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 米海大ナウ!

 米海大ナウ! 067  レイモンド・スプルーアンス提督

(067 2016/07/11)

米海軍大学   客員教授
1等海佐    下平   拓哉

   1886年7月3日は、レイモンド・スプルーアンス(Raymond Ames Spruance)の誕生日です。

   スプルーアンスは、太平洋戦争のターニングポイントとなった1942年6月5日のミッドウェー海戦を米国の勝利に導いたことで知られています。スプルーアンスの生涯を著したビュエル(Thomas B. Buell)の名著『寡黙な武人(The Quiet Warrior)』のタイトルが示すように、その性格は控えめで、注意深く、慎重であったと言われています。
   メリーランド州ボルチモアに生まれ、誕生後は両親の家があった海とはゆかりのないインディアナ州インディアナポリスで育ちます。父はもともと農家で、破産したことにより生活が苦しかったと言われています。1906年に米海軍兵学校卒業。209人中25番。

【米海大の大講堂スプルーアンス・ホール前に掲げられている肖像画と制帽、サーベル等】


   1908年10月、グレート・ホワイト・フリートの一隻であった戦艦「ミネソタ」で日本を訪問し、その際、東郷平八郎提督に会い、ニミッツ同様に敬愛の念を抱いたと言われています。1920年、駆逐艦「アーロン・ワード」艦長時の駆逐隊司令がハルゼーであり、家族ぐるみの付き合いをしています。ミッドウェー海戦では、急病で緊急入院したハルゼーに代わって第16任務部隊の指揮を執り大勝利を挙げます。同海戦後は、ニミッツ太平洋艦隊司令官の参謀長となり、ニミッツの家に居候するほどの間柄となり、この3名のつながりは非常に深いことが伺えます。その後、マリアナ沖海戦、硫黄島、沖縄と数々の戦いで勝利を重ねますが、その多くを故郷と同じ名前の重巡洋艦「インディアナポリス」を旗艦としていました。1944年、57歳、当時最年少で大将に昇進し、終戦直後には、ニミッツの後任として太平洋艦隊司令官となります。
   スプルーアンスは、学生を含め4回米海大に勤務しています。太平洋戦争直前の1937年には、現在の図上演習部長に当たる戦術部長を務めて、太平洋戦争に係る数多くの図上演習を取り仕切りました。そして1946年3月、太平洋戦争後初の第26代米海大学校長に就任します。豊富な実戦経験を踏まえ、太平洋戦争における海戦結果の評価チームを編成、核兵器やミサイル、機雷等、将来の戦略兵器を含んだ図上演習の実施、後方課目の重視等、カリキュラムの改編に貢献しました。
   1952年から3年間、フィリピン大使を務め、1969年12月13日逝去、享年83歳。サンフランシスコのゴールデン・ゲート国立墓地に、ニミッツ、リッチモンド・ターナーとともに寄り添って眠っています。


【スプルーアンスが米海大学生時代に提出した課題とサイン】

   スプルーアンスは、1927年に米海大を卒業していますが、1926年9月11日に提出された「指揮(Command)」に関するレポートが残されており、指揮官について次のように記されています。  「指揮官として成功するためには、リーダーシップの質と専門的な知識を兼ね備えなければならない。(To be a successful commander, one must combine qualities of leadership with a knowledge of his profession.)」
   そして、リーダーシップは多くの要素からなるとし、主体性(initiative)、決断力、強い正義感、忠誠心の順で示しています。控えめな性格と言いながらも、指揮する上での要素の第1に主体性を挙げているとおり、スプルーアンスの太平洋戦争における戦いの随所に主体性が伺えます。  スプルーアンスは、歴史の教訓を大切にし、図上演習で海戦の戦術を徹底的に考え、実際の太平洋戦争で勝利しましたが、最後に、もう一つ有名な言葉が残っています。
   「我々は、教訓を得るために軍事史を学ぶが、将来の問題を解くための正しい答えが歴史から得られると必ずしも期待してはいけない。(We study military history for the lessons it has to teach us, but we must not expect necessarily to obtain from history the correct answers to future problems.)」
   歴史の教訓を学び、図上演習を通じて考えることが、設立以来今も続く米海大の伝統です。

(2016年6月30日記)

【スプルーアンスに関するビュエルの論文】
Thomas Buell, “Admiral Raymond A. Spruance and the Naval War College: Preparing for World War Ⅱ,”Naval War College Review, March 1971, pp. 31-51.
         ,“From Student to Warrior,”Naval War College Review, April 1971, pp. 29-53.
https://www.usnwc.edu/Publications/Naval-War-College-Review/Press-Review-Past-Issues.aspx

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