受験生のために
“防衛学ってなあに”
(戦略教育室の紹介)

1 はじめに
 数学、経済学とか、今では流行のITを教えている大学は沢山あります。でも、防衛学というものを教えている大学は、日本では防衛大学校だけです。皆さんが防衛学あるいは国を護るという事に興味があるのであれば、防大はまさにその欲求を満たす場所です。そして防衛学は、防大の防衛学教育学群(一般の大学の学部に相当)というところだけで行われている教育です。

 今回は防衛学の中でも、戦略教育室に焦点をあてて紹介していきます。


2 防衛学とそれを教える組織
 端的に言えば、国を護るための科学が防衛学です。つまり、防衛学では国を護るためのノウハウを歴史学、数学、物理学、政治学などもツールとして駆使し、国あるいは陸海空を護るということを科学的に探求していく学問というわけです。防衛学教育学群には、一般大学の学科に相当する統率・戦史教育室、国防論教育室、戦略教育室及び安全保障・危機管理教育センターがあります。

 国を護る上で、指揮官には隊員を上手く束ね、やる気を出させることによって、集団として力を発揮させる能力が必要なのですが、それにも科学が必要です。特に防大生は、卒業すれば幹部自衛官としてそのような能力を要求されることから、それを統率・戦史教育室が教えます。

 上手く戦うためには戦う前に自分たちのことを良く知っておく必要がありますが、自分たちの先祖が如何に戦ってきたかを教育する国防論教育室というところでそれを教育します。

 そして戦略教育室では如何に戦うか、あるいはそもそも戦争とはどういうものなのかということについて、さらには戦闘を行うためのツール、いわゆる武器、そしてそれを製造するための科学技術についても体系的に教育しています。


3 戦略教育室の授業について
 国を護るためのノウハウを具体的手段として提供する教育を行うところが戦略教育室です。先ずは日本を守る、あるいは世界平和を維持するという目的を達成するための方策が防衛戦略と言われているものであり「戦略」という授業で教育されます。その中では中国の「孫子」やドイツのクラウゼヴィッツが書いた「戦争論」といった有名な戦略思想、理論に始まり、現代戦略、核戦略などについても深く勉強していきます。

 戦略の次は「作戦」です。ここではどのように日本の国土(陸)を護るか、又は海や空を護るか、といった具体的な問題について「陸上作戦」、「海上作戦」あるいは「航空作戦」という授業で勉強することになります。また、陸海空の作戦には沢山の武器が使用されますので、武器システムについても軍事戦略の観点から勉強をしていきます。こでは航空機、艦艇あるいは戦車といった分野別に陸海空の専門家が解り易く説明します。


F−15J

護衛艦

90式戦車

 世の中には、今も昔も「おたく」といわれる人たちがいて、見た、読んだ、聞いたということを話術巧みに面白おかしく説明する人がいたり、そんな人が書いた本もたくさん出版されています。インターネットで紹介されていることも多いのですが、戦略教育室では実際に戦闘機パイロットや、護衛艦の艦長、あるいは戦車部隊の指揮を執ってきたといったような経験豊かなスペシャリストが、その知識・経験を活用して戦略や作戦を学問として教えることができるのが最大の強みです。

4 海上作戦
 数ある戦略教育の中から、今回は特に3年生に教育している「作戦」のうち、ミッドウェー海戦について簡単に紹介します。同海戦は太平洋戦争の分岐点となった非常に重要な戦いですが、“魔の5分間”に日本の航空母艦が爆弾攻撃を受けたために敗北したと言われ、ツキに見放され敗北したと言われることが多い作戦です。しかし、たまたま結果がそうなっただけであり、根本的な原因は日本軍が持てる力を結集していなかったということが敗北の一因だといえるのです。それは次のグラフを見てもらえればすぐに理解できると思います。



 作戦に参加した艦艇も航空機も日本軍の方が多いのですが、日本軍は兵力を分散したために、ミッドウェーの沖で本当に戦闘に参加した航空機の数では米軍の方が多くなってしまいました。ミッドウェー海戦は航空機同士の戦闘が勝敗を決する要素が大きかったことから、航空兵力で米軍に劣ったことが敗因となってしまったのです。

 この海戦で米軍の指揮を執った米太平洋艦隊司令官ニミッツ大将が、いみじくも、「もし日本艦隊が集中していたならば、我が3隻の空母によって、日本がこの海戦に充当した8隻の空母、11隻の戦艦、その他多数の支援艦船を撃破し、これを敗走させることは、いかに幸運と技量をともなっても、思いもよらないことである。」と述べていることからもわかるように、作戦の原則である「兵力の集中」に従った米軍が勝利を手にすることになったのは、当然であったということができます。

 戦略教育室では、このように海や空あるいは陸における過去の戦いを例に、その勝敗を左右した真相をも授業の中で明らかにしてゆきます。

6 おわりに
 「彼を知り己を知らば百戦危うからず」、「まず勝つべからざるをなして、もって敵の勝つべきを待つ」とは有名な孫子の兵法にある名言です。戦略とは、あくまでも戦わずして勝つことを最上の目的としますが、もしどうしても戦わざるを得なくなったときは、必勝の戦略に転換します。そのような意味において、戦略を勉強する意義はとても大きいものです。

(文責:戦略教育室 准教授(2等海佐) 四方義博)