海上自衛隊幹部学校

交通案内 | リンク | サイトマップ | English

HOME /米海大ナウ!/037

 米海大ナウ!

 JMOの集大成: キャップストン演習

(037 2016/01/14)

米海軍大学   客員教授
本校戦略研究会(SSG)
1等海佐    下平   拓哉

   「統合軍事作戦(Joint Military Operations:JMO)」の集大成が、ブロック4のキャップストンと呼ばれる約2週間に及ぶ実際的な演習です。今回のケース・スタディは、「米中東軍として、シリアの長期的安定を図るため、中東情勢にどのように対応すべきか」という問題です。米中央軍司令部のJ5(戦略計画・政策部長)として、大使への報告をまとめることが最終目標となります。過去に実施したケースとしては、ミャンマーやベトナム等であり、米国が今もって対応に頭を悩ましている地域を題材としていることがわかります。
   JMOのキャップストンで扱うケースは、構造が不明確(ill-structured)な「複合的な問題(Complex)」です。構造が明確(well-structured)な「複雑な問題(Complicated)」は、「統合作戦計画策定要領(Joint Operation Planning Process: JOPP)」や「海軍計画策定要領(Navy Planning Process: NPP)」を使って解を求めていきますが、「複合的な問題(Complex)」に対しては、「構想手法(Design Methodology)」を活用します。

【図1 構想手法(筆者作成)】
【図2 努力の集中(筆者作成)】

   「構想手法」は、図1に示すように、①作戦環境の理解、②問題点の明確化、③解決策の案出 の3段階からなります。まず、作戦環境の理解については、現在の作戦環境の分析、予想される将来の作戦環境の分析を行います。そこでは、作戦環境についてどのような傾向があるかを把握することが重要です。
    次に、所望結果(Desired End State: DES)、つまり、将来あるべき姿を描きます。一般的には、現状に甘んじ何もしなければ、図2の破線のように将来の作戦環境は維持できず、悪化の傾向があると言われています。
   そして、現在から所望結果を導く手段の分析を行います。それを、「努力の集中(Line of Efforts: LOE)」と言います。DIME (外交、情報、軍事、経済) やPMSEII (政治、軍事、安全保障、経済、情報、インフラストラクチャー)といった見方が一般的ですが、考えが固執することによって見落とすことを避けるために、「努力の集中」の選択には大きな自由度があります。ちなみに、今回のJMOにおいては、環境、経済、健康/教育、ガバナンス(政治)、インフラストラクチャー、軍事、社会/文化、国際関係、産業、安全保障/法執行、情報の見方を指定した後に、学生が自由な視点を設定しました。

   キャップストンで求められている最も重要なことは、JMOで学んだオペレーショナル・アートを駆使しながら、「クリティカル(批判的)」かつ「クリエイティブ(創造的)」に考えることです。なぜならば、今日直面しているシリア問題をはじめとした構造が不明確(ill-structured)な「複合的な問題(Complex)」については、様々な知識を集中蓄積しながら、議論を重ね、様々見方を尊重することによってのみ、新たな解を導くことができるからです。

DIME : Diplomacy, Information, Military and Economics

PMSEII: Political, Military, Security, Economic, Information, and Infrastructure