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 米海大ナウ!

 025 オペレーショナル・アートアート試験

(025 2015/10/30)

米海軍大学   客員教授
本校戦略研究会(SSG)
1等海佐    下平   拓哉

   「統合軍事作戦(Joint Military Operations:JMO)」の基礎であるブロック1:オペレーショナル・アートが終了しました。ブロック1における特徴は2つあります。第1に、米統合軍が定めるジョイント・パブリケーション(JP)と米海大統合軍事作戦部のベゴ(Milan Vego)教授の著書の比較から、「クリティカル(批判的)」に問題を考える姿勢を身につけることです。そして、第2に、実際的な事例研究として、1944年10月の「フィリピン作戦」を約10日にわたって活用することです。
   第1については、ジョイント・パブリケーション(JP)を学ぶのが基本ですが、それとともに、過去の事例を「クリティカル」に分析したベゴ教授の学術成果とをつぶさに比較することによって、過去の失敗を学び、現在の問題点を「クリティカル」に議論し合い、将来に備えるプロセスを徹底して繰り返します。なぜならば、一層厳しさを増す将来の安全保障問題を解くためには、現在のアプローチでは容易に適わないため、「クリティカル」な議論から将来への手掛かりを得る必要があるからです。
   第2については、実際の事例(戦史)を使って議論することです。なぜならば、そこにはオペレーショナル・アートのすべての要素が含まれているからです。特に、オペレーショナルな計画がどのようにして策定され、状況の変化に応じてどのような修正がなされ、そして戦略、作戦、戦術等の様々な「戦争のレベル」において、指揮官がどのような決定をしたかが分かるからです。そして、JMOにおいてなぜ「フィリピン作戦」が用いられているかと言いますと、太平洋を舞台とした陸海空による過去最大規模の統合作戦が展開されたからです。米海大教授陣の間でよく言われることは、最強の米軍が当時最強の日本軍と戦って勝った作戦であり、現在に至ってもなお、太平洋を舞台にこれほどの作戦をしたことはないということです。

【オペレーション・アート試験】

   そして、今回のオペレーショナル・アートの試験においては「カートホイール作戦」が題材とされました。この作戦は、19436月から実施された日本軍の拠点ラバウルをめぐる戦いで、その後の「フィリピン作戦」につながる重要な作戦です。作戦名が示すとおり、米軍はまさに2つの車輪がうまく回ったのです。この作戦の最大の特徴は、南西太平洋方面軍司令官マッカーサーと太平洋艦隊司令官ニミッツ隷下の南太平洋方面軍司令官ハルゼーによる2つの戦域の調整が非常にうまくいった作戦と言われることです。また、日本軍の拠点ラバウルの攻略という当初の作戦目的を、日本の防御の強靭さやその後の作戦を踏まえて、孤立させることに変更したことも特徴です

【筆者作成】


   今や日本では語られることが少ない「フィリピン作戦」と「カートホイール作戦」。これらに真剣に取り組む米国学生を見るにつけ、安全保障実務者にとって生きた教材としての戦史研究の必要性を痛感しています。

【オペレーショナル・アートを理解する上での参考文献】
1) U.S. Office of the Chairman, Joint Chiefs of Staff. Joint Operations, Joint Publication (JP) 3-0, Washington, DC: CJCS, August 11, 2011.
   www.dtic.mil/doctrine/new_pubs/jp3_0.pdf
2) Milan Vego, Joint Operational Warfare: Theory and Practice, Naval War College, 2007.
3) Milan Vego, Operational Warfare at Sea: Theory and Practice, Taylor & Francis,

Routledge Publishing Group, February 2009.