防衛協力小委員会
於 ハワイ州ホノルル
1997年6月7日
日米同盟関係は、日本の安全の確保にとって必要不可欠なものであり、また、アジア太平洋地域における平和と安定を維持するために引き続き重要な役割を果たしている。また、日米同盟関係は、この地域における米国の肯定的な関与を支えるものである。この同盟関係は、自由、民主主義及び人権の尊重等の共通の価値観を反映するとともに、より安定した国際的な安全保障環境の構築のための日米共同の努力をはじめとする広範な協力の政治的な基礎となっている。
1996年4月に橋本総理大臣とクリントン大統領により発表された「日米安全保障共同宣言」は、日米安全保障関係が、共通の安全保障上の目標を達成するとともに、21世紀に向けてアジア太平洋地域において安定的で繁栄した情勢を維持するための基礎であり続けることを再確認した。この同盟関係によって醸成された安定的で繁栄した情勢は、この地域のすべての者の利益となる。
1978年11月27日の第17回日米安全保障協議委員会(SCC)で了承された「日米防衛協力のための指針」(「指針」)は、防衛の分野における包括的な協力態勢に関する研究・協議の結果として策定された。その後、日米両国の関係者は、共同作戦計画についての研究をはじめ、各種の共同の取組みを進めてきた。これらの共同の取組みは、日米安全保障体制の信頼性を増進させた。
冷戦の終結にもかかわらず、この地域には不安定性と不確実性が依然として存在しており、日本周辺地域における平和と安定の維持は、日本の安全のために一層重要になっている。日米両国政府は、冷戦後の情勢の変化に鑑み、「指針」の下での成果を基礎として、日米防衛協力を強化するための方途を検討することを決定し、以下の分野について検討を行ってきている。
新たな指針の最も重要な目的の一つは、日本に対する武力攻撃又は周辺事態に際して、日米が協力して効果的にこれに対応しうる態勢を構築することである。新たな指針は、平素からの及び緊急事態における日米各々の役割並びに相互間の協力及び調整の在り方について、一般的な大枠及び方向性を示すものであり、今年秋の策定後に日米両国の関係者が行うこととなる共同の取組みに対するガイダンスを与えるものである。
1996年6月、日米両国政府は、1995年11月の日本の「防衛計画の大綱」及び「日米安全保障共同宣言」を踏まえて「指針」の見直しを行うため、SCCの下にある防衛協力小委員会(SDC)を改組した。1996年7月以降、日米両国政府の代表者は、種々のレベルで見直しを行ってきた。1996年9月、SCCは、SDCが提出した「日米防衛協力のための指針の見直しの進捗状況報告」を了承し、SDCに対して1997年秋に終了することを目途に見直し作業を進めるよう指示した。
1996年6月、日米両国政府は、1995年11月の日本の「防衛計画の大綱」及び「日米安全保障共同宣言」を踏まえて「指針」の見直しを行うため、SCCの下にある防衛協力小委員会(SDC)を改組した。1996年7月以降、日米両国政府の代表者は、種々のレベルで見直しを行ってきた。1996年9月、SCCは、SDCが提出した「日米防衛協力のための指針の見直しの進捗状況報告」を了承し、SDCに対して1997年秋に終了することを目途に見直し作業を進めるよう指示した。
「指針」見直し及び新たな指針の下での取組みは、以下の基本的な前提及び考え方に従って行われる。
SDCは、より効果的な日米協力に資するような考え方及び具体的な項目を洗い出すことを目標として検討を行ってきた。SDCは、その作業の概要を公に明らかにするものとして、この中間とりまとめを発表する。この中間とりまとめは、見直しに対する理解を促進すること及び国内における議論の基礎を提供することを目的とするものである。この中間とりまとめに示された考え方及び具体的な項目の取扱いについては、日米両国内における更なる検討に委ねられる。この検討には、これらの考え方及び具体的な項目に関する法的及び政策的な側面の検討が含まれる。
新たな指針の下における日米協力に関するSDCの協議の概要は、以下のとおりである。なお、以下の考え方や具体的な協力項目は、これまでのSDCの作業に基づくものであり、今後の更なる作業の結果、修正・追加があり得る。
日米両国は、日米安全保障体制を堅持する。日本は、「防衛計画の大綱」に則り、自衛のために必要な範囲内で防衛力を保持する。米国は、そのコミットメントを達成するため、核抑止力を保持するとともに、アジア太平洋地域における前方展開兵力を維持し、かつ、来援しうるその他の兵力を保持する。
正確な情報及び的確な分析は安全保障の基礎である。日米両国政府は、アジア太平洋地域の情勢を中心として両国が関心を有する国際情勢についての情報及び意見の交換を強化するとともに、防衛政策及び軍事態勢についての緊密な協議を継続する。
このような情報交換及び政策協議は、SCC及び日米安全保障高級事務レベル協議(SSC)を含むあらゆる機会をとらえ、できる限り広範なレベル及び分野において行われる。
日米両国政府は、この地域における安全保障対話・防衛交流及び国際的な軍備管理・軍縮の推進のため各々努力し、また、必要に応じて協力する。
日米いずれかの又は両国の政府が国際連合平和維持活動又は人道的な国際救援活動に参加する場合には、日米両国政府は、必要に応じて、相互支援のため密接に協力する。日米両国政府は、輸送、医療、情報交換及び教育訓練等の分野における協力の要領を準備する。
大規模災害の発生を受け、日米いずれかの又は両国の政府が関係政府又は国際機関の要請に応じて緊急援助活動を行う場合には、日米両国政府は、必要に応じて密接に協力する。
日米両国政府は、日本に対する武力攻撃及び周辺事態に際して効果的な協力が行われるよう、計画についての検討を含む共同作業を進め、日米協力の基礎を構築する。
日米両国政府は、このような共同作業を検証するとともに、自衛隊及び米軍をはじめとする日米両国の関係機関による円滑かつ効果的な対応を可能とするため、共同演習・訓練を強化する。また、日米両国の関係機関の関与を得て、両国間の調整メカニズムを平素から構築しておく。
日米両国政府は、情報交換及び政策協議を強化するとともに、日米両国間の調整メカニズムの運用を早期に開始する。日米両国政府は、適切に協力しつつ、合意によって選択された準備段階に従い、整合のとれた対応を確保するために必要な準備を行う。また、日米両国政府は、情勢の変化に応じ、情報収集、警戒監視及び不法行為対処の態勢を強化するとともに、事態の拡大を抑制するための措置を講ずる。
なお、周辺事態の推移によって日本に対する武力攻撃が差し迫ったものとなるような場合には、日本の防衛のための準備と周辺事態への対応又はその準備との間の密接な相互関係に留意する。
日本は、日本に対する武力攻撃に即応して主体的に行動し、極力早期に侵略を排除する。その際、米国は、日本に対して適切に協力する。このような日米協力の在り方は、武力攻撃の規模、態様、事態の推移その他の要素により異なるが、これには、共同対処行動の実施、そのための準備、事態の拡大を抑制するための措置、警戒監視及び情報交換についての協力が含まれ得る。
自衛隊及び米軍が作戦を共同して実施する場合には、双方は、整合性を確保しつつ、適時かつ適切な形で、各々の防衛力を運用する。その際、自衛隊は、主として日本の領域及びその周辺海空域において防勢作戦を行い、米軍は、自衛隊の行う作戦を支援する。米軍は、また、自衛隊の能力の及ばない機能を補完するための作戦を実施する。
共同で実施する作戦については、新たな作戦の考え方、装備技術の進展、弾道ミサイルによる攻撃等の新たな様相の脅威等の要素を勘案しつつ、「指針」に示された「作戦の構想」及び前記の共同対処の基本的な考え方を踏まえて構想を検討する。特に、自衛隊及び米軍の各々の統合運用の重要性に留意する。
その際、「指針」を踏まえつつ、以下の機能に関する協力及び調整を強化する。
また、自衛隊及び米軍が果たす役割に加え、その他の政府機関が果たす役割も考慮するとともに、近年におけるC4Iシステム(指揮、統制、通信、コンピューター及び情報のシステム)の向上も考慮する。
周辺事態が予想される場合、日米両国政府は、情報交換及び政策協議を強化するとともに、日米両国間の調整メカニズムの運用を早期に開始する。日米両国政府は、適切に協力しつつ、合意によって選択された準備段階に従い、整合のとれた対応を確保するために必要な準備を行う。また、日米両国政府は、情勢の変化に応じ、情報収集、警戒監視及び不法行為対処の態勢を強化するとともに、事態の拡大を抑制するための措置を講ずる。
周辺事態に際して、日米両国政府は、適切な対応措置を講ずる。日米両国政府は、適切な取決めに従って、相互支援のための活動を行う。SDCがこれまでに協議した協力検討項目の例は、以下に整理し、別表に列挙するとおりである。なお、この別表は、すべての協力項目を網羅的に示すものではなく、今後の更なる作業の結果、修正・追加があり得る。
日米両国政府は、現地当局の同意と協力を得つつ、各々の判断の下に、人道的な救援活動を行う。日米両国政府は、各々の能力を勘案しつつ、必要に応じて協力する。
日米両国政府は、必要に応じて、避難民の取扱いについて協力する。避難民が日本の領域に流入してくる場合については、主として日本が責任をもってこれに対応し、米国は、適切な支援を行う。
日米両国政府は、日本周辺海域における捜索・救難活動について適切に協力する。
日米両国政府は、国際の平和と安定の維持を目的とする経済制裁の実効性を確保するための活動に対し、各々の判断の下に寄与するとともに、各々の能力を勘案しつつ、適切に協力する。
緊急事態に際して、日米両国政府は、状況が許す限り、各々の国民を安全な地域に退避させる。日米両国政府は、自国の国民の退避及び現地当局との関係について各々責任を有するが、日米両国政府は、いずれか一方の政府の要請に基づき、適切な場合には、所要及び能力に関する情報を交換する。
日米安全保障条約及びその関連取極に基づき、日本は、施設・区域の追加提供を適時かつ適切に行うとともに、米軍による自衛隊施設及び民間空港・港湾の一時的使用を確保する。
日本は、日米安全保障条約の目的の達成のため活動する米軍に対して、後方地域支援を行う。この後方地域支援は、米軍が施設の使用及び種々の活動を効果的に行うことを可能とすることを主眼とするものである。そのような性質から、後方地域支援は、主として日本の領域において行われるが、戦闘行動が行われている地域とは一線を画される日本周辺の公海及びその上空において行われることもあると考えられる。
後方地域支援を行うに当たって、日本は、中央政府及び地方公共団体の機関が有する権限及び能力並びに民間が有する能力を適切に活用する。自衛隊は、日本の防衛及び公共の秩序維持のための任務の遂行と整合を図りつつ、適切にこのような支援を行う。
周辺事態は、日本の平和と安全に重要な影響を与えており、自衛隊は、生命・財産の保護及び航行の安全確保のため、情報収集、警戒監視、機雷の除去等の活動を行う。米軍は、日本周辺地域における平和と安全の回復のための活動を行う。
関係機関の関与を得つつ協力及び調整を行うことにより、自衛隊及び米軍の双方の活動の実効性は大きく高められる。
機能及び分野 | 検討項目例 | ||
人道的活動 |
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捜索・救難 |
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国際の平和と安定の 維持を目的とする経 済制裁の実効性を確 保するための活動 |
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非戦闘員を退避さ せるための活動 |
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米軍の活動に対 する日本の支援 |
施設の使用 |
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後 方 地 域 支 援 |
補給 |
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輸送 |
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整備 |
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医療 |
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警備 |
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通信 |
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その他 |
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運用面に おける 日米協力 |
警戒監視 |
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機雷除去 |
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海・空域調整 |
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日米両国の関係者は、今年秋に新たな指針が策定された後、日本に対する武力攻撃及び周辺事態に際しての日米協力に関し、新たな指針が示す一般的な大枠及び方向性の中で、以下の共同作業を行う。これに関連して、日米両国政府は、共同作業のための体制を引き続き維持しかつ改善する。このため、日米両国政府は、共同作業の実効性が確保されるよう、自衛隊及び米軍のみならず、各々の政府のその他の関係機関の関与を得て包括的なメカニズムを構築する。このような作業は、計画的かつ効率的に進めることとし、その際、SCC及びSDCは、日米間の調整に重要な役割を果たす。その進捗及び結果は、節目節目に適切な形でSCC及びSDCに対して報告される。
共同作戦計画についての検討及び相互協力計画についての検討は、その結果が日米両国政府の各々の計画に適切に反映されることが期待されるという前提の下で、種々の状況を想定しつつ行われる。
日米両国政府は、日本に対する武力攻撃に際して共同対処行動を円滑かつ効果的に実施しうるよう、引き続き平素から協力する。自衛隊及び米軍は、作戦、情報、後方支援等の分野において協力することとし、このため、情勢の変化を踏まえて、共同作戦計画についての検討を行う。
また、日米両国政府は、周辺事態に円滑かつ効果的に対応しうるよう、相互協力計画についての検討を行う。日米両国政府は、共同作戦計画についての検討と相互協力計画についての検討との間の整合を図るよう留意することにより、周辺事態が日本に対する武力攻撃に波及する可能性のある場合又は両者が同時に生起する場合にも適切に対応しうるようにする。
日米両国政府は、日本の防衛のための準備に関し、合意により共通の準備段階を選択しうるよう、共通の基準を平素から確立する。この準備段階は、自衛隊、米軍その他の関係機関による日本の防衛のための準備に反映される。日米両国政府は、また、周辺事態における協力措置の準備に関し、合意により共通の準備段階を選択しうるよう、共通の基準を確立する。
日米両国政府は、日本の防衛のために必要な共通の実施要領等を予め準備しておく。この実施要領等には、作戦、情報及び後方支援に関する事項並びに日米の部隊間の相撃を防止するための調整要領に関する事項とともに、各々の部隊の活動を適切に律するための基準が含まれる。自衛隊及び米軍は、また、相互運用性の重要性に留意しつつ、通信電子活動等に関し、相互に必要な事項を予め決定しておく。
日米両国政府は、日本に対する武力攻撃及び周辺事態に際して日米が各々行う活動の間の整合を図るとともに適切な日米協力を確保するため、日米両国の関係機関の関与を得て、両国間の調整メカニズムを平素から構築しておく。
新たな指針は、日米安全保障関係を取り巻く諸情勢の変化に適切に対応しうるよう、必要に応じて適時かつ適切な形で見直されうるものとする。