防衛省・東北防衛局がおくる日本の防衛Q&A
(10月放送内容)



テ−マ:空母

パ−ソナリティ−:

 防衛省・東北防衛局がおくる日本の防衛Q&A、このコーナーでは防衛省・自衛隊や日本の防衛について、詳しく分かりやすくお話いただいております。本日も東北防衛局の増田義一局長にお話をいただきます。よろしくお願いいたします。


増田局長:

 よろしくお願いします。


パ−ソナリティ−:

 では早速ですが、今日はどういったお話をいただけますでしょうか。


増田局長:

 はい、今日は空母について話したいと思います。
8月にですね、中国の初の空母となるワリヤーグですが、これが試験航行を行ったというニュースがメディアに流れていました。防衛白書がこの間出ましたけれども、このワリヤーグの写真が出ていますので、ご覧になれる方は見ていただきたいと思います。それでアメリカの国防省がですね、最近、中国の軍事力に関する報告書というのを出したんですが、この中ではワリヤーグのほかにですね、中国国産の空母の建造が今年にも始まると、そして早ければ2015年に就役するということが書いてありますね。あとは今後十年以内に複数の空母を保有する見通しであるというようなことが記述されていまして、これはメディアでも取り上げられていましたので、最近、ニュースでは空母について、よく耳にするんじゃないかなと思います。


パ−ソナリティ−:

 そうですね、今、注目度がとても高いと思いますね。

増田局長:
  はい、それで今申し上げた中国のワリヤーグですが、これは元々ソ連が建造を始めた空母でしてね、建造途中でソ連が崩壊してしまいまして、ソ連から独立したウクライナのものになりました。船体までは出来ていましたので、これをウクライナは売却することにしたんですね。それをマカオの会社が中国で水上カジノとして使うという名目で購入しました。これはもう10年前の話ですけれども、ウクライナから中国に運ぶためにボスポラス海峡・ダーダネルス海峡を通過させなければならないんですが、海峡の沿岸国であるトルコがこれを認めるとか認めないとかスッタモンダしていたんですけれども、それを情報本部に私がいましてウォッチしていたのでよく覚えています。カジノとして使うというのは、当時どれだけの人が信じていたかは分かりませんが、結局、そうではなかったというのが分かったわけですね。
それで中国はこれまでもですね、鉄くずにするとかレジャー施設にするとかの名目で、退役した空母なんかを買っています。たとえばイギリスの「メルボルン」とかですね、ソ連の「ミンスク」「キエフ」こういったものを購入していますけれども、その後どうなったんですかね。


パ−ソナリティ−:

 恐いですね、ちょっと。


増田局長:

 人々が非常にこの「空母」というものに注目するわけですが、何でそんなに注目するのかと言えばですね、このPower Projection(パワー・プロジェクション) 能力にあると思います。パワー・プロジェクションというのは力の投影ということですが、空母があれば自分の国から離れた場所に対しても軍事力を発揮することができるわけですね。
ちなみに横須賀を母港としている米軍のジョージ・ワシントン、これは大型空母ですけれども、これには戦闘機が4個飛行隊載っているんですね。他にも電子戦機とか、早期警戒機、輸送機なども載っていますけれども、それらは省くとして、戦闘機だけで4個飛行隊というのは結構な数なんですね。
1個飛行隊で通常15機から20機ぐらいの戦闘機を私は一つの目安にしていますけれども、ちなみに日本の航空基地では1か所の航空基地で主だったところは、2個飛行隊の戦闘機を配置しています。例えば三沢では、F−2が2個飛行隊ありますし、千歳ではF−15が2個飛行隊といった具合ですね。ですから、空母ジョージ・ワシントンが4個飛行隊の戦闘機を載せてやってくるということはですね、千歳基地と三沢基地のような二つの航空基地を載せたひょっこりひょうたん島のようなものが近くまでやってくるというようなものですね。仮に領海ギリギリまで来たら、たったの12海里、22キロぐらいですから、そういった近くに突然この2つの航空基地が出現するようなもので、その政治的な圧力というものは相当なものだと思います。
そもそも経済力や軍事力というものは、外交力の後ろ盾となるわけですけれども、軍事力の中でもこの空母というのは、そういう意味ではですね、後ろ盾としては非常に有効なわけですね。
実際、国際政治の中で、空母が有効に使われている例はいくらでもあります。たとえば、リビアの件でも、早い段階からリビア沖に米空母が展開して、民主勢力を抑圧するカダフィ大佐に心理的圧力を加えていたわけですね。フランスもリビア沖に「シャルル・ドゴール」という空母を配置していました。最終的には、NATO軍が民主勢力の支援のために空爆を行ったんですけれどもね。


パ−ソナリティ−:

 なるほど、空母があってそれを見せるだけで結構な影響力が出るんですねえ。


増田局長:

 空母を建造するのはもちろんのこと、これを作戦可能な状態で維持していくのには、莫大な費用がかかります。空母に載せる艦載機はもちろんのことですが、空母を護衛・支援する艦艇や潜水艦も一緒に行動することになりますので、従って、かなりの経済力がなければ、空母を保有するというのは無理なんですね。空母を保有できる経済力がある国となれば、まずは主要先進国ですよね、G8諸国ということになるわけですが、このG8の8か国中、アメリカ、イギリス、フランス、イタリア、ロシアの5か国が空母を保有しています。更に、近年経済力をつけてきましたBrics4か国も全て空母の保有に非常に熱心で、ブラジル、ロシア、インドが既に保有していますし、中国はさきほど申し上げたとおりですね。他に空母を保有している国はですね、スペインとタイがありますけれども、それぞれ軽空母を1隻づつ保有しています。ただタイでは、財政難で空母の活動は不活発になっているというふうに聞いていますね。


パ−ソナリティ−:

 いろいろな国がやはり空母を持っているんですね。日本の場合はどうなんでしょうか。


増田局長:

 はい、もちろん自衛隊は空母を保有していません。まず厳しい財政事情というのがありますけれども、それは別としてですね、そもそも、過去に国会答弁で、我が国が攻撃型空母を保有することは憲法上許されないという政府側の答弁を述べていましてですね、その答弁の中で攻撃型空母というのは一体何かというふうに問われたときに、例えばアメリカのミッドウェー級の空母はこれに当たるというふうなことで言っています。そういうことで自衛隊は保有していないわけですが、余談になりますけれども、東日本大震災においては、米軍がトモダチ作戦ということで、大規模な救援活動を実施してくれましたが、ここでも被災地沖に空母を配置しましてですね、これが非常に役に立ちました。空母というのはそもそも本国から遠く離れたところで一定期間作戦を遂行できるようにできているわけですから、病院を始めとして何から何まで揃っているんですね。災害の対処には非常に役立つということがここで改めて良くわかったわけですが、こういった使い方は初めてというわけじゃないんですけれども、我が国の一部の人たちはこれを目の当たりにして、目から鱗ものだったんじゃないかなと思いますけれどもね。


パ−ソナリティ−:

 今日も東北防衛局の増田義一局長にお話をいただきました。どうもありがとうございました。


増田局長:

 どうもありがとうございました。
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