海上自衛隊幹部学校

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 留学制度

留学生便り

ジョージタウン大学
ウォルシュ外交大学院
3等海佐 齋藤 雄介
3等海佐 中野 友朗


はじめに
    私たちは、2016年夏から約2年間の予定で、ジョージタウン大学ウォルシュ外交政策大学院(SFS: Walsh School of Foreign Services, Georgetown University。以後、SFS)に留学しています。受験の段階から現在に至るまで、様々な方々のご支援をいただき、充実した環境の中で勉学に励むことができています。
DCの特徴
    ジョージタウン大学は米国の首都であるワシントンDC(以後、DC)に所在します。この地の利も大事な大学の特徴の一つですので、まずはDCの特徴から紹介します。
    DCは、米国の他の地域と比べてとても特徴的な都市です。首都機能のほかに、世界銀行や国際通貨基金(IMF)といった国際機関、各国の大使館等が所在し、国際色も大変豊かです。さらに、こういった政府系機関に影響力をもつシンクタンクが多いのも特徴です。開発、経済、安全保障、環境等幅の広い分野で、国内外から優秀な研究者が集まり、毎日のように公開セミナーが行われているため、それらを活用し、専門的、かつ、幅広い知識を身につけることが可能です。その他日本と異なるところと言えば、シンクタンクの主要職員は、例えば政治任用制度で国務省や国防省等の主要な配置での勤務と、シンクタンクでの勤務とを往来するというようなことが多いことから、官僚として実際に政策決定や提案に携わった経験のある研究者が多い点が挙げられます。
    このように、政策との距離が近いというDCの特徴から、DCにある大学やシンクタンクは、政策立案に貢献することを重んじる傾向が強いと感じます。
大学院の概要
    ジョージタウン大学は、1789年に宣教師ジョン・キャロルによって設立された米国最古のカトリック系の大学です。その主要大学院の一つであるSFSは、1919年に米国初の国際関係学専門の大学院として設立され、国際社会で活躍する創造性のあるリーダーを育てることを目標として掲げています。また、国際関係を学ぶ大学院としては2012年以降世界一の評価を得ています。卒業生の多くが各国政府、国連、世界銀行、国際NGO、グローバル企業といった場所で活躍しており、著名な卒業生は、クリントン元米大統領、緒方貞子元国連高等弁務官、中満泉国連事務次長等が挙げられます。
    講師陣は、ジョージタウン大学や他大学で教鞭をとる研究者に加え、現役の国務省や国防省の官僚、国際機関職員、企業幹部等も多く、実務に関する生の状況を学ぶことが可能です。
    さらに、各国の高官や国際機関のトップが来校し、講演を行うことも多々あります。


外交政策課程(MSFS: Master of Science in Foreign Service)~米国大学院における授業の特色等(齋藤)
    私(齋藤)が所属するMSFSは、特定の専門性を持たず、国際関係、外交に関する事項を幅広く勉強する課程です。そのため、元々米国の外交官となる人物を育てることを目的としていたSFSの校是を強く反映しているカリキュラムとなっており、世界史、国際経済、国際金融、統計学、政策決定過程における倫理が必須科目となっています。また、卒業には1時間の口頭試問をパスすることが求められるのも特徴です。MSFSは、SFSではフラッグシップ的課程ですが、それでも人数は1学年100人前後と、この種の大学院としては少人数です。日本人は私が留学するまでは毎年3名程度でしたが、私の期は7人に増え、現在最も多く留学生を輩出している国となっています。

    この原稿を書いている時期は留学から概ね1年が経過し、残すところもう1年という時期です。ここでは、これまでの授業で感銘を受けたこと及び授業に役に立った勤務経験を紹介します。
    海上自衛官としてこちらに留学して得たこと(まだ勉強中ですが。)として、最初に挙げられるのはもちろん大学院の授業で得た知識です。海上防衛の施策に関連する国際関係の知識や、安全保障に関連する国際法の知識等、直接的に勤務に役立つことを幅広く、かつ、深く学んでいます。
    授業で感銘を受けたことの一つに、多様性のある学生のバックグラウンドからくる多面的なものの考えかたが挙げられます。米国の大学院は、入学要件として社会人経験を求めることが多いのですが、そのためもあり、同級生はアフリカやヨーロッパのNGOで勤務経験がある者が多くいます。また、留学生や本人がアメリカ人であっても両親や片方の親がアメリカ人ではない学生も多くいます。その関係もあり、議論が中心の授業では、一つのトピックについて、実に多くの示唆に富んだ意見が飛び交います。また、一つの価値観で物事を判断することをよしとしない傾向も強く、例えば「平和」や「歴史」といった言葉をとっても、 “平和とはどの状況を指すのか”、“誰から見た誰が作った歴史か”と言ったところまで深く議論します。本校ではクリティカルシンキングと言われる批判的思考をもって、物事を考えるスキルを大変重視しています。そのため、授業も1クラス18人までという少人数制クラスでのディスカッション形式がほとんどであり、講義形式の授業は少数です。幅広いバックグラウンドをもつ優秀な学生との議論で培われた、物事を色々な側面で見て、その本質を考えるということは、本校で学んだ大事なことの一つと言えます。
    一方で、我々日本人の発言も多面的な価値観の一つとして尊重されますし、皆が関心をもってくれます。海上勤務経験のある学生は、MSFSには他にいないため、議論の流れの中で、海上勤務で幹部自衛官として考えたことを紹介した際は、緊張感のあるリアルな体験として皆とても熱心に聞き入ってくれました。また、海上自衛隊の作戦立案のときの要領で問題点を分析し、江田島の幹部候補生で毎晩唱える帝国海軍兵学校の時代から受け継いでいる、軍人としていかにあるべきかをつづった「五省」を取り入れて書いた期末レポートでは、アメリカ人学生と比べ明らかに稚拙な文章であるにも関わらず、的確な分析とユニークな視点が入っているということで、教授から100点満点中99点を頂きました。このように、我々が海上自衛官として当たり前のようにもっているスキルや考え方が、こちらの学生や教授にすら大きな感銘を与えることがあるのも事実です。
    もう一つ授業の中で感銘を受けたのが、理論的な基礎を大切にする姿勢です。こちらで国際関係の議論をする際は、数的データや過去の経緯をしっかりと課題図書等で押さえ、自己の議論の論拠として用意しておく必要があります。また、米国国家安全保障会議で勤務経験があるビクター・チャ博士が、実務者として国際関係の基礎的理論を学ぶ重要性を説明されたことがありましたが、とても説得力のあるものでした。

    留学生として我々自身が何かを学ぶのも大事ですが、逆に日本から来た留学生として情報発信をするのも留学生の大事な役割の一つだと考えています。特にアジアに関連するバックグラントを持たない学生が多いMSFSの学生は日本はもとより、アジアへの関心が、DCから距離的に近いヨーロッパ、中東、アフリカに比べると、比較的低いというのも事実です。せっかく日本は留学生を最も多く派出している国でもあるということで、日本人の留学生(2/3は官公庁からの派遣留学生)と日本の文化を紹介する行事を行ったり、アジアに関するトピックを在DC日本大使館や米国国務省アジア関連部署と調整してMSFS等の学生を連れて話を聞きに行くなど、情報を発信するという意味での留学機会の活用にも心がけています。

日本文化紹介イベントでのソーラン節の披露しました

大使館を訪問し、関口防衛駐在官のお話を聞くイベントです

国務省を訪問し、ジョセフ・ユン北朝鮮担当特別代表からお話を伺いました

アジア研究課程(MASIA: Master of Arts in Asian Studies)~政治の中心地DCで体感した知識と経験の融合(中野)
    私(中野)が所属するMASIAは、第二外国語、法律、外交、歴史、文化、政治、経済、ビジネスといった総合的な観点からアジアの地域研究を行う課程です。1学年の人数が30人未満、各授業は10人前後という、SFSの中でも小規模の課程です。同級生の8割近くはアメリカ人ですが、語学教師やNGO職員等としての勤務経験や、家族のルーツ等を通じてアジアに縁をもち、高い関心を抱く者がほとんどです。日本についても、政治事情等、一般の日本人も顔負けなほどの知識を有しており、驚かされることがよくあります。
    同課程には、G・W・ブッシュ政権でいずれも国家安全保障会議上級アジア部長を務め、米国を代表するアジア研究者である、マイケル・グリーン博士とチャ博士が教鞭をとっており、この2人の存在を志望動機に挙げる同級生も少なくありません。チャ博士は、トランプ政権発足時に政権入りが取り沙汰され、次いで本稿執筆時点では、駐韓米国大使の筆頭候補としてメディアに報じられています。
    同課程の卒業要件は、36単位の取得、3つの授業からなる専攻分野の完成、及び第2外国語試験合格です。ただし、このうち第2外国語については、アジア系言語が母国語である者は免除されています。また、学生は、修士論文を作成するかどうかについて選択権を有しています。
    また、同課程の特徴に、学内外の研究職員又はインターンとしての勤務を準必修項目としている点があります。これは、授業で習得した知識と現場の経験を融合し、必要なネットワークを構築するためと説明されています。同級生たちは、学期中から政府・国際機関やシンクタンク、民間企業等で積極的にインターンシップに取り組み、夏季休暇ともなると海外での勤務経験を求めて世界中に散っていきます。
    私自身も、学期中はグリーン博士が執筆中の著作に関する研究補佐を務める一方、夏季にはDC市内のシンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS: Center for Strategic and International Studies)でリサーチ・インターンとして勤務しました。大学生以来13年ぶりの就職活動で、英語での採用面接という貴重な体験もしました。
    インターンの勤務は、CSISの主催イベントの計画・実行、所属研究者による企画研究や発表の補佐、メディア取材に対する回答案の作成等、多岐にわたります。私が在籍中も、訪米した韓国の文在寅大統領が来所してスピーチをされました。(CSISは、安倍首相が第二次政権発足直後にスピーチをしたことでも知られています。)
    インターンシップ、ひいてはDCで学ぶことの最大の利点の一つは、トップクラスの研究者や実務者と直に話せる機会が多いことでしょう。一例を挙げると、CSIS所長であり元米国防次官のジョン・ハムレ博士にご挨拶したところ、先方から「ぜひ話したい」とのことで、日米同盟やリーダーシップ等について意見交換する時間を取っていただきました。リーダーシップに関してハムレ博士は、「目上の者が若い人を相手にすると、つい自慢話やお説教などTalkに集中しがちだが、真のリーダーに必要なのはTalkではなくListenだ」とおっしゃっていました。私のような若輩者の話に丁寧に耳を傾けることが示すように、まさにご自身でその言葉を実行されているという印象を受けました。
    この例に限らず、米国では、高名な研究者や実務者であっても、日本と比較すると驚くほどアクセスが容易で、「風通しの良さ」を実感します。イノベーションに関するあるセミナーに出席した際、米統合参謀会議副議長のセルヴァ空軍大将が、「軍隊組織が将来生き残れるかどうかは、常識や慣習に染まっていない若い人の話を馬鹿にせずに聞けるどうかにかかっている」と発言されていました。役職や経験といった上下、所属組織といった左右の垣根を極力取り払い、誰もが率直に意見を交わせるところに、常にフロンティアを切り拓き、世界の先頭を走り続ける米国の強さを垣間見た気がしました。

    また、冒頭にも触れたとおり、DCはアメリカの政治の中心地であり、米国内外のキーパーソンと直接会える機会が多いことは、この街で学ぶ最大のメリットです。
    とりわけ、今回DCに留学したことにより、2016年度大統領選挙、そしてトランプ政権の誕生、という大きな政治的イベントをこの目で見ることができました。日本では、どことなく公に政治に関する話題をするのを遠慮する雰囲気がありますが、アメリカでは、政治がより身近なものとして考えられているような気がします。今回の大統領選でも、両候補者によるディベートを、まるでスポーツを観戦するかのように、クラスメートでバーに集まり、グラスを傾けながら観戦していました。それでも、ジョージタウン大学自体が、トランプ大統領の批判する「エスタブリッシュメント層」が大半であるということもあり、トランプ氏の当選が確定した翌日のお通夜のような校内の雰囲気はとても印象的でした。年明けの大統領就任式では、全米から集まってきたトランプ支持者や、逆にトランプに抗議する人々のデモを目の当たりにしました。
    このように、世界に大きな影響力を及ぼすアメリカの、その激動ぶりを間近で感じることができ、DCならではの貴重な経験ができていると感じます。

アジア研究学科の教授及びクラスメートと
日米の学術交流イベントにおいて、ジョセフ・ケネディ3世下院議員と
トランプ大統領就任式において、クラスメートとともに

おわりに
    ジョージタウン大学SFSの留学は、私たちの人生を大きく変える出来事となっています。2年間という貴重な時間、部隊勤務から離れ、優れた環境で学習に専念させていただいていることに日々感謝するとともに、海上自衛隊、日本のために自分にできることを最大限追求していこうと思います。
    本大学院留学に際し、これまでご支援をいただき、また現在ご支援をいただいている関係各位に改めて感謝を申し上げ、結びといたします。