016 「太平洋の赤い星」トシ・ヨシハラ教授
(016 2015/08/28)
米海軍大学 客員教授
本校戦略研究会(SSG)
1等海佐 下平 拓哉
米海大の名物教授のひとりであるトシ・ヨシハラ(Toshi Yoshihara)教授は、中国の海洋戦略を分析した『太平洋の赤い星(Red Star over the Pacific)」』で有名です。米海軍のトップである米海軍作戦部長が認定した指定図書の一つにもなっています。米タフツ大学フレッチャー法律外交大学院で博士号を取得したアジア太平洋地域の安全保障問題の専門家です。
『太平洋の赤い星』によれば、アジア太平洋地域におけるパワーバランスを考える上で、中国の急速な軍事力増強に警鐘を鳴らしています。中国海軍ドクトリンの中心にはマハン理論があり、中国は、中国的特徴的をもって海を支配する寸前まできており、過小評価すべきでないと主張しています。しかしながら、毛沢東が言うように、勝利を左右するのは、ハードウェアではなくヒトです。中国海軍は、訓練、教育など臨戦態勢を構築するソフトウェア面でかなり遅れをとっており、また何よりも実戦経験がないと中国の弱点を指摘しているのが特徴です。
トシ・ヨシハラ教授は、『太平洋の赤い星』では中国の軍事、とりわけ海軍に焦点を当てていましたが、シーパワーをより広範な視点で捉える必要を訴えながら、非軍事アクターに対する研究を進めています。現在、米海大の同僚ジェームズ・ホームズ(James Holmes)教授とともに『日本のシーパワー』『中国のシーパワー』を執筆中です。
【トシ・ヨシハラ教授に関する注目すべき論文】
Martin N. Murphy and Toshi Yoshihara, “Fighting The Naval Hegemon: Evolution in French, Soviet, and Chinese Naval Thought,” Naval War College Review, Vol. 68, No. 3, Summer 2015, pp. 13-40,
https://www.usnwc.edu/getattachment/27c3fc57-01da-4b12-a360-d3e32a27393c/Fighting-the-Naval-Hegemon--Evolution-in-French,-S.aspx
青年学派という1870年代のフランスで考えられた、圧倒的に優勢な英国艦隊に対して、魚雷等の強力な武装を有した小型艦艇を使用して対抗する「弱者」の海軍戦略の分析を通じ、現代中国海軍の戦略を明らかにしている。中国海軍は、非対称なゲリラ戦略を採り、遠征能力を有した外洋海軍となって、縦深防御の作戦を採ろうとしている。つまり、米海軍のようなシーパワーを有する海軍を目指している。しかしながら、近海海軍と遠海海軍の両立は容易ではない。
【トシ・ヨシハラ教授の近著】
これだけ読めば、トシ・ヨシハラ通になれます。
Toshi Yoshihara and James R. Holmes, eds. Strategy in the Second Nuclear Age: Power, Ambition, and the Ultimate Weapon (Georgetown University Press, 2012)
Toshi Yoshihara and James R. Holmes, Red Star over the Pacific: China's Rise and the Challenge to U.S. Maritime Strategy (Naval Institute Press, 2010)
James R. Holmes, Andrew C. Winner, and Toshi Yoshihara, Indian Naval Strategy in the Twenty-first Century (Routledge, 2009)
Toshi Yoshihara and James R. Holmes, eds. Asia Looks Seaward: Power and Maritime Strategy, (Praeger Security International, 2008).
James R. Holmes and Toshi Yoshihara, Chinese Naval Strategy in the Twenty-first Century: The Turn to Mahan (Routledge, 2008)
【米海軍作戦部長指定図書】
米海軍士官は、よく本を読んでいます。そして、よく議論します。安全保障に係る共通の話題作りには欠かせないブックリストです。
http://navyreading.dodlive.mil/