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 米海大ナウ!

 2つの複雑な問題:現代の安全保障問題を解き明かす第一歩

(020 2015/10/13)

米海軍大学   客員教授
本校戦略研究会(SSG)
1等海佐    下平   拓哉


   「統合軍事作戦(Joint Military Operations:JMO)」を学んでいく上での基礎が、戦略と戦術をつなぐオペレーショナル・アート(作戦術)の理解です。しかしながら、それに先立ってJMOの開始時にまず議論されるのが、問題解決法についての学術的な理解です。
   複雑さを増す現在の安全保障環境下、指揮官が適切な指揮・命令を下し、作戦を遂行していくことが一層難しくなってきています。したがって、米海大の教育において最も重要視されているのが「クリティカル・シンキング(批判的思考)」です。そして、「クリティカル・シンキング」を習得する上での第一歩が、問題をいかに解決するかという問題解決法です。
   問題解決法では、まず複雑適応系(Complex Adaptive System : CAS)を理解することから始まります。簡単に言えば、現在直面している困難で長期化する諸問題は、非常に複雑ではあるが、いくつかの重要な特質を共有しているということです。
   ここで複雑な問題とは、「複雑な問題(Complicated)」と「複合的な問題(Complex)」の2つに大別することができます。「複雑な問題(Complicated)」は、問題が絡まっている状態なので、構造が明確な問題(well-structured)とされ、手順に従って解くことができます。例示すれば、内燃機関のような複雑さです。一方、「複合的な問題(Complex)」とは、たくさんの要素や部分、階層からなるため、構造が不明確な問題(ill-structured)とされ、解くにはより多くの知識が必要となります。例示すれば、経済や社会問題、そして戦争そのものなどです。このような問題解決法は、次のように表すことができます。

【筆者作成】

   JMOの全体構成は、4つのブロックに分かれています。ブロック1が、「複雑な問題(Complicated)」を解くためのオペレーショナル・アート。ブロック2が、オペレーショナル・アートを踏まえたオペレーショナル・デザイン(構想)と計画の立て方。ブロック3が、「複合的な問題(Complex)」を考えるための対反乱戦(COIN)等の各種作戦。そして、ブロック4が、「複雑な問題(Complicated)」と「複合的な問題(Complex)」の両方が含まれた実際的な図上演習です。

   そして、このような複雑な問題を解く基本的なアプローチは、次のとおりです。
1) 問題を明らかにする。
2) 作戦環境を理解する。 そこは、VUCA(Volatile, Uncertain, Complex, and Ambiguous)と呼ばれる
    不安定で不確実性が高く複雑かつあいまいな場です。
3) 所望結果(Desired End State: DES)と作戦の目的を明らかにする。
4) リスクを検討する。

   これらを通じて、JMOでは、現在のそして将来の指揮官にとって必要なことは、「クリティカル・シンキング」であることを強調しています。しかしながら、「クリティカル・シンキング」をもってしても、VUCAである作戦環境における問題は90%までしか解けないと言われています。残りの10%は、ナポレオンが言う「一瞥(coup d'oeil)」(「クドイ」と発音されます。)、つまり「ナポレオンのひらめき」と言われる、状況を瞬時に判断する能力を平素から養うことが重要であると認識されています。将来の指揮官がこれらを習得するため、米海大では、平素から経験と知識からなる「知的剣(Intellectual Sword)」を研ぎ澄ませよと教えています。