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MRIという装置を知っていますか?
日本においては、ちょっと大きな病院に行けば、最近は必ずあると思います。
MRIは、巨大な磁石を使って体の内部を画像化する診断装置(図1)で、
X線CTと同様に非破壊(手術すること無し)で体の内部を診ることができます。
MRIはMagnetic Resonance Imagingの略ですが、本当はNMRIが正しいのです。
NMRI とはNuclear Magnetic Resonance Imagingです。
最初にNuclearがつくのが本来の意味です。MRIは磁気共鳴画像診断装置と言いますが、
本来の意味からすると、正式名称は核磁気共鳴診断装置とするのが正しいでしょう。
なぜ核を除いてあるかというと、"核"という言葉は"原爆"を思い起こさせるということで、
医学用の診断装置名からは省かれているのです。ここでいう"核"とは、確かに原子核のことを言いますが、
原爆とは全く異なります。原爆は放射性核種の崩壊を利用していますが、
核磁気共鳴は放射性ではない通常の核種内にある、
陽子と中性子から構成された核の磁気的性質の観測を対象としています。
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図1. 東芝メディカルシステムズ株式会社のホーム
ページ
http://www.toshiba-medical.co.jp/tmd/ products/mri/vantage/index.html
より引用。 MRIの静止/動画画像は上記サイトの他、
http://ja.wikipedia.org/wiki/MRIにもあります。
参照してみてください。
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医学では画像化することが診断する上で大きな意味を持ちますが、
人体の画像化には測定時間の関係から高感度の核種が対象となります。残念ながら核磁気共鳴(NMR)は
非常に感度が悪く、診断という利用には最も高感度であり最も天然存在比の高い水素核(1H)
のみが対象となります。しかし科学の世界では画像化よりも多種多様な核種を観測できる方が有意義ですので、
単純なスペクトルとして観測します。NMR法ではほぼ全ての核種が観測対象となりますが、
さまざまな要因により容易に観測できないものも多々あります。化学や材料の世界で測定によく利用されている核種は、
1H、13C、15N、29Siなどです。ここでは最も一般的な
1Hと13Cの測定について説明しましょう。
ここで、13Cを見て、おや?と思った方は良く勉強している証拠ですね。
そう、炭素は原子番号が6ですから質量数は12となり、炭素の記号は12Cと書きます。
ですが、残念ながら核磁気共鳴現象を示すのは、天然存在比が約1%の同位体元素、13Cなのです。
これもNMRが低感度である理由の一つです。1H核は天然存在比が100%に近いので、
最も高感度の核種です。
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2 エチルアルコール分子
さて、1H核(慣例でプロトンと呼びます。)のNMRスペクトルは
最も一般的で基本となるものです。MRIの画像は臓器の水の1H核信号を捉えたものです。
臓器の環境(病気であるとか健康であるとか)により1H核信号の観測される位置が異なったり、
強度が異なったり、緩和と呼ばれる現象が異なることを利用して画像化しているのです。
つまりNMR信号が環境に応じて変化することを利用しています。
図2に簡単な例を示しました。エチルアルコール(CH3CH2OH)
の1H核のNMR信号を観測したスペクトルを表しています。NMR信号を図示(プロット)する時には、
通常の数学の表示とは異なり、慣例で右側が0となり、そこから左に数字が増えていきます。
これはNMR信号が、核のまわりに存在する電子が磁場を遮蔽する強さに依存して信号の観測位置を表示するという
慣例に従っているからです。一番強く遮蔽する官能基を0(基準)とすることにしています。
一番遮蔽する官能基は最も右側に出てくるのですが、普通はテトラメチルシラン(TMS:(CH3)4Si)
の1H核信号を基準とします。図2はわかりやすくするため、エチルアルコールのCH3基の
1H信号を基準にしてプロットしています。ちなみに横軸のことを化学シフトと呼び、
信号が観測される位置を化学シフト値と言います。
図2は、エチルアルコールにクロロフォルムを徐々に添加していった時の
スペクトル変化を示しています。OH基の信号がクロロフォルムの添加量が増加するにつれて
右側にずれていっているのがわかります。
エチルアルコールのOHは、分子間で別のエチルアルコール分子のOH基と水素結合していることが知られていますが、
水素結合したOH基の信号は、水素結合という相互作用が無い時に比べて、左側に大きくずれて観測されます。
それが図2の一番上の状態です。これにクロロフォルムを滴下していくと、
クロロフォルムとエチルアルコールは水素結合しませんので、徐々にエチルアルコール分子同士が水素結合できる
割合が減ってきてしまい、結果として水素結合していない状態に近づきます。
そうなると、OH基の1H信号は図2に見られるように、右側に徐々にずれて観測されるようになるのです。
その他のCH2基やCH3基にずれが観測されていないことに注目してください。
これらは水素結合に関与していないため、信号の位置が変わっていませんね。このように、
NMR装置は分子レベルの相互作用状態を知るのに非常に適した分析装置なのです。
感度が悪いという欠点を補ってあまりある情報を我々に示してくれます。
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図2. CH3CH2OHの1H NMRスペクトル。
用いた磁場強度は1H共鳴周波数で500MHzの11.7T。
上から順にクロロフォルム(CHCl3)の混入量を
増加させている。
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図3. 図2のスペクトルを測定するため 試料を調整している様子。
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次に、私が研究に用いているNMR装置と研究内容について簡単に説明しましょう。
測定対象としている試料は、主に高分子や有機/無機複合材料です。
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