国家防衛戦略
Ⅲ 我が国の防衛の基本方針

 我が国の防衛の根幹である防衛力は、我が国の安全保障を確保するための最終的な担保であり、我が国に脅威が及ぶことを抑止するとともに、脅威が及ぶ場合には、これを阻止・排除し、我が国を守り抜くという意思と能力を表すものである。

 この防衛力については、我が国は戦後一貫して節度ある効率的な整備を行うものとしてきた。特に、1976年の「防衛計画の大綱について」(昭和51年10月29日国防会議決定及び閣議決定)策定以来、我が国が防衛力を保持する意義は、特定の脅威に対抗するというよりも、我が国自らが力の空白となって我が国周辺地域における不安定要因とならないことにあるとされてきた。

 冷戦終結後、自衛隊の役割と任務は、国内外での大規模災害等への対応や国際平和協力活動等に拡大され、様々な事態に対応するものとされた。また、2010年の「平成23年度以降に係る防衛計画の大綱について」(平成22年12月17日安全保障会議決定及び閣議決定)では防衛力の存在自体による抑止効果を重視した「基盤的防衛力構想」によらないこととされ、さらに、2013年の「平成26年度以降に係る防衛計画の大綱について」(平成25年12月17日国家安全保障会議決定及び閣議決定)では、厳しさを増す安全保障環境を現実のものとして見据え、真に実効的な防衛力を構築することとし、防衛力を強化してきた。しかしながら、我が国周辺国等は、その後も、軍事的な能力の大幅な強化に加え、ミサイル発射や軍事的示威活動を急速に拡大・活発化させており、我が国と地域の安全保障を脅かしている。

 今後、こうした活動のエスカレーションに伴って、いついかなる形で意思が変わり、力による一方的な現状変更が起こるのか予測が極めて困難な状況にある。一旦、力による一方的な現状変更が起こると、極めて甚大な人的・物的被害が発生するとともに、地域のみならず世界の経済・金融・エネルギー・海上交通・航空交通等が混乱し、人々の日常生活に大きな影響を与えることは、ロシアによるウクライナ侵略から明らかである。

 このようなことから、今後の防衛力については、相手の能力と戦い方に着目して、我が国を防衛する能力をこれまで以上に抜本的に強化するとともに、新たな戦い方への対応を推進し、いついかなるときも力による一方的な現状変更やその試みは決して許さないとの意思を明確にしていく必要がある。こうした努力は、我が国一国でなし得るものではなく、同盟国・同志国等と緊密に協力・連携して実施していく必要がある。このため、本戦略において、我が国の防衛目標を明確にした上で、防衛目標を達成するためのアプローチと具体的な手段を示し、あらゆる努力を統合して実施していく必要がある。

○ 我が国の防衛目標は以下のとおり。

 第一の目標は、力による一方的な現状変更を許容しない安全保障環境を創出することである。

 第二の目標は、我が国の平和と安全に関わる力による一方的な現状変更やその試みについて、我が国として、同盟国・同志国等と協力・連携して抑止することである。また、これが生起した場合でも、我が国への侵攻につながらないように、あらゆる方法により、これに即応して行動し、早期に事態を収拾することである。

 第三の目標は、万が一、抑止が破れ、我が国への侵攻が生起した場合には、その態様に応じてシームレスに即応し、我が国が主たる責任をもって対処し、同盟国等の支援を受けつつ、これを阻止・排除することである。

 また、核兵器の脅威に対しては、核抑止力を中心とする米国の拡大抑止が不可欠であり、第一から第三までの防衛目標を達成するための我が国自身の努力と、米国の拡大抑止等が相まって、あらゆる事態から我が国を守り抜く。

○ 防衛目標を実現するためのアプローチは以下のとおりであり、それぞれのアプローチの中で具体的な手段を示すものとする。

 第一のアプローチは、我が国自身の防衛体制の強化として、我が国の防衛の中核となる防衛力を抜本的に強化するとともに、国全体の防衛体制を強化することである。

 第二のアプローチは、同盟国である米国との協力を一層強化することにより、日米同盟の抑止力と対処力を更に強化することである。

 第三のアプローチは、自由で開かれた国際秩序の維持・強化のために協力する同志国等との連携を強化することである。

1 我が国自身の防衛体制の強化

 我が国を守り抜くのは我が国自身の努力にかかっていることは言うまでもない。自らの国は自らが守るという強い意思と努力があって初めて、いざというときに同盟国等と共に守り合い、助け合うことができる。このため、第一のアプローチとして、防衛力の抜本的強化を中核として、国力を統合した我が国自身の防衛体制を今まで以上に強化していく。

  1.  我が国の防衛力の抜本的強化
     我が国の安全保障を最終的に担保する防衛力については、これまで、想定される各種事態に真に実効的に対処し、抑止できるものを目指してきた。具体的には、2018年の「平成31年度以降に係る防衛計画の大綱について」(平成30年12月18日国家安全保障会議決定及び閣議決定)において、平時から有事までのあらゆる段階における活動をシームレスに実施できるよう、宇宙・サイバー・電磁波の領域と陸・海・空の領域を有機的に融合させつつ、統合運用により機動的・持続的な活動を行い得る多次元統合防衛力を構築してきた。
     国際社会が戦後最大の試練の時を迎える中で、相手の能力と新しい戦い方を踏まえ、想定される各種事態への対応について、能力評価等を通じた分析により将来の防衛力の在り方を検討してきた。こうしたことも踏まえつつ、力による一方的な現状変更やその試みから、今後も国民の命と平和な暮らしを守っていくため、これまでの多次元統合防衛力を抜本的に強化し、その努力を更に加速して進めていく。
     防衛力の抜本的強化の基本的考え方は以下のとおりである。
    1.  まず、抜本的に強化された防衛力は、防衛目標である我が国自体への侵攻を我が国が主たる責任をもって阻止・排除し得る能力でなくてはならない。これは相手にとって軍事的手段では我が国侵攻の目標を達成できず、生じる損害というコストに見合わないと認識させ得るだけの能力を我が国が持つことを意味する。さらに、我が国に対する侵攻を阻止・排除できる防衛力を我が国が保有できれば、同盟国たる米国の能力と相まって、我が国への侵攻のみならず、インド太平洋地域における力による一方的な現状変更やその試みを抑止でき、ひいてはそれを許容しない安全保障環境を創出することにつながる。
    2.  さらに、抜本的に強化された防衛力は、我が国への侵攻を抑止できるよう、常続的な情報収集・警戒監視・偵察(ISR)や事態に応じて柔軟に選択される抑止措置(FDO)としての訓練・演習等に加え、対領空侵犯措置等を行い、かつ事態にシームレスに即応・対処できる能力でなければならない。
       これを実現するためには、部隊の活動量が増える中であっても、自衛隊員の能力や部隊の練度向上に必要な訓練・演習等を十分に実施できるよう、内外に訓練基盤を確保し、柔軟な勤務態勢を構築すること等により、高い即応性・対処力を保持した防衛力を構築する必要がある。
    3.  次に、抜本的に強化された防衛力は新しい戦い方に対応できるものでなくてはならない。領域横断作戦、情報戦を含むハイブリッド戦、ミサイルに対する迎撃と反撃といった多様な任務を統合し、米国と共同して実施していく必要がある。このため、国家安全保障戦略、本戦略及び防衛力整備計画に示された方針、さらにこれらと整合された統合的な運用構想により、我が国の防衛上必要な機能・能力を導き、その能力を陸上自衛隊・海上自衛隊・航空自衛隊のいずれが保有すべきかを決めていく。
    4.  上記ウの我が国の防衛上必要な機能・能力として、まず、我が国への侵攻そのものを抑止するために、遠距離から侵攻戦力を阻止・排除できるようにする必要がある。このため、「スタンド・オフ防衛能力」と「統合防空ミサイル防衛能力」を強化する。
       また、万が一、抑止が破れ、我が国への侵攻が生起した場合には、これらの能力に加え、有人アセット、さらに無人アセットを駆使するとともに、水中・海上・空中といった領域を横断して優越を獲得し、非対称的な優勢を確保できるようにする必要がある。このため、「無人アセット防衛能力」、「領域横断作戦能力」、「指揮統制・情報関連機能」を強化する。
       さらに、迅速かつ粘り強く活動し続けて、相手方の侵攻意図を断念させられるようにする必要がある。このため、「機動展開能力・国民保護」、「持続性・強靱性」を強化する。
    5.  このような防衛力の抜本的強化は、いついかなる形で力による一方的な現状変更が生起するか予測困難であることから、速やかに実現していく必要がある。
       具体的には、5年後の2027年度までに、我が国への侵攻が生起する場合には、我が国が主たる責任をもって対処し、同盟国等の支援を受けつつ、これを阻止・排除できるように防衛力を強化する。さらに、おおむね10年後までに、この防衛目標をより確実にするため更なる努力を行い、より早期かつ遠方で侵攻を阻止・排除できるように防衛力を強化する。
       今後5年間の最優先課題は、現有装備品を最大限有効に活用するため、可動率向上や弾薬・燃料の確保、主要な防衛施設の強靱化への投資を加速するとともに、将来の中核となる能力を強化することである。
       この防衛力の構築は、刻々と変化する我が国を取り巻く安全保障環境を踏まえ、不断に見直し、その変化に適応していくものとする。
    6.  この防衛力の抜本的強化には大幅な経費と相応の人員の増加が必要となるが、防衛力の抜本的強化の実現に資する形で、スクラップ・アンド・ビルドを徹底して、自衛隊の組織定員と装備の最適化を実施するとともに、効率的な調達等を進めて大幅なコスト縮減を実現してきたこれまでの努力を、防衛生産基盤に配意しつつ、更に継続・強化していく。あわせて、人口減少と少子高齢化を踏まえ、無人化・省人化・最適化を徹底していく。
    7.  以上の防衛力の抜本的強化の目的は、あくまで力による一方的な現状変更やその試みを許さず、我が国への侵攻を抑止することにある。
       我が国が自らの防衛力を抜本的に強化することによって、日米同盟の抑止力・対処力が更に強化され、同志国等との連携が強化される。そのことにより、我が国の意思と能力を相手にしっかりと認識させ、我が国を過小評価させず、相手方にその能力を過大評価させないことにより我が国への侵攻を抑止する。それが我が国の防衛力の抜本的強化の目的である。
    8.  我が国への侵攻を抑止する上で鍵となるのは、スタンド・オフ防衛能力等を活用した反撃能力である。
       近年、我が国周辺では、極超音速兵器等のミサイル関連技術と飽和攻撃など実戦的なミサイル運用能力が飛躍的に向上し、質・量ともにミサイル戦力が著しく増強される中、ミサイルの発射も繰り返されており、我が国へのミサイル攻撃が現実の脅威となっている。
       こうした中、今後も、変則的な軌道で飛翔するミサイル等に対応し得る技術開発を行うなど、ミサイル防衛能力を質・量ともに不断に強化していく。
       しかしながら、弾道ミサイル防衛という手段だけに依拠し続けた場合、今後、この脅威に対し、既存のミサイル防衛網だけで完全に対応することは難しくなりつつある。
       このため、相手からミサイルによる攻撃がなされた場合、ミサイル防衛網により、飛来するミサイルを防ぎつつ、相手からの更なる武力攻撃を防ぐために、我が国から有効な反撃を相手に加える能力、すなわち反撃能力を保有する必要がある。
       この反撃能力とは、我が国に対する武力攻撃が発生し、その手段として弾道ミサイル等による攻撃が行われた場合、武力の行使の三要件に基づき、そのような攻撃を防ぐのにやむを得ない必要最小限度の自衛の措置として、相手の領域において、我が国が有効な反撃を加えることを可能とする、スタンド・オフ防衛能力等を活用した自衛隊の能力をいう。
       こうした有効な反撃を加える能力を持つことにより、武力攻撃そのものを抑止する。その上で、万一、相手からミサイルが発射される際にも、ミサイル防衛網により、飛来するミサイルを防ぎつつ、反撃能力により相手からの更なる武力攻撃を防ぎ、国民の命と平和な暮らしを守っていく。
       この反撃能力については、1956年2月29日に政府見解として、憲法上、「誘導弾等による攻撃を防御するのに、他に手段がないと認められる限り、誘導弾等の基地をたたくことは、法理的には自衛の範囲に含まれ、可能である」としたものの、これまで政策判断として保有することとしてこなかった能力に当たるものである。
       この政府見解は、2015年の平和安全法制に際して示された武力の行使の三要件の下で行われる自衛の措置にもそのまま当てはまるものであり、今般保有することとする能力は、この考え方の下で上記三要件を満たす場合に行使し得るものである。
       この反撃能力は、憲法及び国際法の範囲内で、専守防衛の考え方を変更するものではなく、武力の行使の三要件を満たして初めて行使され、武力攻撃が発生していない段階で自ら先に攻撃する先制攻撃は許されないことはいうまでもない。
       また、日米の基本的な役割分担は今後も変更はないが、我が国が反撃能力を保有することに伴い、弾道ミサイル等の対処と同様に、日米が協力して対処していくこととする。
  2.  国全体の防衛体制の強化
     我が国を守るためには自衛隊が強くなければならないが、我が国全体で連携しなければ、我が国を守ることはできないことも自明である。このため、防衛力を抜本的に強化することに加えて、我が国が持てる力、すなわち、外交力、情報力、経済力、技術力を含めた国力を統合して、あらゆる政策手段を体系的に組み合わせて国全体の防衛体制を構築していく。その際、政府一体となった取組を強化していくため、政府内の縦割りを打破していくことが不可欠である。こうした観点から、防衛力の抜本的強化を補完する不可分一体の取組として、我が国の国力を結集した総合的な防衛体制を強化する。また、政府と地方公共団体、民間団体等との協力を推進する。
    1.  力による一方的な現状変更を許さない取組において重要なのは、我が国自身の防衛体制の強化に裏付けられた外交努力である。我が国として、自由で開かれたインド太平洋(FOIP)というビジョンの推進等を通じて力強い外交を推進することにより、平和で安定し予見可能性が高い国際環境を能動的に創出し、力による一方的な現状変更を未然に防ぐとともに、我が国の平和と安全、地域と国際社会の平和と安定及び繁栄を確保していく。
       このような外交努力と相まって、防衛省・自衛隊においては、同盟国との協力及び同志国等との多層的な連携を推進し、望ましい安全保障環境の創出に取り組んでいくこととする。また、力による一方的な現状変更やその試みを抑止するとの意思と能力を示し続け、相手の行動に影響を与えるために、FDOとしての訓練・演習等や、戦略的コミュニケーション(SC)を、政府一体となって、また同盟国・同志国等と共に充実・強化していく必要がある。
    2.  平素からの常続的なISR及び分析を関係省庁が連携して実施することにより、事態の兆候を早期に把握するとともに、事態に応じて政府全体で迅速な意思決定を行い、関係機関が連携していくことが重要である。その際、認知領域を含む情報戦について、偽情報の流布等に対応したファクト・チェック機能やカウンター発信機能等を強化し、有事はもとより、平素から、政府全体での対応を強化していく。
    3.  政府全体の意思決定に基づき、関係機関が連携して行動することにより、力による一方的な現状変更を許さないことが重要である。このため、平素から政府全体として、連携要領を確立しつつ、シミュレーションや統合的な訓練・演習を行い、対処の実効性を向上させる。特に、原子力発電所等の重要施設の防護、離島の周辺地域等における外部からの武力攻撃に至らない侵害や武力攻撃事態への対応については、有事を念頭に平素から警察や海上保安庁と自衛隊との間で訓練や演習を実施し、特に武力攻撃事態における防衛大臣による海上保安庁の統制要領を含め、必要な連携要領を確立する。
    4.  宇宙・サイバー・電磁波の領域は、国民生活にとっての基幹インフラであるとともに、我が国の防衛にとっても領域横断作戦を遂行する上で死活的に重要であることから、政府全体でその能力を強化していく。
       宇宙空間については、情報収集、通信、測位等の目的での安定的な利用を確保することは国民生活と防衛の双方にとって死活的に重要であり、防衛省・自衛隊においては、宇宙航空研究開発機構(JAXA)を含めた関係機関や民間事業者との間で、研究開発を含めた協力・連携を強化することとする。その際、民生技術の防衛分野への一層の活用を図ることで、民間における技術開発への投資を促進し、我が国全体としての宇宙空間における能力の向上につなげる。
       サイバー領域においては、諸外国や関係省庁及び民間事業者との連携により、平素から有事までのあらゆる段階において、情報収集及び共有を図るとともに、我が国全体としてのサイバー安全保障分野での対応能力の強化を図ることが重要である。政府全体において、サイバー安全保障分野の政策が一元的に総合調整されていくことを踏まえ、防衛省・自衛隊においては、自らのサイバーセキュリティのレベルを高めつつ、関係省庁、重要インフラ事業者及び防衛産業との連携強化に資する取組を推進することとする。
       電磁波領域については、陸・海・空、宇宙、サイバー領域に至るまで、活用範囲や用途が拡大し、現在の戦闘様相における攻防の最前線となっている。このため、電磁波領域における優勢を確保することが抑止力の強化や領域横断作戦の実現のために極めて重要である。民生用の周波数利用と自衛隊の指揮統制や情報収集活動等のための周波数利用を両立させ、自衛隊が安定的かつ柔軟な電波利用を確保できるよう、関係省庁と緊密に連携する。
    5.  先進的な技術に裏付けられた新しい戦い方が勝敗を決する時代において、先端技術を防衛目的で活用することが死活的に重要となっている。
       この際、総合的な防衛体制の強化のための府省横断的な仕組みの下、防衛省・自衛隊のニーズを踏まえ、政府関係機関が行っている先端技術の研究開発を防衛目的に活用していく。また、防衛産業を活用しつつ、スタートアップ等各種企業、各種研究機関の研究開発の成果を早期の実装化につなげていく取組を実施することとする。
    6.  国民の命を守りながら我が国への侵攻に対処し、また、大規模災害を含む各種事態に対処するに当たっては、国の行政機関、地方公共団体、公共機関、民間事業者が協力・連携して統合的に取り組む必要がある。
       まず、防衛上のニーズを踏まえ、総合的な防衛体制の強化のための府省横断的な仕組みの下、特に南西地域における空港・港湾等を整備・強化するとともに、既存の空港・港湾等を運用基盤として、平素からの訓練を含めて使用するために、関係省庁間で調整する枠組みの構築等、必要な措置を講ずる。
       また、自衛隊の機動展開のための民間船舶・民間航空機の利用拡大について関係機関等との連携を深めるとともに、当該船舶・航空機を利用した国民保護措置を計画的に行えるよう調整・協力する。加えて、防衛省・自衛隊においては、政府全体で実施する武力攻撃事態等を念頭に置いた国民保護訓練の強化、弾道ミサイル等による攻撃を受ける事態に備えた全国瞬時警報システム(J-ALERT)の情報伝達機能の強化等に協力していくこととする。
       さらに、海空域や電波を円滑に利用し、防衛関連施設の機能を十全に発揮できるよう、風力発電施設の設置等の社会経済活動との調和を図る効果的な仕組みを確立する。
       あわせて、自衛隊の弾薬・燃料等の輸送・保管について、関係省庁との連携を強化し、更なる円滑化のための措置を講ずる。
       各種事態において日米共同対処を円滑に実施するため、これらと同様の取組を推進する。
    7.  海洋国家である我が国にとって、海洋の秩序を強化し、航行・飛行の自由や安全を確保することは、我が国の平和と安全にとって極めて重要である。このため、我が国の領海等における国益や我が国の重要なシーレーンの安定的利用の確保等に取り組んでいく。
       まず、防衛省・自衛隊においては、我が国における海洋の安全保障の担い手である海上保安庁と緊密に協力・連携しつつ、同盟国・同志国、さらにインド太平洋地域の沿岸国と共に、FOIPというビジョンの下、海洋安全保障に関する協力を推進していくこととする。
       また、シーレーンの安定的利用を確保するために、関係機関との協力・連携の下、海賊対処や日本関係船舶の安全確保に必要な取組を実施していく。この際、ジブチにおける拠点を長期的・安定的に活用する。
    8.  自衛隊及び在日米軍が、平素からシームレスかつ効果的に活動できるよう、自衛隊施設及び米軍施設周辺の地方公共団体や地元住民の理解及び協力をこれまで以上に獲得していく。日頃から防衛省・自衛隊の政策や活動、さらには、在日米軍の役割に関する積極的な広報を行い、地元に対する説明責任を果たしながら、地元の要望や情勢に応じた調整を実施する。同時に、騒音等への対策を含む防衛施設周辺対策事業についても、我が国の防衛への協力促進という観点も踏まえ、引き続き推進する。
       また、地方によっては、自衛隊の部隊による急患輸送や存在そのものが地域コミュニティーの維持・活性化に大きく貢献していることを踏まえ、部隊の改編や駐屯地・基地等の配備・運営に当たっては、地方公共団体や地元住民の理解を得られるよう、地域の特性や地元経済への寄与に配慮する。

2 日米同盟による共同抑止・対処

 第二のアプローチは、日米同盟の更なる強化である。米国との同盟関係は、我が国の安全保障政策の基軸であり、我が国の防衛力の抜本的強化は、米国の能力のより効果的な発揮にも繋がり、日米同盟の抑止力・対処力を一層強化するものとなる。日米は、こうした共同の意思と能力を顕示することにより、グレーゾーンから通常戦力による侵攻、さらに核兵器の使用に至るまでの事態の深刻化を防ぎ、力による一方的な現状変更やその試みを抑止する。その上で、我が国への侵攻が生起した場合には、日米共同対処によりこれを阻止する。このため、日米両国は、その戦略を整合させ、共に目標を優先付けることにより、同盟を絶えず現代化し、共同の能力を強化する。その際、我が国は、我が国自身の防衛力の抜本的強化を踏まえて、日米同盟の下で、我が国の防衛と地域の平和及び安定のため、より大きな役割を果たしていく。具体的には、以下の施策に取り組んでいく。

  1.  日米共同の抑止力・対処力の強化
     我が国の防衛戦略と米国の国防戦略は、あらゆるアプローチと手段を統合させて、力による一方的な現状変更を起こさせないことを最優先とする点で軌を一にしている。これを踏まえ、即応性・抗たん性を強化し、相手にコストを強要し、我が国への侵攻を抑止する観点から、それぞれの役割・任務・能力に関する議論をより深化させ、日米共同の統合的な抑止力をより一層強化していく。
     具体的には、日米共同による宇宙・サイバー・電磁波を含む領域横断作戦を円滑に実施するための協力及び相互運用性を高めるための取組を一層深化させる。あわせて、我が国の反撃能力については、情報収集を含め、日米共同でその能力をより効果的に発揮する協力態勢を構築する。さらに、今後、防空、対水上戦、対潜水艦戦、機雷戦、水陸両用作戦、空挺作戦、情報収集・警戒監視・偵察・ターゲティング(ISRT)、アセットや施設の防護、後方支援等における連携の強化を図る。また、我が国の防衛力の抜本的強化を踏まえた日米間の役割・任務分担を効果的に実現するため、日米共同計画に係る作業等を通じ、運用面における緊密な連携を確保する。加えて、より高度かつ実践的な演習・訓練を通じて同盟の即応性や相互運用性を始めとする対処力の向上を図っていく。
     さらに、核抑止力を中心とした米国の拡大抑止が信頼でき、強靱なものであり続けることを確保するため、日米間の協議を閣僚レベルのものも含めて一層活発化・深化させる。
     力による一方的な現状変更やその試み、さらには各種事態の生起を抑止するため、平素からの日米共同による取組として、共同FDOや共同ISR等をさらに拡大・深化させる。その際には、これを効果的に実現するため、同志国等の参画や自衛隊による米軍艦艇・航空機等の防護といった取組を積極的に実施する。
     さらに、日米一体となった抑止力・対処力の強化の一環として、日頃から、双方の施設等の共同使用の増加、訓練等を通じた日米の部隊の双方の施設等への展開等を進める。
  2.  同盟調整機能の強化
     いついかなる事態が生起したとしても、日米両国による整合的な共同対処を行うため、同盟調整メカニズム(ACM)を中心とする日米間の調整機能をさらに発展させる。
     これらに加え、日米同盟を中核とする同志国等との連携を強化するため、ACM等を活用し、運用面におけるより緊密な調整を実現する。
  3.  共同対処基盤の強化
     あらゆる段階における日米共同での実効的な対処を支える基盤を強化する。
     まず、日米がその能力を十分に発揮できるよう、あらゆるレベルにおける情報共有を更に強化するために、情報保全及びサイバーセキュリティに係る取組を抜本的に強化する。また、同盟の技術的優位性、相互運用性、即応性、さらには継戦能力を確保するため、先端技術に関する共同分析や共同研究、装備品の共同開発・生産、相互互換性の向上、各種ネットワークの共有及び強化、米国製装備品の国内における生産・整備能力の拡充、サプライチェーンの強化に係る取組等、装備・技術協力を一層強化する。
  4.  在日米軍の駐留を支えるための取組
     厳しい安全保障環境に対応する、日米共同の態勢の最適化を図りつつ、在日米軍再編の着実な進展や在日米軍の即応性・抗たん性強化を支援する取組等、在日米軍の駐留を安定的に支えるための各種施策を推進する。
     特に、安全保障上極めて重要な位置にある沖縄においては、一層厳しさを増す安全保障環境に対応しつつ、普天間飛行場の移設を含む在沖縄米軍施設・区域の整理・統合・縮小、部隊や訓練の移転等を着実に実施することにより、負担軽減を図っていく。
     以上のような日米共同の取組を円滑かつ効果的に実施するためには、国民の理解が不可欠であり、その意義・必要性を積極的に発信するなどの取組を強化する。

3 同志国等との連携

 第三のアプローチは、同志国等との連携の強化である。力による一方的な現状変更やその試みに対抗し、我が国の安全保障を確保するためには、同盟国のみならず、一か国でも多くの国々と連携を強化することが極めて重要である。その観点から、FOIPというビジョンの実現に資する取組を進めていく。

 まずは、日米同盟を重要な基軸と位置付けつつ、地域の特性や各国の事情を考慮した上で、多角的・多層的な防衛協力・交流を積極的に推進していく。その際、同志国等との連携強化を効果的に進める観点から、円滑化協定(RAA)、物品役務相互提供協定(ACSA)、防衛装備品・技術移転協定等の制度的枠組みの整備を更に推進する。

 オーストラリアとの間では、インド太平洋地域の「特別な戦略的パートナー」として新たな「安全保障協力に関する日豪共同宣言」で方向付けたとおり、日米防衛協力に次ぐ緊密な協力関係を構築し、外務・防衛閣僚級協議(「2+2」)を含む各レベルでの協議、共同訓練、防衛装備・技術協力等を深化させる。また、RAA等の整備を踏まえ、オーストラリアにおける訓練の実施やローテーション展開等を図り、事態生起時には、我が国、米国及びオーストラリアが協力することも念頭に置きながら、相互に協議し、後方支援や情報共有等を中心に連携する。こうした事態への効果的な対応を確保する観点から、平素より運用面の協力の範囲、目的及び形態に関する議論を推進する。

 インドとの間では、特別戦略的グローバル・パートナーシップを構築しており、戦略的な連携を強化する観点から、「2+2」等の枠組みも活用しつつ、海洋安全保障やサイバーセキュリティ等を始めとする幅広い分野において、二国間及び多国間の軍種間交流等を更に深化させるとともに、共同訓練、防衛装備・技術協力等を推進する。

 英国、フランス、ドイツ、イタリア等との間では、グローバルな安全保障上の課題のみならず、欧州及びインド太平洋地域の課題に相互に関与を強化する。その上で、北大西洋条約機構(NATO)等による米国との同盟関係を基軸として、緊密な協力関係を構築し、「2+2」等の各レベルでの協議、共同訓練、次期戦闘機の共同開発を含む防衛装備・技術協力、艦艇・航空機等の相互派遣等を実施する。その際、共同で実施する北朝鮮に向けた瀬取り監視やソマリア沖・アデン湾における海賊対処を通じて連携を強化する。

 NATO及び欧州連合(EU)との間では、これら欧州諸国との二国間関係を基礎として、国際的なルール形成やインド太平洋地域における安全保障への関与に関して連携を強化していく。

 韓国との間では、北朝鮮による核・ミサイルの脅威に対し、日米同盟及び米韓同盟の抑止力・対処力の強化の重要性を踏まえ、日米韓三か国による共同訓練を始めとした取組により日米韓の連携を強化する。

 カナダ及びニュージーランドとの間では、インド太平洋地域の課題に更に連携して取り組むため、各レベルでの協議、共同訓練・演習、二国間で連携した第三国との協力等を推進する。

 ロシアによるウクライナ侵略を含む力による一方的な現状変更やその試みに直面し、情報戦、サイバーセキュリティ、SC、ハイブリッド戦等の先進的な取組を進める北欧・バルト諸国等との連携や、日本との関係強化に関心を示すチェコ・ポーランド等の中東欧諸国との連携を強化していく。

 東南アジア諸国との間では、まず東南アジア諸国連合(ASEAN)の中心性・一体性の強化に向けて、東アジア首脳会議、ASEAN地域フォーラム、拡大ASEAN国防相会議、日ASEAN防衛担当大臣会合等を通じ、その動きを支援する。その上で、インド太平洋地域の安全保障を安定化させる観点から、各国の状況に合わせ、「2+2」を含む各レベルでの協議、戦略的寄港・寄航、共同訓練等を実施する。また、地域の安定化を目指し、防衛力強化に資する防衛装備移転、能力構築支援等を実施する。

 モンゴルとの間では、中露の間に位置する民主主義国家という戦略的重要性に鑑み、各レベルでの交流、能力構築支援、多国間共同訓練等に加え、政治・安全保障分野での協力を新たな次元に高めるべく、防衛装備・技術協力を推進する。

 中央アジア諸国との間では、アジアと欧州の間に位置する地政学的に重要な地域である一方で、防衛交流実績が少なく空白地帯となっていることから、双方が関心のある分野において、能力構築支援を含む防衛交流を積み重ねていく。

 太平洋島嶼国との間では、重要なパートナーとして、同盟国・同志国等とも連携して能力構築支援等の協力に取り組んでいく。その際、軍隊以外の組織である沿岸警備隊等を対象とすること等を検討する。

 インド洋沿岸国・中東諸国との間では、我が国のシーレーンの安定的利用やエネルギー・経済の観点からの重要性を踏まえ、防衛協力を進めていく。同時に、アフリカ諸国等との間でも、グローバルな課題に対応するという観点から、防衛協力を強化する。特に、海賊対処、在外邦人等の保護・輸送等、この地域における運用基盤の強化等のため、ジブチとの連携を強化し、同国において運営している自衛隊の活動拠点を長期的・安定的に活用する。

 同志国等との連携の推進の一方で、中国やロシアとの意思疎通についても留意していく。

 中国との間では、「建設的かつ安定的な関係」の構築に向けて、日中安保対話を含む多層的な対話や交流を推進していく。その際、中国がインド太平洋地域の平和と安定のために責任ある建設的な役割を果たし、国際的な行動規範を遵守するとともに、軍事力強化や国防政策に係る透明性を向上するよう引き続き促す一方で、我が国として有する懸念を率直に伝達していく。また、両国間における不測の事態を回避するため、ホットラインを含む「日中防衛当局間の海空連絡メカニズム」を運用していく。

 ロシアとの関係については、力による一方的な現状変更は認められないとの考えの下、ウクライナ侵略を最大限非難しつつ、G7を始めとした国際社会と緊密に連携し、適切に対応する。同時に、隣国であるロシアとの間で、不測の事態や不必要な摩擦を招かないために必要な連絡を絶やさないようにする。