本部長の群馬紀行
第32回 田園理想郷の自然と周辺の史跡

 皆様、こんにちは。
 前橋市内でも、朝晩は暖房が欲しくなってきました。

 一般曹候補生、自衛官候補生の採用試験に合格し採用候補者となった皆様、おめでとうございます。今後の入隊をお待ちしています。
  現在、中学生を対象とした高等工科学校生徒の試験受付を行っていますので、たくさんの応募をお待ちしています。

 

 さて、群馬紀行第32回は、前橋市内から約45km、1時間15分の田園理想郷「川場村」の自然と周辺の史跡をご紹介します。

 

 川場村は、日本百名山の一つで標高2,158mの「武尊山」(ほたかやま)の南麓斜面に位置する盆地で、自然が豊かな農山村です。平安時代には「利根庄」(とねのしょう)が成立し、鎌倉時代にはこの地で生まれた利根姫を母に持つ相模国の大友能直(よしなお)の領地となりました。写真は、標高633mの「後山」(うしろやま)の散策コース上の虚空蔵展望台から村の中心方向を眺めたところですが、武尊山は雲に隠れていました。展望台の後方には、827年に弘法大師が裏山の岩窟で虚空蔵菩薩を刻んだことが始まりと伝えられる「虚空蔵堂」があります。

 

 

 やがて大友氏は豊後国(大分県)の守護を命ぜられると、鎌倉執権北条氏に滅ぼされた相模国の名族・三浦氏の落人に沼田氏を名乗らせて利根庄の管理を委任し、九州に下って後年のキリシタン大名・大友宗麟(そうりん)などの祖となりました。川場村門前の「吉祥寺」(きちじょうじ)は、鎌倉建長寺を本山とする臨済宗の禅寺で、1339年に大友氏7代氏泰が、名僧・円月禅師を開山(住職)として先祖発祥の地に建立しましたが、後に上杉謙信の関東進出で焼失したため1675年に再建されました。建長寺派の400有余の寺院の中で一番北に位置することから、建長寺の北の門として屈指の名刹に数えられています。

 

 

 大友氏は、南北朝時代には北朝方の足利氏に属して各地で戦います。8代氏時は、1363年に九州で南朝方の菊池氏と戦って敗れると、先祖発祥の地に戻って川場村谷地に広大な「大友館」を構えますが、1368年に南朝方の新田義宗(義貞の3男)に敗れて館は焼失します。後にその館跡には、晩年を館で過ごした氏時夫妻の墓と伝わる一対の石塔(写真)を守るために建長寺派の「桂昌寺」(けいしょうじ)が建てられました。

 

 

 

 この桂昌寺には「女啄木」(おんなたくぼく)とも呼ばれた薄幸の天才歌人「江口きち」の墓があります。きちは大正2年に川場村に生まれ、18歳で母に先立たれ、年老いた父、病気の兄、妹を抱えた苦しい生活の中で歌を詠むことだけを生甲斐としましたが、昭和13年に兄を道連れに26歳の命を自ら断ちました。写真は、きちの歌碑と赤い屋根が目印の桂昌寺です。

 

 

 

 川場村の村名の由来は、蓮根川、桜川、溝又川、田沢川、田代川の5つの川に恵まれたことからだと言われています。一方、隣接する沼田台地は河岸段丘上の要害の地ですが川には恵まれなかったため、沼田氏12代顕泰(あきやす)は、1530年、倉内城(後の沼田城)築城に際して東に12kmの白沢川から「白沢用水」を引水しました。更に、真田氏が城主となって城下の人口が増加すると飲料水や農業用水が不足したため、1628年に川場村谷地の蓮根川から「川場用水」を引水して白沢用水と合流させました。合流した用水は「城堀川」(じょうぼりがわ)と呼ばれ、大正14年の上水道完成まで沼田の生命の水となったそうです。

 

 

 川場村は関東における隠れキリシタンの里としても知られ、江戸時代初期に、東庵(とうあん)というキリスト教の伝道士がこの地を訪れて布教したと伝えられ、門前には戒名にキリスト教を示す「景」の字が刻まれた「隠れキリシタンの墓」があります。写真は、谷地の「子育慈母観音像」ですが、西洋風の顔立ちや姿から、キリストを抱く聖母マリアの像とも言われています。

 

 

 弘法大師が827年に発見して開湯したと伝えられる「川場温泉」(川場村川場湯原)は、川場村に6つある温泉の一つで、39℃の温めの湯に長時間入浴して「脚気(かっけ)川場に瘡(かさ)老神」と唄われたほど昔から脚気の治療などに利用されてきました。写真は温泉地に建つ欄間彫刻が見事な「武尊神社」ですが、1718年に川場温泉の湯前薬師堂として建立され、その後改修されて神社となったそうです。

 

 

 川場村は、現在、豊かな自然環境を生かした「田園理想郷」を未来像として掲げており、その情報発信の中心となる道の駅「川場田園プラザ」は、年間百万人超を集客し「関東好きな道の駅5年連続第1位」、「家族で一日楽しめる道の駅東日本第1位」に選ばれました。写真は、川場田園プラザから冒頭にご紹介した後山の虚空蔵展望台方向を眺めたところです。

 

 (参考図書等:川場村歴史民俗資料館、「沼田の歴史と文化財」(歴史図書社)、「群馬県の歴史散歩」(山川出版社)、観光パンフレット、現地の説明板等)