海上自衛隊幹部学校

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 留学制度

英国王立国防大学

1等海佐 角 亜希仁

 

はじめに

   連日30度を超える暑さ、雨も降らずハイドパークの芝も緑が失われて日陰を選びながら道を歩く、そんな日々が私の英国生活の始まりでした。道を歩けば、英語が聞こえてくるかと思いきやアラビア語や他のヨーロッパ言語が溢れ、多国籍料理店が軒を連ねるロンドンは、2000年の遠洋航海で訪れたロンドンとは違った街に変貌している印象を受けました。
   私は、平成30年夏から英国留学の機会を得て家族とともにロンドンで生活しており、Royal College of Defence Studies(RCDS、英王立国防大と訳されます)の課程を履修中です。RCDSは、ウィンストン・チャーチルが軍高級将校、外交官、事務官等の相互理解を深めるとの構想の元に設立を提唱した戦略的リーダーを育成するための教育機関であり、1927年にImperial Defence Collegeとして設立されて以来90余年の歴史を誇ります。RCDSにおける教育については留学前から話には聞いていたものの、特徴的な点がいくつかありますので、RCDSの特徴について紹介した後に、私自身がイギリス生活で感じていること、また英語等について所見を述べたいと思います。

1 RCDSにおける教育の特徴
(1)学 生
   まず、学生の構成に目を向けると、RCDSにおいて特徴的なのは留学生数が全学生の半数を超え、イギリス人/非イギリス人の括りで見ればイギリス人がマイノリティになってしまうという点です。全学生数は110名を超えますが、その内留学生が概ね70名で50か国を超える国々から留学生が派遣されています。出身国はやはり大英帝国の旧植民地が多いのは事実ですが、我が国を含めそれ以外の国々からの留学生も共に学んでいます。RCDSが国防省の管轄であることを考えればもちろん軍人が多数を占めますが、先述のとおりチャーチルの構想に基づき軍人以外にも国防省の事務官、外交官、香港からは警察官、また民間企業、そしてイギリスの国会議員も学生となり国会日程が許す限り一緒に授業を受け討議をします。また、軍人の階級も日本における高級課程や防衛研究所で想定される(なりたての)1佐や2佐というより、准将等に昇任目前の大佐に加え、准将、少将が学生として入校しており、実際入校中に将官に昇任する学生も少なくありません。このような多様性があり、また組織においてそれなりの経験を持つ学生が様々なものの見方を伝え合い、視野を広げ、討議を活発なものにしているのがRCDSの大きな特徴です。
(2)学校生活
   1日の流れは、概ね朝一番にXOブリーフと呼ばれる管理事項のブリーフが10分行われ、その後教務となります。3時間の教務を例にとると、45分講義、15分休憩(ティーやコーヒー)、45分講義、15分休憩、1時間質疑応答といった流れで進みます。休憩時間とは言うものの、ティーやコーヒーを片手に議論することも多く刺激的です。また、質疑応答も活発で、手を挙げていても時間が来てしまい当てられずに終わってしまうこともしばしばです。昼食を挟んで午後はセミナーが行われる日があります。予めトピックと課題が示されており、指名されたリーダーが討議をコントロールします。グループはSDS(Senior Directing Staff)と呼ばれる少将クラスの教官の下6つのシンジケートと呼ばれるグループに分かれ、状況に応じさらに半分のサブ・シンジケートに分かれて議論します。グループは適度に多様性が確保されており、ヨーロッパを始めとする各地域の見方を学ぶと同時に私も日本、アジア太平洋地域からの視点で意見を述べ、RCDSにおける多様性を最大限に活用できるよう努力しています。また、King’s College Londonからの教授陣も各シンジケートに割り当てられており、アカデミックな環境の中で活発な討議をすることができます。
(3)教務
   教務は4つのタームに分かれて行われます。まず、第1タームは国際関係論の基礎的事項や安全保障理論等、指揮幕僚課程で学ぶような内容ですが、講義は各専門の大学教授、政府高官といったロンドンにRCDSが所在する地の利を活かした講師陣によって行われます。それとともに週1、2回セミナーが行われ、例えば“How much security is enough?”といった質問に答える形でリーダーが討議をコントロールします。第2タームは、戦略の分析や立案といったRCDSの設立目的を具現化した学期です。12段階の戦略立案のプロセスを学ぶとともに、ケース・スタディを通して戦略の分析や立案に習熟していきます。またこの学期では、STRATEXと呼ばれる戦略演習が1週間かけて行われます。5つの国に分かれた後、ある想定が与えられ、それぞれのグループが国家安全保障会議として機能し、大統領等役の教官に対して国家戦略をリコメンドするという面白い演習です。私はロシアチームの一員となりましたが、英語での議論は簡単ではなかったものの、外務省出向の経験を活かして戦略立案に貢献することができました。第3タームは地域研究です。各地域、各国の専門家を講義に招き教務が行われるとともに、各国の立場に立った課題を含むセミナーが行われます。これまであまり気に留めることもなかった地域について学ぶのは新鮮でかつ自分のこれまでの努力不足を痛感させられます。もちろん日本についての教務もありましたが日本は他の学生も興味を持っているようで、高齢化社会や憲法と自衛隊の関係に至るまで様々な観点で意見交換や議論をしています。第4タームはこれまでの学んだことの集大成として、STRATEX2が行われます。ここでは前回のSTRATEXとは若干異なり、より現実的かつ多岐にわたる役割で与えられる想定に対応していくことになります。国家のみならず国際機関等の役割も付与される予定であり、不安はありますが楽しみなイベントでもあります。また、戦略的リーダーに必要なリーダーシップに関する教務とセミナーは、1年を通じて行われます。課題については、年間で3つの個人論文を提出するほか、後述する海外研修先について、訪れた地域についてグループで論文を提出します。ここでもKing’s College Londonの講師陣が各学生に割り当てられ、論文作成についても適切にアドバイスを受けられるような体制が構築されています。

(4)研 修
   RCDSでは豊富な研修が行われることも大きな特徴の1つです。イギリス国内研修では、7つ程度のグループに分かれ、金融街、防衛産業のほか、各地方(日本で言えば、北海道、東北、関東といった地方)を訪ね、それぞれの課題等について学びます。ここで効果的なのは、研修後にシンジケート内でそれぞれが訪れた防衛産業、地方等についてブリーフィングを行い、全ての学生が全ての研修先についての知識を得ることができる点です。海外研修では、EU、NATO本部の所在するブリュッセルのほか、世界大戦の戦跡、墓地等を訪ねました。アメリカ研修では、国連本部、世界銀行、IMF、連邦議会といった機関のほか、在米英大では専門家によるブリーフィングもあり大変興味深く聞きました。また、米国防大の学生ともセミナーが行われ、活発な意見交換ができたことは素晴らしい経験でした。そして5月には一大イベントである海外研修が行われます。ここでも6つのグループに分かれ、それぞれの方面で3週間に渡り3〜4か国を訪れます。私はトルコ、レバノン、イスラエル及びパレスチナを訪問する予定であり、それぞれの国を肌で感じることができる研修を楽しみにしています。北東アジア方面では日本を訪問するグループもあり、事前に対象の学生等に対してプレゼンテーションをする等効果的な訪問となるよう努力しました。
(5)修士課程
   RCDSでは、King’s College Londonと提携し、年間24名という枠があるものの、普段の教務等に加えてセミナー出席、論文提出等をすることでMAを取得できるコースがあります。私は既に修士を過去に取得しており、まだ修士を取っていない学生が優先されるためこのコースは選択していませんが、質の高い教育を得て修士が得られる非常に貴重な機会が提供されています。
(6)文化行事
   RCDSでは、ソーシャルも重要な位置付けがなされており、ブラック・タイ必須のディナーイベントが数回行われます。トラファルガー海戦の勝利を祝い戦艦ヴィクトリー号の中でのディナー、空軍機がフライパスをする空軍博物館でのディナー、グリニッジの旧海軍兵学校でのディナー等想像を超えた豪華で楽しいイベントが年間を通じて行われます。また、インターナショナル・ナイトと呼ばれる催しがあり、留学生が各国の食べ物や文化を紹介するイベントがあり、内局からの留学生と協力して鮨や日本から持参したウイスキーやグッズを提供し、参加者から大変好評を得ました。

2 イギリス生活
   今回はたまたま空きが出た英軍官舎に入居することができましたので、私より少し遅れて到着した家族と一緒に生活しています。官舎は相当古い建物ですが、ロンドン郊外のキングストン・アポン・テムズという街に位置しており、美しいテムズ川のほとりまで歩いて10分、広大なリッチモンドパークも歩いて10分と環境には恵まれています。RCDSまでは片道70分程度の通学であり電車とバスを乗り継ぐのですが、電車の運行が突然キャンセルされたり大幅に遅れたりと同じ官舎に住む留学生と一緒に振り回されています。子供の小学校もなかなか決まらず落ち着きませんでしたが、幸い最も近い小学校が割り当てられ、英語が分からないと言いつつも友達と歩きながら話している子供のたくましさに驚かされます。また、イギリス国内でも特に中南部は山が少なくほぼ平地な地形であり、人口が日本の約半分ということもありますが、ロンドン中心部を除いて土地利用には余裕があり、各戸建てには庭があり、公園も広大で、少し車で走れば美しい自然に接することができ、イギリス人はオンとオフの切り替えもうまくやっているという印象を受けています。

3 英語
   RCDS留学のためには、IELTSと呼ばれる英語能力試験を受験しなければなりません。このIELTSはイギリスベースのため、もちろんイギリス英語が使われます。私自身アメリカ英語に慣れていたせいもあり、発音の違い等に相当戸惑いましたが、未だに単語の違い等にも戸惑っている面があります。ただ、どこの英語であれ、英語はツールとして活用しなければ意味がないことも痛感しており、辞書を引きながら適切な単語を探し、またそれを少しでも覚えて語彙力を増やす努力もしています。討議では、自分の意見を持つこと、そして述べることの大切さを肝に銘じ、貢献するつもりで話せば、自ずと表現力も豊かになり自分の存在感、ひいては日本の存在感を高める結果になるものと信じています。

おわりに
   日本から遠く離れた地での生活も残り3か月程になりました。海外での生活では戸惑いは不可避ですが、日本という国を外から見る良い機会であり、日本の長所短所両面を感じる機会にもなっています。我が国においても課題は山積ですが、日本が極東の大国として世界中の国から見られているのは事実であり、先人が築いてこられたこの事実に恥じないよう残りの期間も有効に過ごして参ります。
   最後になりましたが、このような環境で学ぶ機会を与えて頂き、また支援いただいている皆様にこの場をお借りして心から感謝申し上げるとともに、異国の地で苦労を共にしてくれている家族にも謝意を表して結びとします。