海上自衛隊幹部学校

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 米海大ナウ!

 ターナー改革

(049 2016/03/02)

米海軍大学   客員教授
1等海佐    下平   拓哉


   2016年2月19日から、米海大は最後の第3セメスター(学期)に入ります。現在、米海大において行われている教育は、主として①「統合軍事作戦(JMO)」、②「国家/戦域安全保障意思決定(NSDM/TSDM)」、③「戦略と政策/戦争(S&P/W)」の3つのコースからなりますが、その原型は、1972年のいわゆるターナー改革にあります。
   スタンスフィールド・ターナー(Stansfield Turner)中将は、日本ではあまり馴染みがないかもしれませんが、米海軍の最高学府である米海大の偉大な知的改革を成し遂げたことで有名です。1923年12月1日、イリノイ州生まれで、アマースト大学を経て、1947年に海軍兵学校を卒業し、成績優秀のためローズスカラー(ローズ奨学生)に選ばれてオックスフォード大学に留学、掃海艇艦長、巡洋艦艦長を務めた後、1972年6月に第37代米海大学校長に就任し、現在に至る大改革を実行します。その後、第2艦隊司令官を務め、海軍兵学校同期のジミー・カーター大統領の政権時にCIA長官に就任しています。
   1972年10月24日、米海大学校長となって迎えた第89回入学式における式辞が残っており、学問の重要性を訴えたその式辞は、JMOを学び始める際の「序論」における必読文献ともなっています。当時の写真を見れば分かりますが、ターナー学校長は、制服の上にアカデミック・ガウンを着用しています。「軍事と学術(military and academic)」の融合(blend)を主張し、「軍人とはまたアカデミック・ガウンを纏った制服を着なければならない」と考えていたからです。
   ターナー改革によって開始されたのが、「戦略」「マネージメント」「戦術」の3つのコースです。これは、米海軍の伝統的への回帰であり、つまり、マハン(A.T.Mhan)のような戦略と歴史の結合、そしてシムズ(William Sims)のような作戦と戦術の融合を図るために考えられたと説明しています。ちなみに現在のJMOは、当時の「戦術」に該当し、1979年に「海軍作戦(Naval Operations)」、1985年に「作戦(Operations)」を経て、1996年にJMOが出来上がりました。
   また、米国が太平洋国家であり、国際的コミットメントを守ることを宣言した1970年の「ニクソン・ドクトリン」を踏まえ、国際学生のクラスに米国学生を入れることを初めて実施しています。そして、教授陣の目的は、「全学生を『知の海』へさらし、自分を向上させるためには、自分が何をしなければならないか」を認識させることにあると言っています。
   さらに、学生にとって唯一不可欠なことは、「挑戦(challenge)」であるとし、「挑戦することから逃げて引っ込み思案になりそうになったら、あなたは米海大にはふさわしくない人物である」と厳しい言葉を述べています。
   米海大のカウンターパートである海上自衛隊幹部学校は、2013年5月、創設以来の大改編を実施し、教育と研究の一体化を図り、新たな方針として「知学一致」を掲げています。それは、「知識の集積」と「知恵の発信」という2つの活動を、部外(学会・大学等)と部内(海幕等と部隊等)の3つの領域において実践するというものです。より厳しさを増す現下の安全保障環境下、米海大においては「今こそ、新たなターナー改革が求められている」と言われています。

(2016年2月18日記)

【ターナー提督の入学式式辞】
Stansfield Turner, “Challenge: A New Approach to Professional Education,” Naval War College Review, Vol. XXV, No. 2. Sequence No. 240, November-December 1972, pp. 1-9.
https://www.usnwc.edu/NavalWarCollegeReviewArchives/1970s/1972%20November-December.pdf

【今こそ、新たなターナー改革が求められている】
Patrick Molenda, “Time for the Next Revolution,”Proceedings, Vol. 140/7/1, 337, July 2014. http://www.usni.org/magazines/proceedings/2014-07/time-next-revolution