請を申し立てる権利を有する。
被抑留者は、すべての収容所において、抑留国、利益保護国、赤十字国際委員会及び被抑留者を援助するその他の団体に対して被抑留者を代表する権限を与えられる被抑留者委員会の委員を、六箇月ごとに自由に秘密投票で選挙しなければならない。その被抑留者委員会の委員は、再選されることができる。
こうして選挙された被抑留者は、その選挙について抑留当局の承認を受けた後、その任務につくものとする。承認の拒否又は免職の理由は、関係利益保護国に通知しなければならない。
被抑留者委員会は、被抑留者の肉体的、精神的及び知的福祉のために貢献しなければならない。
特に、被抑留者がその相互の間で相互扶助の制度を組織することに決定した場合には、この組織は、この条約の他の規定に基いて被抑留者委員会に委任される特別の任務とは別に、被抑留者委員会の権限に属するものとする。
被抑留者委員会の委員に対しては、その任務の遂行が他の労働によって一層困難となるときは、他の労働を強制してはならない。
抑留国は、被保護者を抑留したときは、直ちに、被保護者の本国及び利益保護国に対し、本章の規定を実施するために執る措置を通知しなければならない。抑留国は、その措置が後に変更されたときは、その変更についても同様に前記の関係者に通知しなければならない。
各被抑留者に対しては、その者が、抑留された時直ちに、又は収容所に到着した後遅くとも一週間以内に、また、病気になった場合又は他の収容所若しくは病院に移動された場合にもその後一週間以内に、その家族及び第百四十条に定める中央被保護者情報局に対し、抑留された事実、あて名及び健康状態を通知する葉書を直接に送付することができるようにしなければならない。その葉書は、なるべくこの条約の附属のひな型と同様の形式のものでなければならない。その葉書は、できる限りすみやかに送付するものとし、いかなる場合にも、遅延することがあってはならない。
被抑留者に対しては、手紙及び葉書を送付し、及び受領することを許さなければならない。抑留国が、各被抑留者の発送する手紙及び葉書の数を制限することを必要と認めた場合には、その数は、毎月、手紙二通及び葉書四通より少いものであってはならない。それらの手紙及び葉書は、できる限りこの条約の附属のひな型と同様の形式で作成しなければならない。被抑留者にあてた通信が制限されなければならない場合には、その制限は、通常抑留国の要請に基いて、被抑留者の本国のみが命ずることができる。前記の手紙及び葉書は、適当な期間内に発送するものとし、懲戒の理由で、遅延させ、又は留置してはならない。
被抑留者に対しては、特に、食糧、被服、医療品、書籍及び被抑留者の必要を満たす宗教、教育又は娯楽用物品を内容とする個人又は集団あての荷物を郵便その他の径路により受領することを許さなければならない。それらの荷物は、抑留国に対し、この条約で抑留国に課せられる義務を免除するものではない。
集団あての救済品の受領及び配分の条件に関して紛争当事国間に特別協定がない場合には、この条約に附属する集団的救済に関する規則を適用しなければならない。
被抑留者のためのすべての救済品は、輸入税、税関手数料その他の課徴金を免除される。
軍事行動のため、関係国が第百六条、第百七条、第百八条及び第百十三条に定める郵便及び救済品の輸送を確保する義務を遂行することができなかった場合には、関係利益保護国、赤十字国際委員会又は紛争当事国が正当に承認したその他の団体は、適当な輸送手段(鉄道車両、自動車、船舶、航空機等)によりその郵便及び救済品を伝達することを確保するように企画することができる。このため、締約国は、それらのものに前記の輸送手段を提供することに努め、且つ、特に、必要な安導券を与えて輸送手段の使用を許さなければならない。
被抑留者にあてられ、又は被抑留者が発送する通信の検閲は、できる限りすみやかに行わなければならない。
抑留国は、被抑留者にあてられ、又は被抑留者が発送する遺言状、委任状その他の文書が利益保護国若しくは第百四十条に定める中央被保護者情報局を通じて又はその他必要な方法で伝達されるように、すべての適当な便益を提供しなければならない。
抑留国は、いかなる場合にも、前記の文書の妥当且つ適法な様式による作成及び認証について被抑留者に便益を与えなければならない。特に、抑留国は、被抑留者が法律家に依頼することを許さなければならない。
抑留国は、被抑留者に対し、抑留条件及び適用がある法令に違反しない限り、その財産を管理することができるようにすべての便益を与えなければならない。抑留国は、このため、緊急の場合において事情が許すときは、被抑留者に収容所を離れることを許すことができる。
抑留国は、被抑留者が裁判所における訴訟当事者であるすベての場合において、その者の要請があったときは、当該裁判所にその抑留の事実を通知しなければならず、また、その被抑留者が、抑留されているという理由で、その訴訟事件の準備及び進行に関し又は裁判所の判決の執行に関して何らの不利益をも被ることがないようにするため必要なすべての措置を執ることを法令の範囲内で確保しなければならない。
各被抑留者は、定期的に、できる限りしばしば、訪問、特にその近親者の訪問を受けることを許されるものとする。
各被抑留者は、緊急の場合、特に、近親者が死亡したとき、又は重病のときは、できる限り帰宅を許されるものとする。
被抑留者が抑留されている領域内で施行されている法令は、本章の規定に従うことを条件として、抑留中に違反行為を行った被抑留者に対して引き続き適用する。
裁判所又は当局は、刑罰を決定するに当っては、被告人が抑留国の国民ではないという事実をできる限り考慮に入れなければならない。裁判所又は当局は、被抑留者が訴追された違反行為に関して定める刑罰を自由に減軽することができるものとし、従って、このためには、所定の最も軽い刑罰にかかわりなく刑罰を科することができる。
被抑留者に対して科することができる懲戒罰は、次のものとする。
逃走し、又は逃走を企てた被抑留者で再び捕えられたものに対しては、その行為が重ねて行われたものであるとないとを問わず、その行為については懲戒罰のみを科することができる。
逃走又は逃走の企図は、その行為が重ねて行われたものであるとないとを問わず、被抑留者が逃走中に行った犯罪行為について訴追されたときに刑を加重する情状と認めてはならない。
紛争当事国は、被抑留者の違反行為について、特に、逃走が成立したかどうかを問わず逃走に関連して行われた行為について、懲戒罰を科するか又は刑罰を科するかを決定するに当っては、権限のある当局が寛容を示すことを確保しなければならない。
紀律に対する違反行為を構成する行為は、直ちに調査しなければならない。この規定は、特に、逃走又は逃走の企図について適用する。再び捕えられた被抑留者は、権限のある当局にできる限りすみやかに引き渡さなければならない。
懲戒罰は、収容所長又はその代理をし、若しくはその懲戒権を委任される責任のある将校若しくは公務員のみが、言い渡すことができる。但し、裁判所及び上級の当局の権限を害するものではない。
被抑留者は、いかなる場合にも、懲治施設(監獄、懲治所、徒刑場等)に移動して懲戒罰に服させてはならない。
懲戒罰に服する被抑留者に対しては、一日に少くとも二時間、運動し、及び戸外にあることを許さなければならない。
第七十一条から第七十六条までの規定は、抑留国の領域内にある被抑留者に対する司法手続に準用する。
被抑留者の移動は、常に人道的に行わなければならない。その移動は、原則として、鉄道その他の輸送手段によって、少くとも抑留国の軍隊の移駐の条件と同等の条件で行わなければならない。移動を例外的に徒歩で行わなければならない場合において、被抑留者の健康状態がその移動に適していないときは、その移動は、行ってはならず、また、いかなる場合にも、被抑留者を過度に疲労させるものであってはならない。
移動の場合には、被抑留者に対し、その出発及び新たな郵便用あて名について正式に通知しなければならない。その通知は、被抑留者がその荷物を準備し、及びその家族に通報することができるように、充分に早く与えなければならない。
被抑留者の遺言書は、安全に保管するため貴任のある当局が受理するものとし、被抑留者が死亡した場合には、当該被抑留者があらかじめ指定した者に遅滞なく送付しなければならない。
抑留当局は、抑留されている間に死亡した被抑留者ができる限りその属する宗教の儀式に従って丁重に埋葬されること並びにその墓が尊重され、適当に維持され、及びいつでも識別することができるように標示されることを確保しなければならない。
被抑留者の死亡又は重大な傷害で衛兵、他の被抑留者その他の者に起因し、又は起因した疑があるもの及び被抑留者の原因不明の死亡については、抑留国は、直ちに公の調査を行わなければならない。
抑留国は、各被抑留者についてその抑留を必要とする原因が存在しなくなったときは、それらの被抑留者を直ちに解放しなければならない。
紛争当事国は、また、敵対行為の期間中に、特定の種類の被抑留者、特に、児童、妊産婦、幼児及び児童の母、傷者及び病者並びに長期間抑留されていた被抑留者の解放、送還、居住地への復帰又は中立国における入院のための協定を締結するように努めなければならない。
抑留は、敵対行為の終了後できる限りすみやかに禁止しなければならない。
締約国は、敵対行為又は占領の終了に当り、すベての被抑留者がその最後の居住地に復帰することを確保し、又はそれらの者の送還を容易にするように努めなければならない。
抑留国は、解放された被抑留者が抑留された時に居住していた場所に復帰するための費用又は、抑留国がそれらの者を旅行中に若しくは公海で捕えた場合には、それらの者が旅行を完了し、若しくはその出発地点に復帰するための費用を負担しなければならない。
各紛争当事国は、紛争の開始の際及び占領のあらゆる場合に、その権力内にある被保護者に関する情報の受領及び伝達について責任を負う公の情報局を設置しなければならない。
各紛争当事国は、二週間をこえて捕えられ、住居を指定され、又は抑留されているすべての被保護者に関して執った措置について、自国の被保護者情報局に対しできる限りすみやかに情報を提供しなければならない。各紛争当事国は、また、自国の諸関係機関に対し、被保護者に関するすべての異動(たとえば、移動、解放、送還、逃走、入院、出生、死亡等)に関する情報をすみやかに前記の被保護者情報局に提供するように要求しなければならない。
各国の被保護者情報局は、利益保護国及び第百四十条に定める中央被保護者情報局の仲介により、被保護者の本国又はそれらの者がその領域内に居住していた国に対し、被保護者に関する情報を最もすみやかな方法で直ちに通知しなければならない。被保護者情報局は、また、被保護者に関し受領するすべての問合せに回答しなければならない。
被保護者情報局が受領し、及び伝達する情報は、被保護者の身元を正確に識別し、及び近親者にすみやかに了知させることを可能にするような性質のものでなければならない。各被保護者についての情報は、少くとも氏名、出生地及び生年月日、国籍、最後の居住地、特徴、父の名及び母の旧姓、本人に関して執られた措置の日付、場所及び性質、被抑留者に対する通信を送付すべきあて名並びに通知を受ける者の氏名及びあて名を含むものでなければならない。
同様に、重病又は重傷の被抑留者の健康状態に関する情報も、定期的に、可能なときは毎週、提供しなければならない。
各国の被保護者情報局は、更に、第百三十六条に掲げる被保護者、特に、送還され、若しくは解放された被保護者又は逃走し、若しくは死亡した被保護者が残したすべての個人的な有価物の収集について責任を負うものとし、また、その有価物を、直接に又は必要がある場合には中央被保護者情報局を通じて、関係者に送付しなければならない。被保護者情報局は、それらの有価物を封印袋で送付しなければならない。その封印袋には、それらの有価物を所持していた者を識別するための明確且つ完全な明細書及び内容の完全な目録を付さなければならない。それらのすべての有価物の受領及び発送については、詳細に記録して置かなければならない。
被保護者(特に、被抑留者)に関する中央被保護者情報局は、中立国に設置する。赤十字国際委員会は、必要と認める場合には、関係国に対し、中央被保護者情報局を組織することを提案しなければならない。中央被保護者情報局は、捕虜の待遇に関する千九百四十九年八月十二日のジュネーヴ条約第百二十三条に定める中央捕虜情報局と同一のものとすることができる。
各国の被保護者情報局及び中央被保護者情報局は、すべての郵便料金の免除及び第百十条に定める免除を受けるものとし、更に、できる限り電報料金の免除又は少くともその著しい減額を受けるものとする。
抑留国は、その安全を保障し、又はその他合理的な必要を満たすために肝要であると認める措置を留保して、宗教団体、救済団体その他被保護者に援助を与える団体の代表者及びその正当な委任を受けた代理人に対し、被保護者の訪問、出所のいかんを問わず宗教的、教育的又は娯楽的目的に充てられる救済用の需品及び物資の被保護者に対する分配並びに収容所内における被保護者の余暇の利用の援助に関してすべての必要な便益を与えなければならない。前記の団体は、抑留国の領域内にも、また、その他の国にも設立することができる。また、前記の団体には、国際的性質をもたせることができる。
利益保護国の代表者又は代表は、被保護者がいるすべての場所、特に、収容、拘禁及び労働の場所に行くことを許されるものとする。
締約国は、この条約の原則を自国のすべての住民に知らせるため、平時であると戦時であるとを問わず、自国においてこの条約の本文をできる限り普及させること、特に、軍事教育及びできれば非軍事教育の課目中にこの条約の研究を含ませることを約束する。
戦時において被保護者について責任を負う文民の当局、軍当局、警察当局その他の当局は、この条約の本文を所持し、及び同条約の規定について特別の教育を受けなければならない。
(第一条約の第四十八条と同じ。)
(第一条約の第四十九条と同じ。)
前条にいう重大な違反行為とは、この条約が保護する人又は物に対して行われる次の行為、すなわち、殺人、拷問若しくは非人道的待遇(生物学的実験を含む。)、身体若しくは健康に対して故意に重い苦痛を与え、若しくは重大な傷害を加えること、被保護者を不法に追放し、移送し、若しくは拘禁すること、被保護者を強制して敵国の軍隊で服務させること、この条約に定める公正な正式の裁判を受ける権利を奪うこと、人質によること又は軍事上の必要によって正当化されない不法且つし意的な財産の広はんな破壊若しくは懲発を行うことをいう。
(第一条約の第五十一条と同じ。)
(第一条約の第五十二条と同じ。)
(第一条約の第五十三条と同じ。)
本日の日付を有するこの条約は、千九百四十九年四月二十一日にジュネーヴで開かれた会議に代表者を出した国に対し、千九百五十年二月十二日までその署名のため開放される。
(第一条約の第五十七条と同じ。)
(第一条約の第五十八条と同じ。)
千八百九十九年七月二十九日又は千九百七年十月十八日の陸戦の法規及び慣例に関するヘーグ条約によって拘束されている国でこの条約の締約国であるものの間の関係においては、この条約は、それらのヘーグ条約に附属する規則の第二款及び第三款を補完するものとする。
(第一条約の第六十条と同じ。)
(第一条約の第六十一条と同じ。)
(第一条約の第六十二条と同じ。)
(第一条約の第六十三条と同じ。)
(第一条約の第六十四条と同じ。)