受験生のために
“極微小の金粒子が織りなす光の世界”

1 はじめに
  みなさんはステンドグラスを見たことがありますよね。さまざまな色のガラスを組み合わせて、きれいな模様や絵を表現していているあれです。ヨーロッパへ旅行したときには、教会で良く見かけると思います。ステンドグラスのカラフルな色は、ガラスに金属や金属酸化物を混ぜることで生み出されています(図1)。混ぜる金属の種類を変えることで、赤や青や黄色といったさまざまな色を実現しています。では、ステンドグラスの中でもひときわ目を引く赤色のガラス、金属として何が混ざっていると思いますか。実は、みなさんも良く知っている「金」なのです。



図1 ステンドグラス(筆者が20数年前
ヨーロッパの教会でとったもの)
2 なぜ金が赤色に見えるのか?
  日常生活で目にする金は、黄金色に輝いていると思います。では、なぜステンドグラスに混ざった金は赤く見えるのでしょうか。これには、金の大きさが関係しています。
  ステンドグラス中に金は、とても小さな粒子として混ぜられています。小さなものを表すのに使われるナノメートル(10億分の1メートル)という単位で表すと、その大きさは数十〜数百ナノメートルとなります。
  ステンドグラスに含まれるような金の小さな粒子に、光を当てたときのことを考えてみましょう。金の小さな粒子にはたくさんの電子が含まれています。当てた光は、この電子集団にエネルギーを渡し、電子の集団運動を引き起こします。この結果、粒子の中では電子の偏りが生じ、粒子の表面にプラスやマイナスといった電荷が表れます。この現象は、(局在型)表面プラズモン共鳴と呼ばれ、通常目にする大きさの金では見られない興味深い現象です。電子の集団運動を引き起こす際に渡されるエネルギーは、緑色の光のものに限られています。このため、金の小さな粒子を通過してきた光は、緑色の補色の赤色として、わたしたちの目に届くのです。これが、金の小さな粒子が赤色に見える理由です。(図2)



図2 金ナノ粒子水溶液の写真(左)および金(Au)粒子の局在
   表面プラズモンのモデル図(右)
3 表面プラズモンを利用する
  表面プラズモン共鳴は、金の小さな粒子を赤い色にするだけでなく、他にも数多くの興味深い性質を示します。このため、さまざまな分野での利用が期待され、現在研究が盛んに行われています。
  例えば、表面プラズモンを光と結合させることで、金の小さな粒子に閉じ込めることができます。閉じ込められたエネルギーを利用することで、これまで測定できなかったごくわずかな量の分子が観測できるようになります(図3)。この技術は、感度の高いバイオ・センサーや環境センサーの実現を可能にするものとして期待されています。近年では、閉じ込められたエネルギーを熱として癌細胞に与えることで、癌細胞のみを殺し、治療に役立てようという研究も進められています。
  また、金の小さな粒子を並べたときには、表面プラズモンは粒子の列に沿って伝わっていきます。これをデータの伝送に利用すれことができれば、コンピュータの電子回路を光回路に置き換えることができます。これにより、コンピューターチップの処理能力は劇的に向上することが期待されます。このため、表面プラズモンのコンピュータへの応用を目指した、小型光デバイスの研究も現在盛んに行われています。 



図3 近接した2個の金ナノ粒子(左上)に光をあてるとその周りで
強烈な光の場が発生する(左下)。 さらに多数の金ナノ粒子が集
まると特に端の部分で光っているのが分かる。 このような強く光
の発生する部分に存在する分子は非常にわずかでも検出できる。  
4 おわりに
  以上のように、表面プラズモンはバイオ、環境、医療、コンピュータなど多くの分野と関連しており、今後の発展が大変期待されています。防衛大学校では、この表面プラズモンが時間とともにどのように変化し、空間を伝わり、エネルギーの受け渡しをするのかということに着目して、それらを解明するための研究を進めています。みなさんも、魅力あるプラズモンの世界への探検に参加してみませんか?
(応用物理学科 北島正弘)