国家防衛戦略
Ⅴ 将来の自衛隊の在り方

1 7つの重視分野における自衛隊の役割

 防衛力の抜本的強化に当たって重視する能力の7つの分野において、各自衛隊は以下の役割を担う。

 スタンド・オフ防衛能力については、侵攻してくる艦艇や上陸部隊に対し、脅威圏外から多様な対処を行い得るよう、各自衛隊は、車両、艦艇、航空機からのスタンド・オフ・ミサイル発射能力を必要十分な数量整備する。

 統合防空ミサイル防衛能力については、海上自衛隊の護衛艦が上層、陸上自衛隊及び航空自衛隊の地対空誘導弾が下層における迎撃を担うことを基本として、極超音速兵器等の将来の経空脅威への対応能力を強化する。また、各自衛隊は、スタンド・オフ防衛能力等を反撃能力として活用する。

 無人アセット防衛能力については、各自衛隊は、各々の任務分担に従い、既存部隊の見直しを進めつつ、航空・海上・水中・陸上の無人アセット防衛能力を大幅に強化する。

 領域横断作戦のうち、宇宙領域では、航空自衛隊においてSDA能力を始めとする各種機能を強化する。サイバー領域では、防衛省・自衛隊として我が国全体のサイバーセキュリティ強化に貢献するため、自衛隊全体で強化を図り、特に、陸上自衛隊が人材育成等の基盤拡充の中核を担っていくこととする。電磁波領域については、各自衛隊において、電子戦装備を取得・増強し、電磁波を活用した欺まん装備の導入等を推進する。また、我が国周辺国等の通常戦力の急速な増強を踏まえ、これらの領域における能力と連携して領域横断作戦を展開する各自衛隊の装備品の質・量の強化も引き続き行う。

 指揮統制・情報関連機能については、各自衛隊の情報収集能力の強化、収集した情報に基づく意思決定の迅速化、指揮命令を確実に行い得るネットワークの整備等を行う。また、スタンド・オフ・ミサイルの運用に必要なISRTを含む情報本部の情報機能を抜本的に強化するとともに、指揮統制機能との連携を強化する。

 機動展開能力・国民保護については、我が国への侵攻が想定される事態において、島嶼部等への部隊の展開を迅速に行うため、陸上自衛隊は中型・小型船舶等を、海上自衛隊は輸送艦等を、航空自衛隊は輸送機等を確保することにより、機動・展開能力を強化する。陸上自衛隊においては、沖縄における国民保護をも目的として、部隊強化を含む体制強化を図る。

 持続性・強靱性については、一連の任務遂行を持続的に行うため、各自衛隊は、平素より弾薬・燃料及び可動装備品を必要数確保するとともに、能力発揮の基盤となる防衛施設の抗たん性を強化させる。

2 自衛隊の体制整備の考え方

 以上のような7つの分野における役割を踏まえ、統合運用体制並びに各自衛隊及び情報本部の体制は、次のような基本的考え方により整備を行う。

 統合運用の実効性を強化するため、既存組織の見直しにより、陸海空自衛隊の一元的な指揮を行い得る常設の統合司令部を創設する。また、統合運用に資する装備体系の検討を進める。

 陸上自衛隊は、領域横断作戦能力の強化及び利点の多い地上発射型スタンド・オフ防衛能力の強化による遠方からの侵攻部隊の阻止、持続性・強靱性の保持、南西地域の島嶼部への迅速かつ分散した機動展開能力の強化、無人アセットの導入、ドローン等への対処を含む統合防空ミサイル防衛能力の向上、分散展開した部隊に必要なシステムを含む指揮統制・情報関連機能を重視した体制を整備する。

 海上自衛隊は、近年のミサイルの脅威の高まり等を踏まえ、防空能力の強化及び省人化・無人化の推進、情報戦能力の強化、水中優勢の確保、スタンド・オフ防衛能力の強化、洋上後方支援能力の強化、持続性・強靱性の確保を重視し、高い迅速性と活動量を求められる部隊運用を持続的に遂行可能な体制を整備する。特に、領域横断作戦の中でも重要な水中優勢を獲得・維持し得る体制を整備することとする。

 航空自衛隊は、高脅威環境下における強靱かつ柔軟な運用による粘り強い任務遂行のため、航空防衛力の質・量の見直し・強化、効果的なスタンド・オフ防衛能力の保持、実効的なミサイル防空態勢の確保、各種無人アセットの導入に必要な体制を整備する。また、宇宙作戦能力を強化し、宇宙利用の優位性を確保し得る体制を整備することにより、航空自衛隊を航空宇宙自衛隊とする。

 情報本部は、電波情報、画像情報、人的情報、公刊情報等の収集・分析に加え、我が国の防衛における情報戦対応の中心的な役割を担うこととし、他国の軍事活動等を常時継続的かつ正確に把握し、分析・発信する能力を抜本的に強化する。さらに、領域横断作戦能力の強化及びスタンド・オフ防衛能力の強化に併せ、既存の体制を強化するとともに、関係する他機関との協力・連携を切れ目なく実施できるように強化する。

 防衛省・自衛隊においては、能動的サイバー防御を含むサイバー安全保障分野に係る政府の取組も踏まえつつ、我が国全体のサイバーセキュリティに貢献する体制を抜本的に強化することとする。

3 政策立案機能の強化

 自衛隊が能力を十分に発揮し、厳しさ、複雑さ、スピード感を増す戦略環境に対応するためには、宇宙・サイバー・電磁波の領域を含め、戦略的・機動的な防衛政策の企画立案が必要とされており、その機能を抜本的に強化していく。この際、有識者から政策的な助言を得るための会議体を設置する。また、自衛隊の将来の戦い方とそのために必要な先端技術の活用・育成・装備化について、関係省庁や民間の研究機関、防衛産業を中核とした企業との連携を強化しつつ、戦略的な観点から総合的に検討・推進する態勢を強化する。さらに、こうした取組を推進し、政策の企画立案を支援するため、防衛研究所を中心とする防衛省・自衛隊の研究体制を見直し・強化し、知的基盤としての機能を強化する。