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 米海大ナウ!

 024 オペレーショナル・アートのケース・スタディ:フォークランド紛争

(024 2015/10/28)

米海軍大学   客員教授
本校戦略研究会(SSG)
1等海佐    下平   拓哉


   中国が近年、積極的に研究を進めている事例研究の1つがフォークランド紛争です。フォークランド紛争は、1982年3月19日から約3か月にわたって、フォークランド諸島の領有をめぐって英国とアルゼンチンが争ったものですが、中国が台湾や尖閣を視野に入れていることは容易に想像できます。米海大の「統合軍事作戦(Joint Military Operations:JMO)」においては、JMOの基礎であるブロック1:オペレーショナル・アートをひと通り履修した後に総復習するため、事例研究としてフォークランド紛争が使われています。
   フォークランド紛争と中国を結びつける先行研究としては、米海大中国海事研究所(CMSI) のゴールドスティン(Lyle Goldstein)准教授と米国防大国家戦略研究所(INSS)のヤング(Christopher D. Yung )氏の研究が秀逸とされています。

   まず、CMSIのゴールドスティン准教授は、中国がフォークランド紛争に興味を示している理由として、次の3点を指摘しています。
   ①中国が現代戦の経験がないこと。中国は現代戦における「エアー・パワー」について特に関心
      を示している。
   ②フォークランド紛争の非対称性に注目している。
   ③大陸から遠くないという同条件下にある台湾問題と関連する。
   その上で、中国は、フォークランド紛争の研究を通じて、次の6つの分野の重要性を認識した
   としています。
   ①戦略的洞察
      紛争前の軍事的パワー・バランスの評価、限定戦争の意義、指揮統制システム機構
   ②エアー・パワー
      空母搭載の航空機、空対地巡航ミサイル、早期警戒機、対空戦
   ③シー・パワー
      海空協同、対潜戦、潜水艦戦、機雷戦、原子力潜水艦
   ④水陸両用戦
      伝統的な水陸両用作戦、特に強襲、特殊部隊、欺瞞
   ⑤陸上戦闘
      攻撃精神
   ⑥訓練、後方、動員
      平素の訓練



   次に、INSSのシニアリサーチフェローであるヤング氏は、フォークランド紛争の重要性と中国がそれをどのように適用していくかについて分析を加えています。
   中国は認識したフォークランド紛争の重要性については、①情報、②ドクトリン、③統合された指揮統制システム、④国家動員、⑤拠点とアクセス、⑥エアー・パワー、⑦民間輸送、⑧水陸両用部隊、⑨後方の9つを掲げています。
   そしてこれらを中国が適用していく分野として、次の3つについて分析しています。
   ①ドクトリン
      後方態勢の充実、A2/AD、パワー・プロジェクション(戦力投射)、エアー・パワー
      、 制海
   ②取得
      海洋警戒システム、陸上基地航空機、水上艦艇部隊の充実、揚陸艦艇、補給艦艇、空中給
      油機
   ③作戦
      台湾、プレゼンスの重要性とそのための訓練の必要性

   南シナ海、東シナ海の安全保障をめぐって日本、米国、中国では様々な議論が積極的に交わされている今日、米国と中国の安全保障実務者達が、このフォークランド紛争を題材に積極的に研究を進めていることは見逃せません。そしてその研究視角は、オペレーショナルなレベルで着実になされています。日本の安全保障実務者も、フォークランド紛争に係るオープンな研究が必要でしょう。なぜならば、それは平素からの備えと抑止につながるものだからです。

【フォークランド紛争に係る中国の評価に関する先行研究】
1) Lyle Goldstein, "China's Falklands Lessons," Survival, vol. 50 no. 3, June-July 2008, pp. 65-82
2) Christopher D. Yung, "Sinica Rules The Waves? The People's Liberation Army Navy's"
    Power Projection and Anti-Access/Area Denial Lessons From the Falklands/Malvinas
    Conflict in Andrew Scobell, et al eds., Chinese Lessons from Other Peoples' Wars, U.S.
    Army War College Strategic Studies Institute (SSI), November 2011, pp. 75- 114.
    www.strategicstudiesinstitute.army.mil/pdffiles/PUB1090.pdf