海上自衛隊幹部学校

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 米海大ナウ!

 「読め、書け、戦え」

(077 2016/08/31)

米海軍大学   客員教授
1等海佐    下平   拓哉

   米海大ナウ!は、前海上自衛隊幹部学校長であった山下万喜海将(現佐世保地方総監)の発案によって開始され、これまで世界最強の米海軍の知的中枢である米海大において「今」話題となっている最新の安全保障トピックを紹介してきました。この度、初の連絡官としての3年の勤務を終えて帰国することとなったため、残念ながら、米海大ナウ!077号をもって終了致します。

   私は、2013年9月、海上自衛隊と米海軍との一層の関係強化を目的として、米海軍の最高学府である米海大に新たに作られた配置において勤務してきました。その任務は「研究・発信・教育」の3本柱です。現代中国の海洋に係る膨大な資料を扱う中国海事研究所(CMSI)や130年以上の知見を有する図上演習部、対日戦争計画「オレンジ計画」や太平洋戦争中のニミッツ太平洋艦隊司令官の日記等の膨大なアーカイブを有する歴史学部等において、資料を渉猟し研究を進めつつ、米海大の紀要に当たるNaval War College Reviewや米海軍協会(USNI)発行のProceedings等へ発信するとともに、米海大主催地域OBシンポジウムや米外交政策分析研究所(IFPA)主催ワークショップ等において発表してきました。そして、日本がおかれた厳しい安全保障環境下、コアリッションや多国間協力の重要性が一層高まるなか、これからの海における日米同盟の深化は、海上自衛隊と米海軍の戦略レベルかつ作戦レベルの知的交流であるとの認識から、統合軍事作戦部(JMO)において教鞭を執ってきました。

   太平洋戦争敗北直後の「ギブ・ミー・チョコレート」の時代から、戦後70年の年月を経て、ようやく海上自衛隊も「ギブ・アンド・テイク」の時代へのマインド・セットが徐々にですが進んできています。そして、日本が有する厳しい様々な制約と実戦経験のないことを踏まえれば、「ギブ」については、「知的分野」と「平素」が重要なキーワードとなるでしょう。

   米海軍トップのリチャードソン(John Richardson)海軍作戦部長は、Proceedings 2016年6月号で、「読め、書け、戦え(Read. Write. Fight.)」を上梓しました。これは、米海軍の新兵からトップに至るまですべてを対象にしたリーダーのあり方を示すものでもあります。

   戦士(Warfighter)は、待ちの姿勢ではなく、常に積極的に自己涵養に努める必要があり、そのためには「読んで(Read)」、考えなければなりません。

   そして、考えるだけではだめで、その考えを論理的にまとめて「書かなければ(Write)」なりません。なぜならば、独断的な考えを避け、かつ批判的な意見を取り入れることが必要だからです。これは、人間活動そのものであり、その言動には常に批判が伴うものであるからです。

   これからは、まさに知的戦闘の時代なのです。

   活発・拡大化するテロ等の脅威を挙げるまでもなく、現在の安全保障環境は複雑さを増す一方であり、待ちの防衛ではすでに限界が見え始めています。これまでアジア太平洋地域の平和と安定を担ってきた海上自衛隊と米海軍も、新たな協力の時代に入ってきているのです。日米同盟の深化とは何か。日本は、「積極的平和主義」の旗の下、日米の国益が存する同地域における平素の知的戦闘において、法に従った主張と行動を主体的に示すことが次なる一歩なのです。

(2016年8月21日記)

【リチャードソン米海軍作戦部長の最新論文】
John Richardson with Ashley O’ Keefe, “Read. Write. Fight.,” Proceedings, Vol. 142/6/1, 360, June 2016, pp. 10-11.
http://www.usni.org/magazines/proceedings/2016-06/now-hear-read-write-fight