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 米海大ナウ!

 リトル・グリーンメン: ハイブリッド戦

(034 2016/01/04)

米海軍大学   客員教授
本校戦略研究会(SSG)
1等海佐    下平   拓哉

   2014年2月27日、「リトル・グリーンメン」と呼ばれる親ロシア派武装勢力が、ウクライナ南部のクリミア自治共和国の地方政府庁舎や警察署を占拠しました。緑の迷彩服を着た集団は、ロシア兵なのか、地元の自衛勢力なのか、どの程度ロシア軍が関与しているかなど不明な点が多いのが特徴です。

   英国際戦略研究所(IISS)は、2015年5月19日、世界の武力紛争について分析した「アームド・コンフリクト・サーベイ2015(Armed Conflict Survey)」を発表し、ロシアが非正規軍を送り込み、クリミア半島を併合した手法を「ハイブリッド戦争」と規定しました。ハーバード大のジョセフ・ナイ教授によれば、ハイブリッド戦争の特徴とは、正規と非正規の兵力、戦闘員と民間人、物理的破壊と情報戦が完全に絡み合っていることにあります。
   2015年7月1日、米軍のデンプシー統合参謀本部議長(当時)は「国家軍事戦略(National Military Strategy: NMS)」を発表し、米国の安全保障を脅かす国家として、ロシア、イラン、北朝鮮、中国の順に列挙し、大国との戦争の可能性が高まっていると分析しています。そして、ロシアが採った「ハイブリット戦」が将来も続くと予測し、これに対抗するためには、抑止、そして抑止が破れた場合の迅速な対応を可能とする前方展開が重要であると指摘しています。
   戦争の本質は変わらないが、戦争の性質は変わると言われます。戦争の性質やパターンの変化を見据えつつ、将来に備えなければなりません。米国防総省は、国家主体と非国家主体が、その正統性のために争い、関連する国民に影響を及ぼす戦いを「非正規戦(irregular warfare : IW)」と定義していますが、非通常戦(unconventional)、非制限戦(unrestricted)、ハイブリッド戦(hybrid)等、IWに類似した様々な呼び名が飛び交っているのは、まさに複雑かつ複合的な安全保障環境を表しています。
   米国では、太平洋戦争直前の1940年に米海兵隊が「小さな戦争(Small Wars)」研究を始めました。そして、アフガニスタン、イラクの教訓を踏まえて、2009年10月、「統合ドクトリンJP3-24 対反乱戦(Counterinsurgency)」がまとめられ、現在に至っています。今後とも平和で安定した安全保障環境を維持していくためには、将来の新たな戦争について考え、議論し、新たな考えを創出しなればならないでしょう。そしてそのためには、米海大において平素から行われている「クリティカル(批判的)」で「クリエイティブ(創造的)」な知的姿勢が不可欠なのです。

【ハイブリット戦に関する必読文献】
1 IISS Armed Conflict Survey 2015
http://www.iiss.org/en/publications/acs/by%20year/armed-conflict-survey-2015-46e5.
2 IISS Armed Conflict Survey 2015 プレス・ステートメント
http://www.iiss.org/en/about%20us/press%20room/press%20releases/press%20releases/archive/2015-4fe9/may-6219/armed-conflict-survey-2015-press-statement-a0be.
3 Joseph S. Nye, “The Future of Force,” Project Syndicate, February 5, 2015..
http://www.project-syndicate.org/commentary/modern-warfare-defense-planning-by-joseph-s--nye-2015-02.
4 Frank G. Hoffman, “Conflict in the 21st Century,” Potomac Institute for Policy Studies, December 2007.
www.potomacinstitute.org/.../potomac_hybridwar_0108.pdf.
5 U.S. Office of the Chairman of the Joint Chiefs of Staff,Counterinsurgency, Joint Publication (JP) 3-24 Washington, DC: CJCS, November 22, 2013.
www.dtic.mil/doctrine/new_pubs/jp3_24.pdf.