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自 衛 隊 百 科
(12月放送内容)



テ−マ:防衛産業が直面する課題

パ−ソナリティ−:

 自衛隊百科のコ−ナ−です。さて、毎月1回ないし2回、東北防衛局の増田義一局長をスタジオにお迎えして、お話しをいただいています。どうぞよろしくお願い致します。


増田局長:

 よろしくお願い致します。


パ−ソナリティ−:

 早速ですが、今日はどういったお話しいただけますか。


増田局長:

 はい。今日は防衛産業が直面する課題についてお話しをしたいと思います。


パ−ソナリティ−:

 はい。防衛産業を巡る環境には、厳しいものがあるとお聞きしましたがどうなのでしょか。

増田局長:
 はい。大変厳しい環境にあるわけですけれども、これは財政事情が非常に厳しいわけですよね、そういった中で防衛関係経費が抑制されているわけですが、それとともにですね、防衛装備品が高性能化するに伴いまして、価格が高くなっているのですね、その結果どうなるのかというと、調達数量が減少しているわけであります。調達数量が減るとですね、さらに価格の上昇を招く、すなわち、生産の際にスケ−ルメリットというものは働かないわけですから、価格が上昇致しまして、そういう悪循環がどんどん進展していくというようなことが見受けられます。調達数量が減少しますと、生産ラインとかはですね、技術者、技能者を維持していくことが非常に難しくなってくるわけですよね。中には撤退を始めた企業も見受けられるというような状況になっております。


パ−ソナリティ−:

 なるほど。撤退を始めた企業もあるということで、本当に防衛産業を巡る環境は厳しいものなのだなということがわかりますが、諸外国の防衛産業も同じような状況なのでしょうか。


増田局長:

 そうですね、防衛装備品の高性能化に伴って、価格が高いものになるという状況は同じですね。しかし、決定的に異なる点がありまして、これはどういうことかと言うと、こういった状況に対処するために、防衛産業の国際化を推進しているというのが、諸外国の特に目立つ性格であります。


パ−ソナリティ−:

 はい。防衛産業の国際化を推進しているということですが、具体的にはどのような国際化が進展しているのでしょうか。


増田局長:

 そうですね、防衛装備品の開発にはですね、膨大な費用とリスクが懸かるわけですね、これを一国だけで負担するには荷が重いということで、何カ国かが共同で開発をして、資金やリスクを分担するということが行われています。それと同時に各国が得意とする進んだ技術を持ち寄って、これに結集させるということで共同開発が盛んに行われているわけであります。あと生産についてもですね、国際共同生産というものが盛んに行われています。これによりまして、限られたコストで最良のものを造ろうということで、各国はですね、ベストバリュ−で生産できるものを担当しまして、装備のある部分をベストバリュ−で生産できる国があれば、その部分はその国に任せるというポリシ−でですね、国際分業体制が構築されているのが実情であります。


パ−ソナリティ−:

 なるほど。そういった国際共同開発、それから生産で多くの装備品が既に生み出されているということになるのでしょうか。


増田局長:

 はい。具体的な例を挙げますと、有名なもので申し上げますと戦闘機のF−35ですね、これは9カ国の共同開発がなされてます。アメリカ、イギリス、オランダ、イタリア等の9カ国ですね。あとユ−ロファイタ−という戦闘機もありますけれども、これはですね、イギリス、ドイツ、イタリア、スペインの4カ国の共同開発になっています。その他、輸送機でA400Mというのがありますけれども、これは8カ国の共同開発が行われておりますし、通信システムなども、MIDSというものがありますけれども、これは5カ国での共同開発が行われてます。こういった具合なんですけれども、開発や生産だけではなくてですね、その後の販売とかメンテナンス等のアフタ−サ−ビスですね、こういったものについても世界的ネットワ−クを構築して、効率的に実施がなされてます。要するに開発・生産に止まらず、その後の販売やメンテナンスなど、装備品のライフサイクル全般に亘って、防衛産業の国際化が進展しているのが見受けられます。


パ−ソナリティ−:

 なるほど。社会全般にグロ−バル化が進展していますが、それは防衛装備品についても同じということなのですね。


増田局長:

 はい。そういうことになりますね。それだけではなくてですね、こうした国際化に対応するために防衛産業を担う企業自体がM&A、国際的なM&Aですね、これを進展させて、グロ−バル企業に成長しています。M&Aの具体的な例を挙げてみますと、アメリカの防衛産業でボ−イング社というものがありますけれども、これは、もともとはボ−イング社の他にですね、マクドネルダグラスとか、ロックウェルインタ−ナショナルとか、こういったものがM&Aで合併をしています。あとは、ロッキ−ド・マ−チンという会社がありますけれども、これもロッキ−ドという会社とマ−チンマリエッダという会社、あとはロラ−ルという会社、その他の会社がくっついたものであります。あとヨ−ロッパ関係でもですね、BAEシステムズという会社がありますけれども、ブリティッシュ・エアロスペ−スとか、その他の会社が合併して出来ておりますし、あるいはEADSという会社もヨ−ロッパの会社を主体として、色々な国の会社と合併して出来上がっているところであります。


パ−ソナリティ−:

 なるほど。ここまでお話しをお伺いして、防衛産業の国際化・グロ−バル化がとても良いことだなと思ったのですが、日本はどうなのでしょか。


増田局長:

 日本はですね、武器輸出三原則というものがあります。この原則によりまして、武器そのものの輸出はもちろんできませんけれども、技術も外国へ移転することが出来ないと、それから資本参加とか、外国での工場の建設、これも禁止されますので、こういった多国間での国際共同開発・生産とか、防衛関連企業の国際的なM&Aというものは、日本の企業は出来ないということになります。


パ−ソナリティ−:

 なるほど。それで大丈夫なのでしょうか。


増田局長:

 そうですね、こういった国際化が主流になる中で、これに参加できないということは、技術的に遅れるのではないかと心配する人達が少なからず居ます。かつては、外国のものを国内でライセンス生産すればですね、これで技術的なキャッチアップはしていくことは出来るということであったのですが、最近は重要な部分はブラックボックス化されてましてですね、ライセンス生産をしても、ここの部分の技術は習得出来ないのですね。そういうことで技術的な遅れとかを心配されるわけですけれども、それ以前の話として、開発国というものは、自分の国への配備を優先しますから、外国からこういったものを導入しようと日本が考えてもですね、開発国が優先として、日本は後回しになるわけです。そういったことが心配されるわけですけれども、後回しにされるだけならまだ良いと、全く売ってくれるかどうか分からないといったこともですね、心配されるわけです。次期戦闘機F−Xというものがありますが、これはいわゆる第5世代の戦闘機をタ−ゲットにしておりますけれども、第5世代の戦闘機は国内で開発していませんので、いずれにせよ、外国から導入することになるわけであります。これについては、武器輸出三原則等の制約が無くて、最初の段階から国際共同開発に参加出来ていれば、タイムリ−な導入が出来たのではないのかというようなお話しなされる方も居られます。


パ−ソナリティ−:

 なるほど。そのお話しを聞くとちょっと心配になるような気もしてくるんですけれども、日本は今後どうすれば良いのでしょうか。


増田局長:

 今年は防衛大綱の見直しの年でありましてですね、既に有識者の懇談会である新しい時代の安全保障と防衛力に関する懇談会、略して新安防懇と読んでますけれども、ここでも色々なことが議論されて、その中でやはり、国際共同開発・国際共同生産に参加出来ないで良いのかということも議論されました。そういことを見ますと、武器輸出3原則がですね、この防衛大綱の中でどのように取り扱われていくのかということが、1つの注目点ではないのかなと思います。


パ−ソナリティ−:

 なるほど。良く分かりました。本日のこの時間は東北防衛局の増田義一局長にお越しいただきまして、お話しをいただきました。どうもありがとうございました。

増田局長:
 どうもありがとうございました。


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