海上自衛隊幹部学校

交通案内 | リンク | サイトマップ | English

HOME /米海大ナウ!/056

 米海大ナウ!

 海戦史に学ぶ:ケース・スタディ

(056 2016/04/19)

 米海軍大学   客員教授
1等海佐    下平   拓哉

   ミッドウェー海戦に留まらず、太平洋戦争におけるソロモン海戦やレイテ沖海戦、そしてフォークランド紛争等について、海戦(Naval Warfare)の観点から議論できる海洋安全保障専門家が、日本にどれだけいるでしょうか。ところが、米海大で学ぶ学生は、これらのケースを題材にした議論に非常に多くの時間を費やしています。なぜならば、そこには複雑に変化する作戦環境下において指揮官が様々な決断を下し、同じようなミステイクを繰り返すなど実際に生起した多くの教訓を含んでいるからです。
   「統合軍事作戦(Joint Military Operations:JMO)」のセミナーにおいては、オペレーショナル・アートを習得するために、ソクラテス・メソッドによる問答とともに、過去の海戦史を用いた実際的なケース・スタディ(事例研究)を通じた徹底した議論を行います。その手段の一つがテーブル・トップ演習(Table Top Exercise : TTX)です。米海大図上演習部が有する最新鋭コンピューターを駆使した図上演習装置を用いることなく、様々な縮尺のチャート(海図)を使用し、その上に艦艇や航空機等のコマを配置して、指揮官の判断や部隊の配備等について議論するといったオーソドックな手法により、十分にセミナーの目的を達成することができます。

【ソロモン海戦における彼我の指揮官の作戦デザインについて議論】

   現在、私が担当している少佐級のJMO中級コース(Intemediate Level Course : ILC)においては、特に、作戦の基本・基礎に当たる「戦術(Tactics)」を重視しているために、まず、 彼我の能力(Capability)を把握した上での戦術レベルでの部隊配備について演習します。次に、作戦目的、作戦要素(時間、空間、兵力)、作戦機能(指揮、情報、火力、運動、防御、後方)といったオペレーショナル・アートのすべてを網羅しているケースとして1944年のレイテ沖海戦を扱います。そして、オペレーショナル・アートに係る一連のセミナーを終えた後は、海戦理論への適応を図ります。具体的には、いかにして制海(Sea Control)を確保し維持するか、またはいかにして相手の海の利用を拒否(Sea Denial)するかに焦点を絞り、そこでは1942年のソロモン海戦(第一次、第三次、ルンガ沖夜戦)を使って、主として指揮官の判断について議論します。そして、これらオペレーショナル・アートと海戦理論を現代戦に適応させるために、1982年のフォークランド紛争を扱います。最後は、これらの総復習として、将来予想される中国・台湾海峡問題を議論し、いかにして、JMOで学んだことを、将来の戦いに適応させるかにチャレンジします。

【ガダルカナル島周辺の制海をいかにして確保・維持するか議論】

   このように、オペレーショナル・アートを正しく学び、実学として実際に使えるレベルまで理解を深めるためには、多くの教訓が詰まっている海戦史のケース・スタディが最適です。昨今の海洋安全保障環境を考えるに、海戦とはどのようなものかを知るため、野村實『海戦史に学ぶ』(文藝春秋、1985年)の現代的意義を今一度紐解かなければならないでしょう。

(2016年3月28日記)