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自 衛 隊 百 科
(6月放送内容)



テ−マ:自衛隊による宇宙開発利用

パ−ソナリティ−:

 自衛隊百科のコーナーです。このコーナーでは毎月1回東北防衛局の増田義一局長にお越しいただいて、お話いただいております。
局長、本日もよろしくお願いいたします。


増田局長:

 よろしくお願いします。


パ−ソナリティ−:

 ではさっそくですが、今日はどのようなお話をいただけますでしょうか。


増田局長:

 これから本格的な夏がやってくるわけですが、夏といえば七夕、七夕といえば天の川、天の川といえば宇宙ということで、今日は、自衛隊による宇宙開発利用について話したいと思います。新防衛大綱の中でも、宇宙に関する文言が何箇所か出てきております。


パ−ソナリティ−:

 どのように書かれているのでしょうか。

増田局長:
 例えばですね、情報収集・分析能力の向上ということについて、「宇宙の開発及び利用を推進する。」とかですね、あるいは「宇宙の安定的利用といった国際公共財の維持・強化に積極的な役割を果たす。」とかですね、日米協力に関して、「宇宙における対応を含め、地域的及びグローバルな協力を推進する。」というようなことが書いてあります。最近、宇宙開発利用に関する大きな環境の変化がありましたので、この分野での進展が、今後おおいに期待できるかなあと考えています。


パ−ソナリティ−:

 宇宙開発利用分野の大きな環境の変化とは、どのようなものでしょうか。


増田局長:

 3年前の2008年5月に宇宙基本法が成立したことであります。これによって、それ以前と大きく流れが変わりました。以前は、1969年の国会決議という40年前の国会決議ですが、これで自衛隊による宇宙開発・利用に大きな制約が設けられていました。


パ−ソナリティ−:

  国会決議による大きな制約とは。


増田局長:

 この1969年5月の国会決議では、我が国の宇宙開発・利用は「平和の目的に限る」とされていたんですね、ここでいう「平和の目的」というのはイコール「非軍事」だとそういう議論がありまして、すなわち軍事による宇宙の利用はダメですよという議論なわけですが、自衛隊の衛星の利用等に制約が課せられていました。実際、政府側から「非軍事」と理解する旨の答弁が科学技術庁長官からなされたこともありまして、政府は慎重に対処してきたわけであります。


パ−ソナリティ−:

 1969年と結構昔に遡るわけなんですけれども、当時のことについて詳しく教えていただけますでしょうか。


増田局長:

 そうですね、1969年当時の時代背景を言いますとね、この年に宇宙開発事業団法というのができまして、我が国の宇宙開発が本格的にスタートした年です。また、その2年前の1967年に「宇宙の憲法」と言われる宇宙条約が発効しました。そういうことで随分昔の話ですけれども、そういうような状況にありました。この国会決議がですね、その後40年もこの制約というものが生き続けるということを当時の人が予測していたかどうかよく分かりませんけれども。


パ−ソナリティ−:

 たしかにそうですね。やはり問題になってしまったのでしょうか。


増田局長:

 当初は、まだ自衛隊の宇宙利用も無かったので問題はなかったんですが、世の中一般で、インテルサットだのインマルサットだの通信衛星の利用がドンドン行われていくようになりまして、自衛隊だけが通信衛星を使えないというおかしな話になってきたわけです。それで、これに対し政府は「一般化原則」というものを示してですね、ここでいう「平和の目的に限り」とは、「その利用が一般化しない段階における自衛隊による衛星の利用を制約する趣旨」だということを言いまして、この一般化原則によって、通信衛星は民間でも一般的に利用されていますので、いいでしょとそういうことになったわけですね。それで自衛隊も当時フリートサットの受信装置を装備したいという状況にあったわけですが、それを装備することができたわけです。私が防衛庁に入って間もない1985年頃の話ですが。それでも、インテルサットやインマルサットといった通信衛星が打ち上げられてから、もう既に20年以上も経過している頃の話であります。


パ−ソナリティ−:

 なるほど、一般化原則というものが一応出来ていたというお陰で、自衛隊も通信衛星を使えるようになったというわけなんですね。


増田局長:

 その後も、この一般化原則によってですね、自衛隊は、例えば、情報収集衛星の利用等も行ってきたわけです。しかし、この一般化原則も裏を返すと、利用が民間で一般化したものしか自衛隊は利用出来ませんということで、次第に安全保障上の足かせとなってきたということも事実であります。それで、先ほども申し上げた3年前(2008年5月)の宇宙基本法の成立によって、大きく流れが変わりましたので、今後が期待されるところです。


パ−ソナリティ−:

 はい。実際に今後が期待されているというのはどのようなことなんでしょうか。


増田局長:

 そうですね、宇宙開発・利用といっても非常に広範な分野がありますけれども、衛星に的を絞って簡単に整理しましょう。衛星の使用目的によって、1つ目はミサイル防衛分野ですね、2つ目が偵察・監視分野、3つ目が先ほども出てきました通信分野ですね、4つ目が航法分野、こういうふうに4つに分けられるのかなあと思います。


パ−ソナリティ−:

 では、初めの1つ目のミサイル防衛分野とは。


増田局長:

 そうですね、文字どおりミサイル防衛の分野ですが、早期警戒衛星ですね。早期警戒衛星というのは、主として静止軌道上から広い範囲を常時監視して、赤外線センサによって弾道ミサイル、これをどこかの国が発射するとそれを探知する衛星ですけれども。弾道ミサイルが発射されたら、いち早くこれで探知して迎撃の態勢をとらなければいけないわけです。今の早期警戒衛星というのは、ミサイルのエンジンが噴射している間だけしか探知できないものですから、噴射の後、ミッドコースのフェーズでも追尾を続けられるような宇宙追尾監視衛星、STSSといっていますけれども、そういったものの開発がいま進められているところです。


パ−ソナリティ−:

 技術はやっぱり進化しているんですね。では2つ目の偵察・監視分野とはなんでしょうか。

増田局長:
 偵察・監視分野では偵察衛星があるわけですが、これは画像情報に加えて、通信情報やレーダー情報も取得するものがあります。画像情報としては、軍事に限らず私たちもグーグルマップなどで衛星の画像情報を使っていますけれどもね。私もこれをよく見たりするんですが、私の家でですね、一年以上前に屋根の色を変えたんですが、グーグルマップで先日見ましたら、まだ古い屋根のままだったんですね。1年以上画像を更新していないようですけれどもね。まあ余談ですけれども。ちなみに偵察衛星というのは、アメリカやロシアだけでなく、色々な国が持っています。たとえばフランス、ドイツ、中国、イスラエルなどですね。

パ−ソナリティ−:
 いろんな国が持っているんですね。それでは3番目の通信分野とはなんでしょうか。

増田局長:
 今回の震災でですね、携帯電話の地上局が津波でやられたりしまして、普通の携帯電話が被災地において使用できなくなったというようなことも生じたわけですが、こういったときに衛星を使った衛星携帯が非常に威力を発揮しました。私が以前イラクのサマーワに行っていたことがあるんですが、そのときも衛星携帯の利便性を非常に実感しました。イラクでは戦争で通信関係のインフラが破壊されてしまいましたけれども、その上サマーワというところは広大な砂漠のど真ん中にあるんですね。そういった中で私は東京の防衛省、本省といろいろ連絡をとったりとかですね、あるいはインターネットからいろいろな情報を得たりする、あるいはメールを送ったりする、そういった必要があったもんですけれども。そこで威力を発揮したのがスラヤの衛星携帯電話とかですね、インマルサットのBGANという装置でした。スラヤの衛星携帯は、はるか上空の静止衛星があって、それと直接やりとりをしますので、砂漠のど真ん中からでも世界中どこにでも電話がかけられるんですね。インマルサットのBGANも同じですけれども。そういったことで非常に便利でした。ちなみに、軍事についていえばですね、多くの国で軍事用の通信衛星が運用されていますけれども、やはり軍事通信衛星には抗たん性というものが優れていることが必須であります。

パ−ソナリティ−:
 抗たん性とはなんでしょうか。
増田局長:
 これは非常に強いというか、攻撃あるいはアクシデントに対してですね、壊れないあるいは丈夫さのことです。
パ−ソナリティ−:
 最後に4番目の航法分野とはなんでしょうか。
増田局長:
 皆さんに一番馴染みの深いのはGPSだと思いますけれども、このGPSというのは米軍が開発したものなんですね。無償で一般に公開されているコードと軍事用のコードの2種類の信号を出しておりまして、かつては一般に無償で公開されている信号は、軍事用に比べて精度を落としていました。ただ2000年から落とすのはやめましてですね、今は同じ精度ですけれども、ただイザというときはいつでも落とせるというところがミソで、まさかストップさせたりはしないと思いますけれども。そういったものですね。
パ−ソナリティ−:
 はい、分かりました。自衛隊百科のコーナーでした。本日は毎月1回、東北防衛局の増田義一局長にお越しいただきました。局長、今日もありがとうございました。 
増田局長:
 どうもありがとうございました。


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