自 衛 隊 百 科
自衛隊インビテーション
(5月放送内容)



テ-マ:法律ができるまで


パ-ソナリティ-:
 
本日も東北防衛局の齋藤雅一局長にお話しをいただきます。局長よろしくお願いいたします。
 
齋藤局長:
 よろしくお願いいたします。
 
パーソナリティー:
 今日は、法律が出来るまでというお題なんですが、どのようなお話しをしていただけるのでしょうか。
 
齋藤局長:
 はい。今日は、霞が関の国家公務員の仕事の一つである法律の作成について、私の経験に基づいてちょっとお話ししてみたいと思います。
 行政機関は、政府として対応する必要がある問題、よく“政策課題”や“政策目標”などと言われますが、それらがある場合、新しい政策を検討します。その結果、政策立案が必要と判断されれば、実現のための法律の作成に取りかかることになります。
 今回ラジオを聞いて下さっている皆さんには、これらの過程、公務員は国会の度、つまりは年がら年中やっているのですが、いかに大変な思いをしながらやっているのか、ご紹介したいと思います。
 
パーソナリティー:
 今回は、難しいお話しになりそうなんですが、ご紹介下さい。
 
齋藤局長:
 法律には、国会議員が提出するものと内閣が提出するものがあり、我々が原案を作成するのは、内閣提出の法律いわゆる“閣法”です。
 閣法の原案作成は、その制度を所管する各省庁において行われます。各省庁は、施策目標を実現するため、新たな法律の制定や既存の法律の改正・廃止の方針が決定されると、法律案の第一次案を作成します。
 特に、新規の立法などの場合、ゼロから制度の検討が必要になりますから、その場合、霞が関では“タコ部屋”などと呼ばれますが、法律制定や改正のための準備室が立ち上がります。
 ここに配属されることになる国家公務員は、法律が制定されるまでの間、ずっとタコ部屋に詰め込まれることになり、タコ部屋行きを告げられたときには、目の前が真っ暗になる人もいますね。
 
パーソナリティー:
 はい。そうなんですね。タコ部屋って呼ばれるのも、面白いですね。呼ばれた本人は大変そうですね。
 
齋藤局長:
 はい。その第一次案を持って、関係する省庁との意見調整が行われ、それが整い、法律案を国会に提出できる見通しが付けば、案文の作成を行います。これで法律案の原案が出来上がります。
 いよいよ次に、法案提出の最大の関門である、内閣法制局における審査が行われます。
 内閣が提出する法律案は、全て内閣法制局における審査を受けます。その審査は、各省庁の原案に対し、憲法や他の現行の法制との関係、立法内容の妥当性、立案の意図が正確に表現されているか、条文の表現や配列などの構成は適当か、用字・用語について誤りはないかというような点について、法律的、立法技術的にあらゆる角度から検討します。
 
パーソナリティー:
 とても厳格な審査が行われるのですね。ところで、内閣法制局で法律を審査するのは、どのような人なのですか。法律の鬼のような、とても恐ろしい人たちばかりを想像してしまいます。
 
齋藤局長:
 いえいえ、そんなことはないです。まず、最初に説明を聞くのは参事官と呼ばれる人達で、各省庁からの出向者です。私の印象では、皆さんとても穏やかで知的な方ばかりです。
 ただ、加藤さんが言ったとおり、仕事に関してはまさに“法律の鬼”ですので、各省庁の担当者は、参事官のするどい質問に回答しなければなりませんが、一度で終わるということはほぼ皆無で、何度も何度も、相手が納得するまで説明をしなければなりません。多くの宿題をもらって、徹夜で回答を作り、翌日、再度チャレンジする、そういうことがしょっちゅうあります。
 そして、参事官がOKとなっても、法制局の部長、次長、長官までの説明が完了しなければ閣議にかけられませんので、国会会期などの関係から、非常に時間的にタイトになり、場合によっては、ほとんど家に帰れないということもあります。
 
パーソナリティー:
 それは、大変ですね。着替えとかはどうなさっているんでしょうか。
 
齋藤局長:
 はい。泊まり込みの作業となれば、公務員はその辺の準備は慣れたものです。そして、何とか内閣法制局の審査をクリアすると、大臣から内閣総理大臣に対し、法律案の国会提出のための閣議請議を行い国会に提出されます。
 
パーソナリティー:
 国会に提出されれば、まずは、一安心というところですか。
 
齋藤局長:
 いやいや安心するのは、まだ早いです。
 内閣提出の法律案が国会に提出されると、提出を受けた議院の議長は、これを委員会に付託し、国会審議が始まります。審議は、法律案に対する質疑応答の形式で進められます。
 質疑の内容は、事前に政府に通告することとされていて、その通告は、大体、委員会が行われる前日の夕方くらいに行われ、悪くすると、深夜になることもあります。委員会は、翌日の午前中に行われることが多く、その場合、質問に対する回答を作成するためには、ほぼ徹夜で作業することになってしまいます。翌日早朝からは、答弁打合せといって政務三役のレクも入ります。これが、審議が終わるまでの間続きます。
 
パーソナリティー:
 まだ終わらないんですか。いい加減、嫌になりますよね。
 
齋藤局長:
 はい。我々も人間ですから、ため息をつきそうになることもありますが、法律に誤りがあってはならないし、立法府である国会において丁寧に説明し理解を得ることは、非常に重要なことですので、逆に大きな責任と、やりがいを感じます。
 私も、これまで数多くの法律に係わってきて、特に運用企画局国際協力課長として担当したPKO法の改正は、残念ながら成立には至りませんでしたが、PKO活動で海外に派遣した自衛隊が警護する場合や、宿営地を他国の軍隊と共同防衛する場合など、現在の平和安全法制にも繋がる非常に重要な仕事をさせていただきました。
 
パーソナリティー:
 なるほど。皆さん、大変な使命感をもって仕事をしてらっしゃるのですね。
 
齋藤局長:
 そうですね。そして委員会の審議が終了し、衆議院及び参議院の両議院で可決すれば、法律は成立し、その後、官報で公布されます。
 自分が係わった法律が公布された時は、達成感なのか安堵感なのか不思議な気持ちになりますね。
 なにより、苦労をともにしたメンバーとの連帯は、その後の仕事でも生かされることが多く、辛いというより得るものの方が多いです。
 
パーソナリティー:
 何か、学生時代のクラブ活動のような感じですね。
 
齋藤局長:
 おっしゃるとおりですね。その時の、そのメンバーでしか得られないものがあるのだと思います。
 この放送を聞いてくれている学生さんで、これから公務員を目指そうという人や、また将来の職業はこれから決めるという人がいたら、是非公務員を志望してみて下さい。苦労もあるかもしれませんが、ここでしか体験できないもの、得られないものがたくさんありますので。
 防衛省も、私が当時の防衛庁に入庁した頃は、所管の法律の数が極めて少ない役所でしたが、その後の任務の拡大に伴い、大幅にその数を増加してきました。今回施行された平和安全法制には、多くの防衛官僚が重要な役割を果たしています。
 
パーソナリティー:
 はい。今日は、他では聞けないような、大変おもしろいお話しをお伺いいたしました。齋藤局長、どうも、ありがとうございました。
 
齋藤局長:
 はい。こちらこそ、どうもありがとうございました。
 



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