海上自衛隊幹部学校

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 米海大ナウ!

 サイバー研究所(C3S)

(072 2016/08/05)

米海軍大学   客員教授
1等海佐    下平   拓哉

   

   伝統的な作戦領域である陸、海、空、宇宙に続く第5の領域としてのサイバー空間の脅威の高まりを受けて、2016年2月、米海大にサイバー研究所(Center for Cyber Conflict Studies: C3S)が設立されました。 C3Sの任務は、米国及び米海軍が直面する戦略レベル及び作戦レベルのサイバー空間における挑戦に関する先進的な研究、教育そして分析です。
   所長のデムチャック(Chris C. Demchak)教授によれば、現在の国際システムは、主権国家体制・ウエストファリアを越えた、より自由で境界があいまいで複雑性が増した「サイバー・ウエストファリア」の時代であると定義しています。これからはシステムとシステムの戦いであり、平時・有事、国家主体・非国家主体を問わずサイバーはそのすべての基盤となっており、社会技術経済システム(Socio-Technical-Economic Systems: STESs)の安全保障が重要で、サイバー戦を生き残るためには、耐久力(resilience)と破壊力(disruption)からなるサイバー能力が必要と主張しています。

   米海大は、対日戦争計画「オレンジ計画」等に代表されるように、図上演習を通じて危機に対する計画を策定してきた長い歴史と実績を有しています。サイバー攻撃による国家インフラの潜在的なシステム危機に対する能力や経験は、他の国家機関でも非常に限られているため、米海大に大きな期待がかけられています。
   また、時代の変化の速さに応じるため、海戦研究センター(Center for Naval Warfare Studies: CNWS)も改編を行いました。これまでの戦略研究部(Strategic Research Department: SRD)と戦争分析研究部(War Analysis and Research Department: WARD)を併せて、戦略作戦研究部(Strategic and Operational Research Department: SORD)とし、その隷下のC3S、中国海事研究所(CMSI)、グレブリー・グループ、ハルゼーA/B・グループ、マハン・グループといった研究グループを集め、研究協力態勢の強化を図りました。
   さらに、現在直面しあるいは将来予想される様々な挑戦に計画的かつ包括的に対応するため年度研究計画を示し、学部間の交流を促進させることを明記しています。研究対象の優先順序としては、 地域的には、中国、ロシア、イラン、朝鮮半島、機能的には海洋安全保障、作戦的・戦術的戦い方、統合・コアリッションでの戦い方、サイバー、国際法等となっています。
   米海大では、今後、ロシア研究所も設立の方向です。

(2016年7月16日記)

【C3S】
http://www.nwcfoundation.org/Files/Admin/Documents/NWCF_Cybersecurity.pdf

【デムチャック教授推薦のサイバー関連論文】
1) Peter Dombrowski nad Chris C. Demchak, “Cyber Wa,r, Cybered Conflict, and the Maritime Domain,” Naval War College Review, Vol. 67, No. 2, Spring 2014.
https://www.usnwc.edu/getattachment/762be9d8-8bd1-4aaf-8e2f-c0d9574afec8/Cyber-War,-Cybered-Conflict,-and-the-Maritime-Doma.aspx

   平素から有事までのすべての軍事作戦、戦略・作戦・戦術といったすべての戦争のレベル、そしてすべての種類の紛争にサイバーが関係していることを分析するとともに、サイバー空間における米海軍の挑戦について論じています。

2) ChrisC. Demchak, “Economic and Political Coercion and a Rising Cyber Westphallia,” in Katharina Ziolkowski eds., Peacetime Regime for State Activities in Cyberspace. International Law, International Relations and Diplomacy, Tallinn, Estonia: NATO CCD COE Publication, 2013, pp. 595-620.
https://cryptome.org/2014/01/nato-peacetime-cyberspace.pdf#search='peacetime+regime+demchak+ssdcoe'

「サイバー・ウエストファリア」の興隆と STESsの防衛について分析するとともに、「サイバーによる強制(Cybered Coercion)」について提唱しています。

【SORD HP】
https://www.usnwc.edu/Research---Gaming/Strategic-Research.aspx