中谷大臣基調講演
PFF(パシフィック・フューチャー・フォーラム)
令和7年8月29日(金)1630-1645
セドウィルPFF会長、ロングボトム大使、ブラックモア空母打撃群司令官はじめ本日ご列席の英国政府の関係者の皆様。本日、PFFにおいて講演する機会を賜り、誠に光栄に存じます。
今年、戦後80周年となりますが、英国の空母「プリンス・オブ・ウェールズ」の艦上でも、戦没者追悼セレモニーが開催され、あの大戦を振り返り、犠牲になったすべての方々を追悼したと承知しております。このように、戦後の多くの両政府の関係者の努力によって、両国が、試練と苦難の時を乗り越え、私たちがいま享受している平和と繁栄に対し、その尊い精神の重みを決して忘れてはなりません。
1600年頃、英国出身の水先人「ウィリアム・アダムス」は、洋式帆船造りに着手し、外洋に出られる120tの大型船を建造しました。
徳川家康は、アダムスの功績に対し、三浦按針という名を与え、彼は「サムライ」となり、この日本で生涯を終えたのちは、本艦も入港した横須賀において「安針塚」という名とともに祀られており、京急の駅名にもなっています。没後400年余りを経た現在、日本を訪れた巨大なイギリスの空母の頼もしい姿に、感慨を深めているに違いありません。
1902年、日英同盟が結ばれ、ロシアの帝国主義を打ち破った日露戦争は、日英同盟に基づく英国からの支援があってこそ可能なものであり、日本海海戦でロシアのバルチック艦隊を打ち破った連合艦隊の旗艦・三笠が、英国のヴィッカース社で建造されたものであります。
1911年、そのヴィッカース社は、航空機部門を設立して航空機製造に乗り出しました。航空機部門はその後BACとなって、その技術がまさに日英伊の次期戦闘機GCAPの共同開発につながっているのも、興味深いものです。
我が国にとって、英国は、海洋国家として、海を通じた世界との交流にいざなう存在であり続けてきました。この歴史を振り返るとき、こうして東京湾で、貴国の海軍力の象徴である「プリンス・オブ・ウェールズ」を迎えることができることは誠に意義深いことでありますし、長きにわたる日英両国の交流の歴史に新たな一章を加えるにあたり、身の引き締まる思いがいたします。
2025年の現代の国際社会は、パワーバランスと地政学的競争の激化に伴い、自由で開かれた安定的な国際秩序が、重大な挑戦に晒されており、その影はインド太平洋地域にも迫っています。
同地域には、核兵器を含む大規模な軍事力を有し、普遍的価値やそれに基づく政治・経済体制を共有しない国家や地域が複数存在します。東シナ海、南シナ海では、力又は威圧による一方的な現状変更の試みも継続されています。北朝鮮による核・ミサイル開発の進展も深刻な問題であり、北朝鮮の完全な非核化が必要です。
さらに、ロシアによるウクライナ侵略が継続する中で、北朝鮮がロシアに兵士を派遣するなど、北朝鮮とロシアの軍事協力が急速に進展しています。また、中国とロシアも、共同飛行・航行の実施をはじめとして軍事的連携を強化する動きを見せています。もはや、欧州とインド太平洋の安全保障は切り離して考えることはできません。
私が前回防衛大臣を務めていた10年前、日英の「2+2」会合が初めて開催され、両国は、戦略的パートナーとして、安全保障面での協力を進展することを確認しました。それから10年、両国の防衛分野における連携・協力の深化は、当時の想定をはるかに上回るものとなっています。
例えば、陸海空の全ての軍種間での共同訓練に加え、宇宙やサイバーにおける連携も進んでいます。そして2023年に締結された「円滑化協定」は、自衛隊と英軍が共同訓練や相互訪問を円滑にする実効的なものとして役立っています。
さらに、日英伊3か国で進めている次期戦闘機の開発、GCAPは、将来の我が国防空のために不可欠なプログラムであります。そして、英国のレディングにあるGCAP国際機関「GIGO」の本部では、日英伊の職員が肩を並べ、チーム一丸となってGCAPを成功させようという高い士気と気概を持って、事業を進めています。戦闘機という国の防衛力の根幹となる装備品の共同開発が行われていることは、日英間の協力関係が新たな次元に進んだことの証左にほかなりません。
そして今回、英国は4年ぶりに空母打撃群を日本に派遣し、英国、米国、豪州、スペイン、ノルウェーといった同盟国・同志国との共同訓練が実現しました。この際、自衛隊は初めて英国軍に対して警護を実施し、オペレーション協力の面で新たな段階へと踏み出しました。
この外国軍隊の警護は、私が前回大臣を務めていたちょうど10年前に成立させた平和安全法制により、新たに実施が可能となったものです。まずは同盟国の米軍を念頭に置いていたものですが、10年のうちに英国軍に対しても実施するに至ったことは、当時、法制を担当していた私としても、大変感慨深いものです。
こうした取組は、日本と英国との間で、部隊間の相互運用性が更に向上し、より一層緊密に連携していくことを示すものです。
また、今回の寄港には、近年、我が国と防衛協力・交流が大きく進展しているノルウェーのフリゲート「ロアール・アムンセン」も参加しています。これはノルウェー軍の艦船として初の日本への寄港です。
そしてこの他にも、フランス、ドイツ、イタリア、スペイン、オランダといった欧州各国が、インド太平洋に艦艇や航空機を派遣するなど、欧州のインド太平洋への関与の拡大が深化しています。
昨年10月のNATO国防相会合において、私を含むIP4、すなわち、日本、豪州、ニュージーランド、韓国の国防大臣が初めて招待されるなど、我が国とNATOの関係も大きく進展しているところです。
我が国は、このような活動を通して、国際的な安全保障の一翼を担う意思と能力を明確に示してきており、こういった姿勢はウクライナへの支援に通じるものがあります。
欧州のみならずアジアを含む国際秩序の根幹を揺がす暴挙であるロシアによるウクライナ侵略は、国連憲章を含む国際法の重大な違反であり、国際社会が一致して、毅然と対抗していく必要があります。
こうした情勢を踏まえ、日本政府全体としてウクライナ支援に取り組んでいます。我が国は、「今日のウクライナは明日の東アジアかもしれない」との強い危機感の下、これまで、総額120億ドル以上のウクライナ支援を表明し、着実に実施してきました。
防衛省・自衛隊としても、これまで、自衛隊装備品等の提供や人道救援物資の輸送、自衛隊中央病院等へのウクライナ負傷兵の受け入れなど、可能な限りの支援を行ってきました。
さらに、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を守るには、同志国等との間での多層的な防衛協力の推進も不可欠です。私は、年初から、インドネシアやフィリピン、インド、スリランカ、さらに中東・アフリカを訪問し、地域における共通の課題について認識を共有するとともに、オペレーション面を含む広範な分野での協力を進めるべく議論を行いました。陸海空各幕僚長も各国との連携を深めています。
本年5月のシャングリラ会合において、私は「OCEAN」すなわち、One Cooperative Effort Among Nations: Perspective for the Indo-Pacificの精神を提案しました。その根幹にあるものは、開放性、包摂性、透明性を確保しながら協力と連携を進めていくことで、ルールに基づく国際秩序を回復し、アカウンタビリティを強化し、国際公共益を増進するという共通の精神です。
共通の価値と利益を共有する国々が、インド太平洋全体を俯瞰的に捉え、それぞれの取組の間で協力と連携を強化し、シナジーを生み出す。そのような今まさに求められている同志国等との協力と連携を、我が国として率先して推進していきたいと考えています。
最後になりますが、こうした信念の下、日本として、同盟国、同志国等との連携をさらに深め、インド太平洋、そして世界の平和と安定に、より一層貢献してまいります。
ご清聴ありがとうございました。
(了)