駐日ドイツ大使、防大で講演


 10月30日にヘンリク・シューミーゲロー駐日独大使(駐在武官ヴ
ァルナー海軍大佐随行)を迎え、本科公共政策学科、国際関係学科
及び総合安全保障研究科学生に対し、1時間半にわたり「ドイツの
冷戦後の安全保障政策−連邦国防軍の使用と憲法−」と題して、ド
イツが冷戦後の1991年以降、ドイツ連邦軍の域外派遣に関して
1994年憲法裁判所が派遣を条件付で可能であるとした経緯を中
心に講演が行われた。講演は、連邦軍派遣に関する法的、政治的状
況を手際よく解説したもので、学生に極めて有益であった。要旨は
以下のようであった。

 日本とドイツは、国民性等において共通点が多く、また、外交面
でも国際社会の平和の維持その他の目的を共有している。両国憲法
も、第二次大戦の悲劇を共通の出発点としている。もっとも、安全
保障政策や軍隊の使用については、両国間に差異がある。 

 ドイツでは、基本法87a条と24条2を併せ読み、国連の集団的安
全保障措置等への参加が禁止されないとの解釈もあった。しかし、
再統一までは、NATOの任務に連邦軍の使用を限定し、NATO域外への
軍派遣を拒否してきた。この状況は、冷戦後の戦略環境の変化に伴
い変わっていくことになる。

 1991年以降、対ユーゴ海上阻止行動及び飛行禁止区域設定並びに
ソマリアでの輸送任務への参加を通じ、連邦軍域外派遣問題が盛ん
に議論されるようになった。ついに、1994年、憲法裁判所は、基本
法24条2がいうような集団安全保障上の措置への連邦軍の派遣を認
める判断を下した。この判断では、安保理決議の他、軍事行動に十
分な国際法上の根拠があること及び議会の承認があることを派遣の
条件とした。

 もっとも、NATO軍のユーゴに対する1999年の軍事行動は、安保理
決議のないものであったが、慣習法上、かかる人道的介入には十分
な根拠があるとして連邦軍を派遣した。

 この講演の後、学生からコソヴォを巡るユーゴへの対応と現在の
イラクへの独の対応の差異は何か、域外派遣に関して周辺諸国のコ
ンセンサスをどのように得たのか、NATO軍の他にEU軍を設置する
意義についてどう思うか、などの質問が出され大使から懇切な回答
がなされた。

 また、シューミーゲロー大使は、1941年生まれで、ドイツ、スイ
スの各大学で法学を学び、法曹資格を有する。また、仏国立行政学
院及び米ヴァージニア大学法科大学院でも学んだ。1972年に外務省
に入省し、本省及び大統領府勤務の他、日本(経済担当一等書記官)、
米等の在外勤務を経て、2001年より駐日大使として赴任されている。

 多数の著作があり、夫人のミッシェル・シュミーゲロー教授との
共著『日本の教訓、戦略的プラグマティズムの成功』(鳴澤他監訳、
東洋経済新報社、1991年)は、大平正芳賞を受賞した。