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 米海大ナウ!

 JAM-GC構想の本質と将来 -グローバル・ウォーゲームの分析を参考に-
下平1佐の執筆論文が霞山会『東亜』に掲載

(021 2015/10/21)

米海軍大学   客員教授
本校戦略研究会(SSG)
1等海佐    下平   拓哉

   一般財団法人「霞山会」は、1898年、東亜の保全を目的とした東亜同文会を前身とし、現在、中国・台湾・朝鮮半島の政治、経済、国際関係、安全保障、人事動向に係る学術専門誌『東亜』を発行しており、現代中国研究者にとって必読のジャーナルとなっています。最新の第580号(2015年10月)に、拙稿が掲載されました。なお、同号には、日本国際問題研究所研究顧問の高木誠一郎氏が 米中の軍事戦略文献における国際状況認識について比較検討した重要な論考が掲載されており、安全保障実務者にとって必見であり、同会ホームページから閲覧可能です。


要 旨

   「JAM-GC構想の本質と将来-グローバル・ウォーゲームの分析を参考に-」
   日本を取り巻く安全保障環境は、近年一層厳しさを増しており、それを最もよく象徴しているのが、中国の軍事的能力の伸張と南シナ海や東シナ海における軍事的活動の活発化であろう。2009年、米国防総省は、議会への年次報告書『中華人民共和国の軍事力』において、今後注目すべき中国の新たな軍事的能力として、「接近阻止・領域拒否(A2/AD)」能力を掲げ、初めて分析を加えた。そして続く2010年、米国防総省は、「四年毎の国防計画の見直し (QDR2010)」において、初めて「エアシー・バトル」という構想を明らかにした。それから5年を経た2015年1月8日、米国防総省は、より統合を重視するため、その構想の名称を「国際公共財におけるアクセスと機動のための統合 (JAM-GC) 構想」と変更したのである。
   これまで「エアシー・バトル構想」をめぐっては、様々な議論が展開されてきた。例えば、米国防大学国家戦略研究所のハメス上級研究員は、「エアシー・バトル構想」には戦略がない、実現のための資源が不足していると批判し、「オフショア・コントロール戦略」を提唱したが、「オフショア・コントロール戦略」に係る実際的な作戦レベルの検証は現在に至るまで全く実施されていない。
   それに対して、「エアシー・バトル構想」は、QDR2010の2年後から、米海軍大学において、「グローバル・ウォーゲーム」という本格的な作戦レベルの演習を実施し検証が進んでいる。「グローバル・ウォーゲーム」に係る分析については、米海軍大学が正式に発表しているゲームレポートが唯一の資料であり、「JAM-GC構想」の本質を理解する上で欠かせない一級の資料である。
   筆者は、厳しい安全保障環境を受け日米同盟の一層の強化を図るため、2013年に海上自衛隊と米海軍が合意して新たに作られた米海軍大学連絡官兼客員教授として、日々、研究・発信・教育に当たっている。その米海軍大学では、昨今の中国の台頭を踏まえて、2006年に中国海事研究所(CMSI)が設置され、軍事のみに囚われない学際的なアプローチによる中国研究が活発である。
   本稿では、まず中国のA2/AD戦略に関する米海軍大学中国海事研究所(CMSI)所属の識者の論考を整理した上で、米国防総省や米統合参謀本部等が示した戦略文書における「エアシー・バトル構想」の位置づけを分析することによって、「JAM-GC構想」の重要要素を明らかにする。次に、「グローバル・ウォーゲーム」のゲームレポートを分析することを通じて、「JAM-GC構想」の将来的方向性を明らかにする。そして最後に、図上演習部長のデラボルペ教授へのインタビューを交えながら、「JAM-GC構想」の本質を明らかにするとともに、それらを踏まえた上で、今後日本が採るべき役割について提言した。

   【東亜 HP】
   http://www.kazankai.org/new_vol.php