旧「指針」は、昭和51年に開催された日米安全保障協議委員会で設置された防衛協力小委員会における研究・協議の結果、日米間で行われるべき研究作業のガイドラインとしての性格を有するものとして、昭和53年に策定されたものです。これは日本が他国からの攻撃を受けた際の自衛隊と米軍の協力に重点をおいてまとめられたものです。日米両国は、これに基づき共同作戦計画の研究を始めとした各種研究を行ってきました。
冷戦が終結するなど国際情勢が変化し、また、冷戦後のわが国の防衛力の役割についても平成7年に策定された防衛大綱において新たに定められるに至り、平成8年4月の「日米安全保障共同宣言」において、「指針」についても、その見直しに着手することが、日米両政府間で合意されました。この見直しは、わが国の安全保障上不可欠な要素である日米安全保障体制の信頼性向上のために行われたものであり、わが国の安全保障政策上大きな意義があります。
平成8年4月、日米両国首脳により発表された「日米安全保障共同宣言」において、昭和53年の「指針」の見直しを開始することが合意されました。その後、平成8年6月に見直し作業を行う主体である防衛協力小委員会を改組した上で見直し作業が開始され、同年9月には、見直しの進捗状況報告を、また、平成9年6月には中間とりまとめをそれぞれ作成しました。そして平成9年9月23日ニューヨークで行われた日米安全保障協議委員会において、新たな指針が了承されました。
この「指針」見直し作業に当たっては、内外に対しその透明性を確保することが重要であると認識し、中間とりまとめ及び新たな指針を公表しました。また、中間とりまとめ及び新たな指針の公表直後に日米政府関係者が中国、韓国を始めアジア太平洋諸国に対し広く説明を行いました。
これらのことは、「指針」見直し作業のプロセスの透明性を確保するという点で、各国からも評価されています。
新たな指針の最も重要な目的の一つは、
の3つの分野における日米両国の役割並びに協力及び調整のあり方について、一般的な大枠及び方向性を示し、より効果的かつ信頼性のある日米協力を行うための堅固な基礎を構築することにあります。
新たな指針及びその下で行われる取組みは、以下の基本的な前提及び考え方に従います。
平素から行う協力として、日米両国政府は、現在の日米安全保障体制を堅持し、各々が必要な防衛態勢の維持に努めるとともに、情報交換及び政策協議、安全保障面での種々の協力及び日米共同の取組み等の様々な分野での協力を充実します。
日本は防衛大綱に基づき、自衛のために必要な範囲内で防衛力を保持します。米国は、そのコミットメントを達成するため、核抑止力を保持するとともに、アジア太平洋地域における前方展開兵力を維持し、かつ、来援し得るその他の兵力を保持します。
日本に対する武力攻撃に際しての共同対処行動等は、引き続き日米防衛協力の中核的要素であり、日本に対する武力攻撃が差し迫っている場合と日本に対する武力攻撃がなされた場合についての日米両国の役割並びに協力及び調整の在り方が示されています。
内容的には、日本は原則として限定小規模侵略を独力で排除するという旧「指針」の考え方に対し、日本に対する武力攻撃に際しては、日本が主体となって防勢作戦を行い、米国がこれを補完・支援することとしています。また、統合運用の重要性について記述するとともに、作戦構想を機能別に整理しています。
作戦構想 | 自衛隊 | 米軍 | |
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日本に対する航空侵攻に対処するための作戦 | 日本に対する航空侵攻に対処するための共同作戦を実施 | ||
・防空のための作戦を主体的に実施 | ・自衛隊の行う作戦を支援 ・打撃力の使用を伴う作戦を含め、自衛隊の能力を補完する作戦を実施 |
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日本周辺海域の防衛及び海上交通の保護のための作戦 | 日本周辺海域の防衛、海上交通の保護のための共同作戦を実施 | ||
・日本の重要な港湾及び海峡の防備、日本周辺海域での船舶の保護、その他の作戦を主体的に実施 | ・自衛隊の行う作戦を支援 ・機動打撃力の使用を伴う作戦を含め、自衛隊の能力を補完する作戦を実施 |
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日本に対する着上陸侵攻に対処するための作戦 | 日本に対する着上陸侵攻に対処するための共同作戦を実施 | ||
・日本に対する着上陸侵攻を阻止し排除するための作戦を主体的に実施 | ・主として自衛隊の能力を補完する作戦を実施 ・進行の規模、態様その他の要素に応じ、極力早期に来援し、自衛隊の作戦を支援 |
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そ の 他 の 脅 威 へ の 対 応 |
不正規型攻撃(ゲリラコマンドウ攻撃等) | ・極力早期に阻止し排除するための作戦を主体的に実施 ・関係機関と密接に協力・調整 |
・事態に応じて自衛隊を適切に支援 |
弾道ミサイル攻撃 | 攻撃に対応するため密接に強力、調整 | ||
・日本に対し必要な情報を提供 ・必要に応じ、打撃力を有する部隊の使用を考慮 |
「周辺事態」とは、日本周辺地域における事態で日本の平和と安全に重要な影響を与える場合を指します。これは地理的概念ではなく、生じる事態の性質に着目したものです。
この周辺事態における日米協力として、
第1に日米が各々主体的に行う活動における協力として、救援活動及び避難民への対応措置、捜索・救難、非戦闘員退避活動、経済制裁の実効性を確保するための活動における協力。
第2に米軍の活動に対する日本の支援として、施設の使用や後方地域支援(補給、輸送、整備、衛生、警備、通信等)における協力。
第3に運用面における日米協力として、警戒監視、機雷除去、海・空域調整の各分野での協力。
なお、周辺事態に際していかなる協力を行うのかは、個々の状況に応じ日本が主体的に決定するものです。
救援活動及び避難民への対応のための措置
捜索・救難
非戦闘員を退避させるための活動
国際の平和と安定の維持を目的とする経済制裁の実効性を確保するための活動
施設の使用
後方地域支援
日本に対する武力攻撃や周辺事態に円滑かつ効果的に対応できるよう計画についての検討を行うとともに、準備のための共通の基準及び共通の実施要領等を確立することを目的として、日米の関係機関が関与する包括的なメカニズムを構築しています。
また、緊急事態においてそれぞれの活動に関する調整を行うために、日米の関係機関の関与を得た調整メカニズムを平素から構築することとしています。
これらの作業と並行して、日本として法的側面を含む指針の実効性確保のための措置に、政府全体として取組んでいく考えです。
小渕恵三外務大臣、久間章生防衛庁長官及びウィリアム・コーエン国防長官は、l998年1月20日、東京において会談を行い、新たな指針の下での作業の進捗状況等について協議を行いました。日米双方は、防衛協力小委員会(SDC)による共同作戦計画についての検討及び相互協力計画についての検討の基礎的作業の進捗状況について満足の意を表しました。
そして、日米安全保障協議委員会(SCC)の構成員により、計画についての検討並びに共通の基準及び実施要領等の確立のための包括的なメカニズムの構築が了承され、日米間の共同作業が本格的に開始されることになりました。
また、この会合において、日米双方は、調整メカニズムを構築するための努力を継続することを決定しました。