海上自衛隊幹部学校

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 留学制度

米海軍大学(幕僚課程)

3等海佐 久原 功士
3等海佐 糸賀 佳朋

 

はじめに

   私達は、米国ロードアイランド州ニューポートにある米国海軍大学(Naval War College、以下「NWC」)における各国海軍の少佐クラスからなる留学生を対象とした幕僚課程(Naval Staff College、以下「NSC」)に所属し、52か国から集まった63名のクラスメートとともに勉学及び関係構築に励んでいます。以下、本課程の概要等について紹介したいと思います。

1 アカデミック教育

   NWCでは、米国を代表する戦略・軍事関係の教授陣や研究施設を抱えており、課程期間中は、教授陣2~3名が各セミナーでの担当教官となり、最新の図書や論文を使用した学習ができるのがアカデミック関連の一番の魅力です。

   NWCの教育プログラムは約11か月の教育期間を、戦略及び意思決定(Theater Strategy and Decision Making、以下「TSDM」)、戦略と戦争(Strategy and War、以下「S&W」)及び統合軍事作戦(Joint Maritime Operation以下、「JMO」)の3項目のコアカリキュラムに分割しています。各項目では、米国海陸空軍、海兵隊、コーストガード及び国務省の大尉から少佐クラスで構成される米国人学生約280名とNSCが混成で約20名程度のセミナーに別れ、議論を中心とした教育が行われます。

   TSDMでは国際関係、国内政治及び個人の3つのレベルにおける戦略上の意思決定について学びます。国際関係の分野では、安全保障上の懸念事項や解決すべき事項を洗い出し、米国の安全保障戦略の在り方について議論します。国内政治の分野では、米国政府機関の特徴と米国内において最終的に政策が決定されるまでのプロセスを学んだ上で、その特徴、利点及び欠点について議論します。個人の分野では、個人の意思決定上の思考プロセスにおける欠陥を理論から学び、その回避策について議論します。

   S&Wでは、ペロポネソス戦争から現代のテロとの戦争までの主要な戦争史について、戦争に至るまでの背景、戦争決定の理由、戦争の過程及び戦争終結の意思決定に関し、その特徴と妥当性について戦略レベルの視点にて各自で研究した上で学生同士で議論します。また、孫子、クラウゼビッツ、マハンやコルベットといった戦争理論がそれぞれの戦争においてどのように適用されるかを研究し、普遍的な事項について洗い出します。

   JMOでは、統合作戦を立案することができるまでの知識習得を目標として、太平洋戦争やフォークランド紛争等の具体的な作戦を事例として取り上げ、その内容の妥当性を検討します。特に米国内では各軍種共通の作戦立案要領があり、一連のプロセスを細部に渡るまで理解することが求められます。

   教育内容については以上述べたとおりですが、各項目の内容はお互いに独立したものではなく、議論や学習の過程において、別の項目にて学んだ内容が連結する瞬間があります。また、実地にて具体的な技術や戦術を習得した少佐クラスの学生は、課程就業後には作戦レベルを中心とした職務に就くわけですが、高次レベル、すなわち戦略レベルの理解がなければ作戦が失敗する、といった共通の理解を得るに至るのが本課程の大きな特徴と言えます。

2 NSCでの関係構築

   NSCでは関係構築を目標としたプログラムがあります。このプログラムは、米国中の著名な機関等を巡り、米国の文化や自然について学ぶFSP(Field Study Program)、学生個人が自国の文化、歴史等を紹介するカントリープレゼンテーション、そしてソーシャルギャザリングの三本柱で構成されています。各国から集まった留学生はこれらのプログラムを通して絆を深め、ニューポートを第二の故郷と呼ぶようになります。そして、再会を約束して、再び世界中に散っていく訳です。このように、関係構築は、NSCの主目的ですが、さらに本課程では家族帯同の学生が多く、米海大プログラムに加えて家族ぐるみでの付き合いもあり、課程学生間の関係は極めて濃厚になっています。

   また、セミナーでは、NSCの2、3名と米国人学生約20名が議論を通して共通理解を深めます。NWCでは、留学生の発言を現地の生の意見として重要視しており、議論を通して各国の士官の発言する周辺情勢、これに対する米国の貢献度の評価のヒアリングも行っています。特筆すべき事項として、TSDMでは、セミナー毎のシアターレベルの安全保障戦略を提言するグループ課題があるのですが、各シアターにおいて最優秀に選出された提言事項のどれもが関係構築を主軸としていたことを紹介します。2018年12月に米海軍作戦本部から発簡された『A Design For Maintaining Maritime Superiority』では、米国海軍戦略の重心の一つとして関係構築があることが明言されていますが、NWCにおける大尉・少佐クラスの学生にもその認識は高まりつつあります。

3 NSCでの新たな取り組み

   NWCでの課程は米国人学生のみ修業時にマスターが付与されていましたが、昨年度からNSCにおいても特定の条件をクリアした場合、マスターを習得することが可能となりました。このため、課程開始直後に希望者に対し、英語力及び英文作成能力を測る選抜試験が行われ、合格者10名がマスター候補者(International Master Program、以下「IMAP」)として選抜されます。IMAPは、NSCに対して緩和されている課題も米国人学生と同様に提出することが求められます。成績も米国人学生と全く同様の条件にて評価されますが、NSCは米国人学生の履修内容に加えて関係構築プログラムがあることから、実際には米国人学生よりも高負荷であり、マスター習得は極めて困難な道のりです。

   今回、私たち2名は、選抜試験に合格し、10名中2名が海上自衛隊の学生として占めることになりました。IMAPを通して強く感じることは、切磋琢磨する中で、副次的に得られる米国人学生との絆の深まりです。同じ苦労を分かち合い、同様に評価されるという、米国人学生と同じ土俵に立って議論を白熱させる中で、次第に米国人学生との間に強い仲間意識が生まれます。特にTSDM、S&W及びJMO各項目を終了する中で得られる達成感は、IMAPを通してこそ得られるものであり、NSC学生の各国士官に加え、米国人学生とも一層関係を深めることに役立っていると確信しています。

おわりに

   以上述べたとおり、NSCにおいては、各国海軍士官との交流及びIMAPを通した米国人学生との関係強化が大きな特徴と言えます。本稿は、最終学期において執筆していますが、絆の大切さを実感する日々を送っています。本課程を通して素晴らしい友人に出会うことができました。この絆が将来のわが国と自衛隊の一助となるよう、引き続き信頼醸成に努めて参ります。