欧州議会「安全保障・防衛小委員会」岸防衛大臣スピーチ(聞き取りのまま)

2021年6月17日
防衛省
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皆様、こんにちは。初めまして、日本国防衛大臣の岸信夫です。本日は、「安全保障・防衛小委員会」にお招きいただき、大変光栄に思います。私自身、2017年に外務副大臣をしていた当時、フォティガ議員が委員長をされていた頃のSEDE代表団の皆さまを東京でお迎えしましたけれども、当時撒いた絆の種がこのような形で繋がっていることを嬉しく思います。

ロワゾー委員長、シャルデモーゼ団長並びにご列席の欧州議員の皆様をはじめ、こうした機会を与えてくださいました皆様にまずもって心より感謝を申し上げます。

今回のテーマは、「日EU戦略的パートナーシップ:安全保障・防衛分野における相互協力の強化の動向と見通し」でありますが、2019年の「日EU戦略的パートナーシップ協定」(SPA)の暫定適用開始以降、安全保障・防衛分野における日EU協力は、飛躍的に発展してまいりました。とりわけ、EUにおかれては、今年9月に公表予定の「『インド太平洋における協力のためのEU戦略』に関する共同コミュニケーション」の策定に向け、真摯な議論が続けられているものと承知をしています。わが国としても、普遍的価値を共有するEUがインド太平洋地域への関与を強化していることを高く評価しており、皆様の御尽力に敬意を表します。

SPAが発効した後、当時の安倍総理は、ブリュッセルを訪問し、民主主義、法の支配、人権、自由を掲げた日EU・SPAを普遍的価値のガーディアンに、日EU経済連携協定(EPA)を自由貿易の旗手に例え、2つが両方あいまって、もし世界が大洋を行く船ならば、どんな揺れをも中和するスタビライザーの役割を果たすと述べました。

この週末の日EU双方の首脳が参加するコーンウォールでのサミットでも取り上げられたインド太平洋を含め、大洋は常になぎではありません。ここを世界が航行していくために,日EUがスタビライザーとして安定した舵取りができるようにしていかなくてはならないと考えています。

こうした皆様の議論に貢献すべく、本日、私は、まず、インド太平洋地域で起きている安全保障環境をめぐる現実について御紹介をいたします。

そして、第一に、インド太平洋地域で我々が直面している課題は、欧州地域で皆さんが直面している課題と同じであること、

第二に、その共通の課題を解決するためには、普遍的価値を共有する我々が、戦略的利益も一致させた上で、共同でこの課題に立ち向かう必要があること、

第三に、そのために、我が国は「自由で開かれたインド太平洋」(FOIP)というビジョンに基づき、欧州を含む同志国、パートナー国との戦略的な安全保障協力を戦略的に推進していることについて説明いたします。

その上で、EUや欧州との防衛協力の実績を振り返りつつ、今後の展望について私の考えを申し上げたいと思います。これからお話しをすることが、この地域の現実について、皆様に理解を更に深めていただき、皆様の検討の一助となることを願ってやみません。そして、今日のこの機会が、日本とEU、そして欧州各国との安全保障協力が「新たな段階」に入る契機となり、「自由で開かれたインド太平洋」の維持・強化に向け、EUによるインド太平洋地域へのコミットメントが不可逆的なものになるよう強く期待いたします。

まず、インド太平洋地域で起きている安全保障環境をめぐる現実について、南シナ海の現状からお話しをいたします。世界全体の貿易の3分の1、欧州の対外貿易の約40%は南シナ海を経由すると言われており、この海域の安全は、欧州に直接影響する問題です。この南シナ海では、「力による一方的な現状変更」が継続しています。

例えば、中国は、砲台といった軍事施設のほか、滑走路や港湾、格納庫、レーダー施設などをはじめとする軍事目的に利用し得る各種インフラ整備を推進しつつ、係争のある地形の軍事化を継続しています。これらの地形には、中国が哨戒機や早期警戒機などをローテーション展開させている可能性があること、また、対艦巡航ミサイルや地対空ミサイルが軍事訓練の一環として展開したことなどが報じられています。これ以外にも、頻繁に軍事演習を実施し、中距離弾道ミサイルを発射したとみられるなど、行動をエスカレートさせています。

我が国は、これまで一貫して南シナ海における法の支配の貫徹を支持するとともに、「航行及び上空飛行の自由」、そして「シーレーンの安全確保」を重視してきており、緊張を高める一方的な活動に反対する意思を明確に示してきました。南シナ海をめぐる全ての当事者が国連海洋法条約を始めとする国際法に基づく紛争の平和的解決に向け努力することが必要です。

東シナ海でも、力を背景とした一方的な現状変更の試みが継続しております。こうした現状について、先週、G7としても、東シナ海及び南シナ海の状況について深刻な懸念が示されました。G7の首脳コミュニケでは、現状を変更し、緊張を高めるいかなる一方的な試みにも強く反対するとの明確なメッセージを打ち出しています。

中国は、このように東シナ海・南シナ海において力を背景とした一方的な現状変更の試みを執拗に継続する中、今年の2月1日に海警法を施行しました。

これまでも、海警は、保有船舶の大型化・重装備化を図っています。また、組織、装備、人事の各面において、軍と海警の連携を強化しています。

そうした中で今般制定された海警法は、これまでも様々な場で申し上げているとおり、あいまいな適用海域や武器使用権限等、国際法との整合性の観点から問題がある規定を含みます。この海警法により、我が国を含む関係国の正当な権益を損なうことがあってはならず、東シナ海や南シナ海などの海域において緊張を高めることになることは断じて受け入れられません。

南シナ海沿岸国であるフィリピンやベトナムも、海警法に対し、反対や懸念の声を上げています。私自身、欧州諸国を含む各国との大臣会談において我が国の懸念をお伝えしています。米国や豪州、ウクライナといった国との間でも深刻な懸念を共有しています。

こうした中国の動向を顧みて、私としては、台湾の友人たちに言及しないわけにはいきません。台湾は、我が国にとって、自由、民主主義、基本的人権、法の支配といった基本的価値を共有し、緊密な経済関係と人的往来を有する極めて重要なパートナーであり友人です。

台湾をめぐる情勢の安定は、我が国の安全保障にとってはもとより、国際社会の安定にとっても重要です。そうした中、近年、中国が軍事力の強化を急速に進める中、中台の軍事バランスは全体として中国側に有利な方向に変化し、その差は年々拡大をする傾向にあります。

両岸問題は、わが国としては、当事者間の直接の対話により平和的に解決されることを期待するというのが従来からの一貫した立場です。こうした点は、先月、日EU定期首脳協議における共同声明や先日のG7コーンウォールサミットにおける首脳コミュニケでも言及されたところです。防衛省としては、地域の軍事バランス構造の転換とみられる動向についてもしっかりと注視してまいります。

既存の国際秩序とは相容れない独自の主張に基づく「力による一方的な現状変更の試み」はインド太平洋地域だけで起きているものではありません。この「試み」は、皆様の欧州でも見られます。そして、軍事と非軍事の境界を意図的に曖昧にした「ハイブリッド戦」という手法も用いられるケースがあることは皆様もご案内のとおりでしょう。

先週のG7共同コミュニケではウクライナ情勢についても言及がありました。

今年3月、私は、この委員会でも講演をされたウクライナのアンドリー・タラン国防大臣を日本に初めて招待し、2度目となる防衛大臣会談を行いました。私からは、我が国は、一貫してウクライナの主権及び領土の一体性を尊重し、「力による一方的な現状変更の試み」は断じて認めないとの立場である旨申し上げ、両国で東シナ海・南シナ海での「力による一方的な現状変更の試み」に強く反対すること、そして、中国海警法に対する深刻な懸念について認識を一致するに至りました。

このように、今や、世界の安定と繁栄を支えていた普遍的価値に基づく国際秩序を脅かす課題は、グローバルなものとして捉えなければなりません。そして、ルールに基づく既存の国際秩序を維持するためには、普遍的価値を共有する国々が、団結して取り組んでいかなければなりません。言い換えれば「権威主義との競争」という課題に対して、我々日本とEUをはじめとする国々が、協力して対応することが必要です。

このような安全保障環境において、日本とEUがより強く結束していくことは必然的な流れです。国際社会の平和と安定を引き続き維持していくためには、この流れを不可逆的なものにしていかなければなりません。

こうした安全保障環境の現実を踏まえた我々のアプローチについて、ご説明をいたします。

防衛省・自衛隊においては、FOIPというビジョンの下、民主主義や法の支配といった普遍的価値や安全保障上の利益を共有する国々と手を携え、安全保障協力を戦略的に推進していきます。

この「FOIP」というビジョンは、3つの柱すなわち、一つには、我々が共有する「民主主義、法の支配、人権といった国際社会の基本原則の普及と定着」、二つ目には、「連結性などを通じた経済的繁栄」、三つめは、「海洋安全保障を含む平和と安定のための取組」で構成をされています。我が国は、インド太平洋地域の各国にとどまらず、EUやNATOを含め、欧州の皆様とも連携しながら、この「FOIP」というビジョンを推進しています。

その際、防衛省・自衛隊は、「力による一方的な現状変更の試み」に対し、断固反対するとの認識を一致させ、また、緊張を高めるいかなる行為にも強く反対すること、法の支配に基づく国際秩序が重要であるとのメッセージを明確に発信すべく、各国が連携していくことが重要だと考えています。私は、昨年10月、防衛大臣就任以降、EU加盟国では、ドイツのクランプ=カレンバウアー大臣やフランスのパルリ大臣との間で議論を重ねてきました。また、それ以外でも、先ほど紹介したウクライナのタラン大臣の他、イギリス、米国、カナダ、オーストラリア、インド、更に東南アジア諸国及び中東の国々の国防大臣とも、こうした点について、議論を重ねてきました。先日のG7の機会にも、菅総理から、マクロン大統領、メルケル首相らにインド太平洋への関与を歓迎する旨お伝えしているところです。

また、昨年12月、私は、中国の魏鳳和国務委員兼国防部長と忌憚のない意見交換を行い、日本の強い懸念と問題意識を直接投げかけました。その上で、安定した日中関係の重要性、そして、意思疎通の継続を確認したところです。

我が国として、「FOIP」というビジョンを維持・強化するため、人権、民主主義及び法の支配等の共通の価値及び原則に基づき、世界の平和、安全及び安定を構築するために共に行動する戦略的パートナーであるEUとの関係を更に発展していきたいと考えています。

EU加盟国では、フランス、ドイツ、オランダがインド太平洋に関する政策文書を発表するなど、この地域に関与していくとの明確な意思を表明しています。そして、この4月には、EUも「インド太平洋における協力のための戦略」を表明しました。この戦略で謳われている「ルールに基づく国際秩序の重要性」は、まさに我が国が推進する「FOIP」と強く共鳴し合うものであり、とりわけ「インド太平洋におけるプレゼンス及び行動の強化」を打ち出した点は、防衛大臣として、特に高く評価できるものであります。

今申し上げた欧州各国の政策は、具体的な行動にも反映されています。

日本の海上自衛隊とEU海上部隊は、ソマリア沖・アデン湾で共に海賊対処の任務に当たっています。ソマリア沖・アデン湾は、わが国及び国際社会にとって、欧州とアジアを結ぶ極めて重要な海上交通路です。日EUの部隊は、これまで24回にわたる海賊対処共同訓練を積み重ねながら、この海域の海賊対処に万全を期して参りました。

先月には、ジブチ海軍等を加えた海賊対処に係る共同訓練を実施し、他の同志国との協力を広げるとともに、「平和と安定した海洋を通じた繁栄を強化するため、ルールに基づいた国際秩序の維持に引き続きコミットする」旨の共同発表を発出しました。

ソマリア沖・アデン湾における海賊等事案の発生件数は、2009年から2011年まで年間200件以上となっていましたが、こうした日EUを含む国際社会の継続的な取組により、現在、低い水準で推移しています。海賊を生み出す根本的な原因であるソマリア国内の貧困等は解決されていないため、わが国としては、引き続き、EUを含む国際社会と連携して、海賊対処行動を確実に実施していく考えです。

また、欧州各国との連携も近年特に深まっています。先月、我が国は、フランス、米国、オーストラリアと共に、着上陸などを行う共同訓練「ARC21」を実施し、我が国の離島防衛に係る決意のみならず、インド太平洋における日仏の連携を内外に示すことができました。更に、これに合わせて陸・海・空自衛隊の3幕僚長がフランス陸軍・海軍及び航空・宇宙軍参謀長とそれぞれVTC会談を実施し、今後の防衛協力に関し意見交換を実施いたしました。

また、英空母「クイーン・エリザベス」を旗艦とする空母打撃群(CSG21)と、その一員であるオランダ海軍のフリゲート「エファーツェン」が今まさに、日本を含むインド太平洋へと向かっています。我が国として「エファーツェン」を含む「CSG21」の日本寄港を改めて歓迎いたします。

また、ドイツも本年中のフリゲートのインド太平洋派遣を発表しました。我が国として改めて歓迎いたします。これらの活動は、EUや欧州関係国によるインド太平洋地域の平和と安定に貢献していくとの意志と能力、そして「FOIP」を推進する我が国との強固な結束を示すものです。そして、こうした活動を支えるのは、家族や友人と離れ、時として過酷な環境や厳しい任務にも耐えながらも、日々精励するプロフェッショナル達であることを忘れてはなりません。彼らはEUやそれぞれの祖国のインド太平洋地域へのコミットメントを体現する英雄であり、日本国の防衛大臣として、彼らの貢献に対して心からの敬意と感謝を申し上げます。

私たちは、欧州をはじめとする同志国がインド太平洋地域の平和と安定のために取り組みや関与をこれまでになく強化しようとしているのを目の当たりにしています。これら同志国の地域への関与が維持し、拡大すること、また、この動きに続く国が現れることを心より期待いたします。

その上で、一国のみで対応が困難なグローバルな安全保障上の課題が存在してきている中、宇宙、サイバーといった領域における協力も一層重要になっています。そして、新型コロナウイルス感染症の拡大に乗じ、「偽情報」の拡散や「ワクチン」を利用する形で、自国の影響力を拡大しようとする動きがあるとの指摘にも留意しなければなりません。

こうした状況を踏まえ、今後策定される「共同コミュニケーション」においては、目に見える軍事的なプレゼンスの維持・拡大を含め、EU、そして各加盟国のインド太平洋地域に対する揺るぎないコミットメントを確保するための力強いメッセージが盛り込まれることを強く期待いたします。

先般、米英首脳会談において法の支配など民主主義の基礎となる価値の擁護をうたった「新大西洋憲章」が発表されました。これは、現在の国際秩序や新たな安全保障環境を踏まえた動きを象徴する出来事であると考えています。

EUで新たに策定される「共同コミュニケーション」が、私が今述べた日EUが直面する共通の課題に向かい合うインド太平洋戦略の新たなスタンダードとなることを期待しています。

トゥスク前欧州理事会議長のお言葉をお借りしますが、欧州と日本は地理的に遠く離れてはいますが、日EUが安全保障分野で、これ程までに近づいたことはありません。そして、この基礎は、日本とEUが結んだSPAにあります。このSPAで日EUは、民主主義、法の支配、人権、自由という普遍的価値と原則を分かち合うことを宣言いたしました。安全保障環境は目まぐるしく変化いたしますが、我々は、この基礎となる価値観、原則をどんな時でも守り抜くという決意のもと、平和と安定に貢献していかなければなりません。そして、それを行動で示していく必要があります。

今後とも、我が国が掲げる「FOIP」と今後策定される「共同コミュニケーション」を含むEUの新たな「戦略」が相乗効果を発揮できるよう、ロワゾー委員長、シャルデモーゼ団長のほかご列席の皆様とも緊密な連携を図り、共に地域の平和と安定により積極的に貢献していきたいと考えております。ご静聴ありがとうございました。