自 衛 隊 百 科
(11月放送内容)



テ−マ:防衛白書のポイント



パ−ソナリティ−:

 8月初旬ですが、防衛省は今年の防衛白書を発表しました。全体的に拝見しますと、写真や図表が多くて、ビジュアルな印象を受けるんですが、まず今年の白書がどのような作成方針で作られているのかについて局長からお伺いしたいと思います。


齋藤局長:

  はい、白書は過去1年間に生じた防衛省・自衛隊に関する動きを国民の皆様に理解して頂くための大切な文書ですから、何よりも「分かり易い白書」を追求しております。余談ですが、防衛省では、白書作成のための専属のスタッフを置いて専従態勢で白書を作っているんですよ。世には40種類もの白書があると言われていますが、おかげをもちまして防衛白書はその中でも分かり易いとの評判を頂いております。


パーソナリティー:

 なるほど。その防衛白書ですが刊行されて今回で40回目とお伺いしましたが、その意義などについても教えて頂けますか。


齋藤局長:

 はい、1970年に当時の中曽根防衛庁長官の指示で初めて刊行され、1976年からは毎年刊行されて本年で40回を数えました。今年は自衛隊が創設されて60周年という区切りの年でもあり、白書では自衛隊のこれまでの主な歩みとともに、これまでの40回で取り上げた主要な出来事を紹介しています。ご承知のとおり自衛隊は創設以降苦難の道を歩んできましたが着実にその活動範囲を広げ、国民からの信頼を受け我が国の安全保障のためになくてはならない存在に成長しました。過去1年に生じた防衛省・自衛隊に関する動きを1年に一度定期的に内外に示していくことは、一つは国民の皆様方に我が国の防衛という重要なテーマについて理解を深めて頂くという側面と、もう一つ我が国のような国際社会の主要国が、その防衛政策を対外的に明確に示すことで国際的な信頼を高めると言う二つの側面があります。白書を毎年刊行して防衛政策を説明している国はほとんど無く、白書は我が国のこの透明性の象徴であり、各国との信頼醸成にも資するものです。


パーソナリティー:

  防衛白書にはいろんな歴史が詰まっているんですね。その中身なのですが、国民の皆様はやはり最近の中国についての関心が高いように感じます。報道などでは、中国に対する見方が厳しくなったことが多く取り上げられていましたが、いかがでしょうか。

齋藤局長:
 はい、中国が我が国にとり重要な隣国であることは言を俟ちません。しかし中国については国際社会の責任ある大国として国際法などの規範の遵守が強く期待されているにもかかわらず、中国が現実にやっていることを見ると、期待とは裏腹に白書で具体的に指摘していますが、「力による現状変更」の試みが実際に見られるわけです。例えば、「海監」という中国海警局の船による我が国固有の領土尖閣諸島周辺の領海侵犯が頻繁に発生していますし、昨年11月にはこの尖閣諸島を含む形で「東シナ海防空識別区」を一方的に設定しました。また、中国戦闘機による自衛隊機への異常な接近など不測の事態を招きかねない危険なものも見られます。私は、前職で内閣官房の危機管理部門におり、こうした危険な行為に対し関係省庁で対応を協議して中国に対し厳重に抗議をするなどの政府としての一連の対応に携わりましたが、こうしたことが続くことは遺憾としか言いようがありません。
 また先程我が国の白書は透明性の象徴というお話をしましたが、逆に中国は国防費の内訳などについて極めて透明性を欠く中で軍事費を急増させており、名目上の規模は、過去26年間で約40倍、過去10年間で約4倍にもなっています。防衛白書では、こうした事実関係や、国際社会の反応なども分析して、その時々の記述を行っております。


パーソナリティー:

 なるほど、確かに中国については、私たちでも心配になる動きがありますが、もっと心配なのは、白書も書いているような「不測の事態を招きかねない危険な行動」というのが起きて、それがもっとエスカレートしてしまわないかということなんですが。


齋藤局長:

  その通りで、これは自衛隊に限らず警察や海上保安庁など現場にいる人達は、毅然として守るべきものは守る一方で、事態をエスカレートする口実をこちらから与えることがないように「冷静かつ毅然と」対応していかなければなりません。その意味で現場は本当に大変です。また、現場でのちょっとした出来事が大きな問題に発展してしまう可能性も否定出来ませんから、防衛省は、多くの国との間で構築されている海上連絡メカニズムを、中国との間でも構築することが急務と考え、様々な働きかけを行っています。その辺りは「日中の防衛交流・協力」の部分に記述されています。


パーソナリティー:

 日中両国は重要な隣国ですから、意思疎通を密にすることはすごく重要ですよね。ところで白書は極めて大部ですが読者に分かり易いように概要をお話頂けますか。
 
齋藤局長:
 はい、第1部の「我が国を取り巻く安全保障環境」では、今申し上げた中国の動きの他、北朝鮮のミサイル発射や核実験などの挑発的な行為、ロシアの軍事的活動の活発化に加え、日本の周辺には領土問題等の不透明・不確実な要素が残されていること、さらには、多くの国が軍事力の近代化を継続していることから、安全保障環境は「一層厳しさを増している」と評価しています。
  また第2部では、「我が国の安全保障・防衛政策」として、過去1年間にとられた様々な施策、例えば国家安全保障会議、いわゆる日本版NSCの創設ですとか、新防衛計画の大綱や新中期防衛力整備計画の策定などが取り上げられていますし、さらに本年71日に閣議決定された「新たな安全保障法制の整備のための基本方針」も盛り込まれています。これは今後予定されている安全保障法制の基礎となるものですので、こうした部分に目を通して頂くと、これからの国会などでの議論を理解する上でも役立つと思います。
  3部が「我が国の防衛のための取り組み」で、「国民の生命・財産と領土・領海・領空を守り抜く」ための防衛省の取り組みを記述しました。この中では東北の方々にも関心の高い災害派遣についても記述されており、災害対処のための自衛隊の態勢ですとか自衛隊の平素からの取り組みが記述されており、災害派遣に関する防衛省の考え方が分かるようになっています。 最後が第4部で、今年初めて独立させた部です。「防衛力の能力発揮のための基盤」ということで、自衛隊がその持てる能力を十分に発揮するためにはこれを支える基盤が重要という認識に基づくものです。ここでは、本年4月に新たに定めた防衛装備品移転3原則などが記述されているほか、地域社会や国民との関わりが収められています。


パーソナリティー:

 それでは、その他のポイントとしてはどのようなものがあるのでしょうか。
 
齋藤局長:
 時間の関係で詳しくは申し上げられませんが、白書全体としては安倍総理が言われている「国際協調主義に基づく積極的平和主義」という考え方が随所に散りばめられていますね。巻頭言で小野寺大臣が言われているとおり「防衛省・自衛隊の60年の歴史は、我が国の平和国家としての歩みそのものに他ならない」こと、「我が国は国際協調主義に基づく積極的平和主義のもと、これまでの平和国家としての歩みを堅持しつつ、我が国の安全と地域・国際社会の平和と安定を維持していく」ことを明確に打ち出しています。この点は国民の皆様にも是非理解して頂きたい点です。


パーソナリティー:

 今年も大変充実した白書になっているんですね。

 
齋藤局長:
 ありがとうございます。今年の白書では、冒頭言われた写真や図表の充実だけではなく、トピックとなる事項についてはコラムで詳しく紹介・解説をしています。例えば岩手の中学生が東日本大震災の際の自衛隊の活動へのお礼に統合幕僚長を訪ねた心温まるエピソードなどが取り上げられており、コラムを読むだけでも面白い読み物になっていると思います。
 とは言え、全体はかなりの分量なので、今年も、電子書籍版、スマートフォン版を作成しそこでダイジェスト版を用意しました。ダイジェストといっても内容は結構充実していますので、これだけでも白書のツボは押さえることができます。その上で、ご関心のあるところについて本文をお読み頂ければ良いかと思います。是非一人でも多くの皆様に手にとってご覧頂けましたら幸いです。


パーソナリティー:

 確かにスマートフォンでしたら、ちょっとした時間でも見ることもできますよね。本日は防衛白書についてのポイントのお話をお伺いしました。東北防衛局の齋藤雅一局長にお話をお伺いしました。本日はどうもありがとうございました。

 
齋藤局長:
 ありがとうございました。


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