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 米海大ナウ!

太平洋の試練:8ベル・レクチャー

(060 2016/05/09)

米海軍大学   客員教授
1等海佐    下平   拓哉

   米海大においては、毎週木曜12:00から、米海大博物館において、8ベル・レクチャー(Eight Bells Lecture )が実施されます。古来、船内で時刻を知らせるために、鐘をならしていましたが、8ベル(8点鐘)は、12時を意味します。8ベル・レクチャーの特徴は、米海大の学生、教職員のみならず、ニューポート基地内の様々な学生や地元市民等にもオープンとなっていることです。テーマは米外交政策と国防戦略、アフガン紛争、ニューポート経済史、中国の海賊対処活動等、実に多岐に亘っていますが、講師の新刊が発売されたタイミングで披露されることが多いです。例えば、米海大からはJMOのミラン・ベゴ教授やCMSIのアンドリュー・エリクソン教授らが発表しており、その一部は、You Tubeでも見ることができます。


   2016年4月7日に実施された8ベル・レクチャーの講師は、気鋭の米国人歴史家イアン・トール(Ian Toll)でした。2008年に発刊された彼の処女作『Six Frigates』は、サミュエル・モリソン賞とウィリアム・コルビー賞を獲得し、一躍彼の名前を有名にしました。
   イアン・トールによれば、太平洋戦争については海戦や陸戦の局地戦を中心に書かれた本が多く、太平洋戦争の海戦全般を扱ったものは、米国ではチェスター・ニミッツ(Chester William Nimitz)・ポター(E.B. Potter)著『ニミッツの太平洋海戦史 (Triumph in the Pacific: The Navy's Struggle Against Japan)』(1963)とサミュエル・モリソン(Samuel Eliot Morison)著『モリソンの太平洋海戦史(The Two-Ocean War: A Short History of the United States Navy in the Second World War)』(1963)以来ほぼ皆無であることに疑問を感じ、太平洋戦争3部作の執筆を思いついたそうです。
   太平洋戦争は、日米の偉大な指揮官が大きな意思決定をした多大な教訓が詰まっています。イアン・トールは、戦闘報告書、公刊戦史、手記、回顧録等を丹念に読みあさり、当時の海戦の状況を詳しく再現することを試みています。第1巻は、真珠湾からミッドウェー、第2巻は、ガダルカナルからサイパン陥落までについて書いており、『太平洋の試練』(文藝春秋)として訳本も発刊されています。


   また『Six Frigates』は、独立戦争から1812年の米英戦争を描いており、米海軍作戦部長が指定した米海軍の必読本(Navy Reading)にも指定されています。6隻のフリゲートとは、「ユナイテッド・ステーツ」「コンステレーション」「コンスティテューション」「プレジデント」「チェサピーク」「コングレス」です。そして、大砲44門を有する1797年就役の「コンスティテューション」は、今なお米海軍の現役艦かつ世界最古の航行可能艦船として、ボストンに係留されています。

(2016年4月16日記)

   【過去の8ベル・レクチャー】
   https://www.youtube.com/playlist?list=PLam-yp5uUR1bqZSva0JQeYnKzllDaJo0D

   【点鐘の例】
   点鐘は、30分毎に1回、決められた要領で鐘を鳴らします。ただし、18:30から変則的な打ち方をします。18:30(5点鐘)に予定されていた反乱を防ぐために1点鐘を鳴らして混乱させたとか、間違った鐘の音を聞かせ、海坊主をだますため等、諸説があります。