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自 衛 隊 百 科
(12月放送内容)



テ−マ:安全保障に関する推薦図書(その1)

パ−ソナリティ−:

 自衛隊百科のコーナーです。このコーナーでは毎月1回東北防衛局の増田義一局長にお話をいただいております。
 それでは局長、本日もよろしくお願いいたします。


増田局長:

 よろしくお願いいたします。


パ−ソナリティ−:

 では早速ですが、今日はどのようなお話をいただけますでしょうか。


増田局長:

 はい、今日はですね、安全保障に関する推薦図書ということでですね、幾つかの図書を紹介したいと思います。私が独断と偏見で選んだものですけれども、安全保障政策に関心のある学生さんとかですね、社会人の方、これから防衛省で働きたいと考えていらっしゃる方などにはですね、参考になるかなと思います。


パ−ソナリティ−:

 はい、お願いいたします。

増田局長:
 まずはですね、防衛政策の実務的な観点から2冊紹介させていただきたいと思います。1冊目は、「日本の防衛 防衛白書」ですね。「防衛白書なんか誰でも知っているよ、こんなのを紹介するまでもないじゃないか」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんけれども、これは国民の皆様にですね、防衛政策についてこれ1冊だけで全て理解していただけるようにですね、防衛省が英知を結集して作った力作ですから、これを紹介しないわけにはいかないということで紹介させていただきましたが、防衛白書は、最新の防衛政策を網羅的に扱っていますので、知識の整理にとっても便利だと思います。冒頭にはダイジェストが載っていますので、まずダイジェストをじっくり読んでから本文に入ったらいいんじゃないかなと思います。


パ−ソナリティ−:

 防衛白書はやはりカラーで写真やグラフなどの図も入っているので、大変読みやすい、初めて触れる方でも読みやすい内容になっていると思いますね。


増田局長:

 はい、2冊目はですね、朝雲新聞社が出しております「防衛ハンドブック」ですね。これは読物ではなくて資料集ですので、読んでもあまり面白くはないんですね。しかし、防衛政策に関する詳しい資料が掲載されていてですね、資料集としては何かと便利ですのでこれを紹介させていただきました。


パ−ソナリティ−:

 はい、今の2冊が防衛政策の実務的観点で書かれているというものなんですね。


増田局長:

 はいそうです。次にですね、著名な学者が書いたオーソドックスな本を4冊紹介させていただきたいと思います。安全保障に関してオーソドックスなものとなりますと、日本よりも外国のものになるんですが、なかには既に古典と位置づけられているものもありますけれども、それらの中から、今回はですね、私が直接教えを受けた、すなわち面識のある先生方の書かれたものに絞って4冊紹介させていただきたいと思います。


パ−ソナリティ−:

 はい、お願いします。


増田局長:

 まず1冊目はですね、ジョセフ・ナイの「国際紛争 ― 理論と歴史」という本ですね。これは原題は、Understanding Global Conflict And Cooperation ということで、これを訳すと「国際紛争と協調」という書名になるわけですが、和訳の方はこの協調が落ちてしまっているわけですね。翻訳で題名を変えてしまうというのは日本ではよくあるんですが、特に映画の題名なんか全く違ったものになってしまったりしているんで、私はあまり感心しないんですけどもね。さて、この本は、この分野の入門書でありまして、アメリカで国際政治を学ぶ大学1年生が大抵読まされる本です。日本の大学でもかなり読まされているんじゃないかなあと思います。現在は第8版でありまして、初版が出て以来、版を重ねるたびにですね、国際情勢の変化を取り入れて少しづつ書きかえられています。著者のジョセフ・ナイはですね、ハーバード大学の公共政策大学院、これはケネディー・スクールといいますが、そこの学長を務めた人です。学者の世界にとどまらなくて実務面でも色々経験されていまして、クリントン政権では国際安全保障担当の国防次官補とかですね、カーター政権での国務次官補なども歴任しています。私は昔留学していたんですが、その当時は湾岸戦争の時代でしたけれども、ナイ教授の専門はですね、東アジアの安全保障はまだ教授の専門外でありまして、あるとき私はですね「今後の日本の国際貢献の見通し」について説明してくれと言われてですね、ナイ教授に説明させられたことがありましたけれども、じっと聞き入ってくれていたことが思い出されます。専門外ではありましたけれども関心はおそらくあったんじゃないかなと思います。その後、ナイ教授は東アジアの安全保障も専門とするようになりましてですね、今ではこの分野の権威になっております。「ナイ・イニシアティブ」というのがあるんですが、これは「東アジア戦略報告」のことをですね、「ナイ・イニシアティブ」といったりされますけれども、その後の日米同盟の再定義にですね、先鞭をつけた報告書だったんですね、ナイ教授はその後ですね、日米同盟に深くかかわっていますので、日本の防衛・安全保障関係の人でですね、この人の名を知らない人はいないと思います。


パ−ソナリティ−:

 もともと専門的ではなかったのに、権威なり名前が誰にでも知られているというのはやっぱりすごいことなんですね。


増田局長:

 そうですね。短期間で専門外のものを集中的に勉強・研究してですね、あっという間にその分野のオーソリティーとなってしまうというのが、アメリカの学者の凄いところでありまして、ちょっと余談になりますけれども、カート・キャンベルという、これまた日本の防衛・安全保障関係者で知らない人のない学者さんがいますけれども、私の留学当時は、ハーバード・ケネディー・スクールの講師をやっていまして、東西冷戦、特に東ヨーロッパの専門家で通っていた人なんですね。当時は東アジアの安全保障は全くの専門外だったんですが、その後短期間で専門家になりまして、クリントン政権ではアジア太平洋担当の国防次官補代理を務めましたし、現在は東アジア太平洋担当の国務次官補をやっていますね。東アジアの安全保障の第一人者の一人としてですね、日米同盟にも深くかかわっているんですね。ジョセフ・ナイに話を戻しまして、最近「スマート・パワー」という本も出しましたので、興味のある人は読んでいただきたいと思いますが、一種の流行語ともなりました「ソフトパワー」とかですね「スマートパワー」とこういった言葉は、まさにこのナイ教授が元祖なんですね。


パ−ソナリティ−:

 それはとてもすごいことなんですね。


増田局長:

 それから2冊目はですね、グレアム・アリソンの「決定の本質」です。この本も、既にもう古典の部類に入ってしまったんじゃないかなあと思いますけれども、国際政治を学ぶ学生は必ず読まされますね。これはキューバ危機を題材にして、政策決定の過程を3つのアプローチでモデル化して分析したものでありまして、このモデル・ワン、ツー、スリーというのはですね、今では半ば常識みたいになっているのかなと思います。この著者のグレアム・アリソンもジョセフ・ナイと同様ですね、ハーバード・ケネディー・スクールの学長を務めた学者でありまして、私が留学していた当時はですね、ナイ教授とペアを組んで「アメリカ外交政策」という授業を受け持ってですね、二人で一緒に教えていました。非常に人気のある授業なので生徒が殺到しますから、初めに選考を行ってですね、正規の受講生と、オブザーバーを決めるんですね。それ以外の人はシャットアウトということでした。オブザーバーとして入れるだけでも結構ラッキーなんですが、私は正規の受講生に選ばれたので、とっても嬉しかったのをおぼえています。もう、21年前の話ですけれどもね。授業は毎回、ある情勢が付与されてですね、それに対してどういう政策を提言するかという、国家安全保障会議(NSC)のスタッフになったつもりでペーパーを作成しろということで、それで各自毎回提出するんですね。教室の授業では、そのNSCを模して議論を進めていくというもので、非常に臨場感があって大変勉強になりました。このアリソン教授もですね、学者の世界にとどまらないで、政府で実務に携わっています。例えば、クリントン政権下でですね、政策・計画担当の国防次官補として旧ソ連に残された核の管理政策などを推進しておりましたですね。


パ−ソナリティ−:

 なるほど、とてもすばらしい環境で勉強をされていたんだなあと思いましたけれども、是非こういった本を実際に手にとってみるべきだなあと思いますね。


増田局長:

 はい、ここまで説明したところで、推薦図書を全部紹介していると時間がなくなることに気がつきましたので、今日はここまでにいたしまして、つづきは次回やらせていただきたいと思います。このラジオで話したことはですね、東北防衛局のホームページに活字にして載せられているんですけれども、そちらに推薦図書の一覧表も添付してですね、著者、題名、出版社などが改めてわかるようにしておきますので、それも参考にしていただきたいと思います。

パ−ソナリティ−:
 はい、是非バックナンバーと併せてこちらの推薦図書をご覧いただきたいと思います。本日は、東北防衛局の増田義一局長に安全保障に関する推薦図書ということで、本の紹介をいくつかしていただきました。局長本日もどうもありがとうございました。

増田局長:
 どうもありがとうございました。



推 薦 図 書 一 覧
@
防衛省『日本の防衛:防衛白書 平成23年版』ぎょうせい、2011年

A
朝雲新聞社編集局『防衛ハンドブック 平成23年版』朝雲新聞社、2011年

B
ジョセフ・S. ナイ、デイヴィッド・A. ウェルチ『国際紛争 : 理論と歴史』
田中明彦、 村田晃嗣 訳、有斐閣、2011年
Nye, Joseph S., Understanding Global Conflict and Cooperation: An
Introduction to Theory and History, 8th ed.
(Boston: Longman, 2011)
(参考)
ジョセフ・S. ナイ『スマート・パワー : 21世紀を支配する新しい力』
山岡洋一、藤島京子 訳、日本経済新聞出版社、2011年
Nye, Joseph S., The Future of Power (New York: Public Affairs, 2011)

C
グレアム・T.アリソン 『決定の本質 : キューバ・ミサイル危機の分析』
宮里政玄 訳、中央公論社、 1977年
Allison, Graham T., Essence of Decision: Explaining the Cuban Missile
Crisis,
(Little Brown 1971)


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