受験生のために
見えない光で診る
= 赤外線サーモグラフィによる非破壊検査技術の開発 =
1 はじめに
200年ほど前、天文学者ハーシェルが、プリズムを透過した太陽光を観察していました。
理科あるいは物理の授業でお馴染みの、虹色の光に分かれる実験です。
ハーシェルは、虹の各色で加熱作用が異なることに気づき、さらには、赤色部外側の目に見えない部分に、より大きな温度上昇を起こさせる放射光が存在することを発見しました。この光が、赤色の外に存在する放射光、つまり赤外線です。
人間の目で赤外線を見ることはできませんが、様々な赤外線サーモグラフィ装置が作られ、赤外線画像として観察できるようになりました。
人類第二の目とも言える赤外線サーモグラフィを用いて、人間の目では見えない何かを見つけること、これが私達の研究室の種の一つです。
図1 赤外線とは?(ハーシェルの実験)
2 赤外線サーモグラフィの応用
工学分野では、赤外線サーモグラフィを主に非破壊検査に利用しています。
非破壊検査とは、読んで字の如く、対象物を破壊せずに欠陥の有無や大きさを調べる検査のことです。
例えば、戦闘機や旅客機の機体や翼に使用されているハニカム材料は接着構造をしているため、接着はく離(はがれ)等の有無を調べる定期検査が必要です。
いちいち全てを分解して調べていたら効率が悪くてかないませんから、非破壊検査技術が大事なのです。
図2 ハニカム材料 図3 F-15戦闘機(ハニカム使用例)
アルミニウム製の人工蜂の巣
一方、接着はく離などの欠陥は、外から見ることのできない位置に生じており目視検査ができません。そこで赤外線サーモグラフィが登場します。
対象物の外から一様な加熱を行うと、接着はく離や錆などの変質部(欠陥)では熱容量が異なるため、熱伝導の不均一を生じ、表面の温度分布に異常ができます。これを赤外線サーモグラフィで捉えるのです。一見、温度と関係ないような欠陥でも、皆さんが知っている簡単な物理法則を基に工夫を施せば検知できるようになるのです。
図4 赤外線サーモグラフィによる欠陥検知方法の原理
図5 ハニカム材料試験片 図6 赤外線画像例
(フィルムを挟み接着はく離を模擬) (黒色部が温度の低い欠陥部)
3 おわりに
赤外線サーモグラフィには、X線や放射線を用いた検査と比較して安全であり、超音波や打音などの検査と比較して広範囲を瞬時に検査できる利点があります。
航空機滑走路面の状態検査やコンクリート構造物のはく落検査で認知されつつある赤外線サーモグラフィの利用分野は、今後も広がっていくと思われます。
柔軟な思考を持つ皆さんと一緒に研究できる日を楽しみにしています。
(文責:機械工学科 准教授 小笠原永久)