海上自衛隊幹部学校

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 留学制度

インドネシア海軍大学

3等海佐 濱 川  翔

 

はじめに
   私は2019年1月から11月までの間、インドネシア共和国の首都ジャカルタに所在する、インドネシア海軍大学(SESKOAL: Sekolah Staf dan Komando Angkatan Laut)第57期指揮幕僚課程で、インドネシア人学生及び各国留学生とともに教育を受けています。同校は、1962年に設立されて以来、多数のインドネシア海軍指揮官を養成し、インドネシア海軍の中核を担う指揮官及び高級幕僚を輩出してきました。
   2019年度は、インドネシア海軍学生138名(内2名は女性)、インドネシア陸軍からの交換学生2名、インドネシア空軍からの交換学生2名、私のほかオーストラリア・インド・マレーシア・パキスタン・シンガポール・韓国・タイの留学生8名の合計150名が、約11カ月間のカリキュラムの下、日夜研鑽に励んでいます。


(インドネシア海軍大学第57期指揮幕僚課程学生集合写真)

1 インドネシアの概要
   インドネシアは、人口約2億8000万人(世界第4位)で日本の約2倍、面積約189万㎢で日本の約5倍と非常に広大な国です。また約17000もの島で成り立っている群島国家であり、ジャワ民族をはじめ約300の多民族国家としても知られています。
   また、国民の約9割がイスラム教徒のため、ジャカルタ市内では早朝からADZANと呼ばれる礼拝を知らせる放送が、町の至る所で聞こえてきます。このように、イスラム文化の影響が強いインドネシアです。また、パンチャシラと呼ばれるインドネシア共和国建国の5原則(人道主義、民主主義、社会的公正、唯一神への信仰、国家の統一)を国是として示しています。
   しかし、インドネシアは多種多様な民族と宗教が混在する国家であり、様々な価値観を受け入れており、国家としてはイスラム教を強制せず、憲法で宗教の自由を保障し、キリスト教、仏教、ヒンドゥー教といった他宗教も認め、ともに融和する特色のある国です。
   現在、インドネシアは経済成長著しい国として世界中の注目を集めています。ジャカルタ市内には、邦人をはじめ多くの外国ビジネスマンが生活しており、市内の至る所に大型ショッピングモール、高級マンションが建ち並び、今現在でも多くの建物が建設されています。一方で、慢性的な渋滞の発生が大きな問題となっており、車両移動に際しては、一般に考えられる所要時間に対して約2~3倍の余裕を持つことが目安とされています。
   2019年は正副大統領・議会選挙の年でもあり、4月17日の投票日まで国内は大変にぎやかな状況でした。
   インドネシアは、1998年までのスハルト政権が35年続く独裁政権であったため、国民の大統領選挙への意識が高く、至るところで集会やデモ活動が行われていました。大統領選挙に勝利し、再選したジョコウィドド大統領は、国内投資による経済発展を目指す一方で、「世界海洋軸構想」(Konsep Poros Maritim Dunia)を掲げており、海軍力の増強や海洋資源の保護等に力を入れています。
   他方、インドネシアの強みは、若くて豊富な労働力人口と豊富な資源です。GDP成長率は毎年5%以上を保持しており、今後更なる発展が期待できる国家です。
   このように、潜在的なパワーを有する国において、同国海軍の学生と机を並べ、ともに切磋琢磨することは、知識の修得や視野の拡大のみならず様々な経験ができる良い機会でもあります。


(インドネシア中部ジャワの風景)

2 インドネシア海軍大学(SESKOAL)の特徴
   同校で私が履修している課程は、少佐・中佐クラスを対象とした指揮幕僚課程であると同時に修士資格を取得できる修士課程でもあります。同校の目的は、「国内および国際的な基準を満たす最先端の海上戦略に関する研究プログラムと教育を学生に施すこと」、および「海軍および海事科学に関する卓越した研究拠点となること」です。学生教育に関しては、以下の3つの点が重視されています。第一は各種研究を通して論理的思考を習得すること、第二は指揮官に必要な指揮統率能力の醸成、第三は不屈の精神力・体力の醸成です。

(1)論理的思考の習得
   通常の講義は大講堂にて行われ、履修期間の11ヶ月の間、安全保障政策、国家戦略、軍事戦略、統合作戦、後方運用、統計学等について学んでいきます。これらの講義において、学生は講師に対してだけでなく、学生間で相互に意見を交換し合い、活発な議論を行い、幅広い視野、柔軟な思考力を養うことが求められます。
   一方、学生は修士論文のテーマに添う形で、約15名のグループに振り分けられ、グループごとの課題を作成したり、ディスカッション等を行います。グループディスカッションには多くの時間が割かれており、常に自己の意見と他人の意見の違いや多様な意見から最善な方策を思考することが求められています。また、グループごとに意見をまとめて他のグループの学生とディスカッションをするなど様々な形態で学習が行われます。
   他方、本課程を通じて作成が義務づけられている修士論文も論理的思考を習得する上で重要なものとみなされています。それぞれの学生には2名の担当教授が指定され、課程開始から終了までの間、マンツーマンで論文指導を受けることが出来ます。修士論文はインドネシア語で作成することが求められているため、当初私は言葉の壁からなかなか前進することが出来ませんでしたが、最近では指導教授のおかげで、徐々に研究が進み、研究のレベルが向上してきていると実感しています。

(2)指揮統率能力の醸成
   講義のテーマで、指揮統率が取り上げられますが、様々な場面でグループ長やモデレーター、係等を割り当てられることによって、指揮統率能力の向上が求められています。特に、議論の長やモデレーターを行う時は、グループをまとめ、意見を集約する責任を有するため、認識を共有し全員が納得する答えを導き出すことが必要とされます。しかも、これら一連のプロセスは、期限が定められるとともに指導教授のもとで行われるため、頭をフル回転させる必要があり、自己の能力を向上させる良い機会になります。
   また、海外研修や国内研修が数回計画されており、現地の幹部学校の講義や議論に参加したり、防衛企業の研修等を通じて、自己の見識を広めることができます。私は、シンガポールを訪問するグループに参加し各種研修を行い、インドネシアと周辺国の防衛協力の状況を学ぶことが出来ました。そして、彼らとの交流や議論を通して、多様な価値観や見解があることを肌で感じることが出来ました。
   これらは私にとって、非常に意義深い経験だったと感じています。


(シンガポールにおけるIFC(Information Fusion Centre)研修)

(3)不屈の精神力・体力の醸成
   本課程においては、学習だけでなく、運動能力を向上させることも求められます。課程内で、3回の運動能力試験が予定されており、その結果は厳格に評価されることになります。もし体力の向上が見られなかった場合、追加の体力錬成が課せられるため、学生はほぼ全員、朝5時には起床して自主的にランニング等の運動を毎日行っています。これは学業を修める学生とはいえ軍人としての体力錬成を怠らない、という校風に沿ったもので、学生は勉学以外にも積極的に体力錬成を行っています。
   また、課業は朝6時30分の日朝点呼から始まり、課業終了時間は21時を越えることもあります。さらに、毎日のように各種課題が課されます。
   これまで身を置いていた環境とは大きく異なるため、当初は戸惑いもありましたが、現在ではこの状況にも慣れ、インドネシア流の「不屈の精神力」がなんたるかを身に着けつつあります。


(運動能力試験の様子)

3 校外生活
   普段の生活は、インドネシア海軍大学の近隣のアパートメントで家族とともに過ごしております。このアパートメントは、ジャカルタの中でも比較的治安が安定している南ジャカルタ地区に位置しており、ショッピングセンターに隣接しているため、日本人に大変人気がある場所です。私には5歳と2歳の息子がおりますので、特に周辺の保安と衛生状態には気を遣ってアパートを選びました。その結果、これまでのところ大きな問題なく日々過ごせています。週末は息子たちと郊外のクラブでサッカーをしたり、時には観光地を訪問したりして、当地での生活を満喫しています。
   ほとんどの留学生は、家族とともに海軍大学付近で生活をしているので、家族ぐるみの交流も活発に行っています。また、国防省主催のインターナショナルナイト等のイベントには、家族とともに参加し、様々な国の方と文化交流を行いつつ、日本文化を積極的に発信しました。


(国防省語学学校におけるインターナショナルナイトの様子)

おわりに
   日本とインドネシアは、1945年の独立から現在に至るまで、歴史的側面だけでなく、経済、外交など様々な形で深い関係があります。
   そしてインドネシアは、世界最大のイスラム教徒を抱える国家であるとともに、インド洋と太平洋、ユーラシア大陸とオーストラリア大陸を結ぶ戦略的に重要な場所に位置しているため、同国との関係は我が国にとって非常に重要といえます。アジア・太平洋地域から多くの留学生がインドネシア海軍大に留学している理由の一つには、このような背景があると思われます。


(インドネシア海軍大学の留学生)

   私の父は、かつて在インドネシア防衛駐在官として当地で勤務していました。当時小学生だった私は、そのような父の背中を間近に見て、「自分も大きくなったら、父親のように自衛官になって、いつかインドネシアに戻ってきたい」と憧れたものでした。それが今現実のものとなり、自衛官として国内外で活躍することを夢見て、防衛大の門をくぐったかつての自分を、非常に感慨深く思い出しています。
   自衛官という立場からみたインドネシアは、子供の頃に感じたそれとは比べ物にならないほど多様性に富んでいることが分かりました。また大きな潜在力を備えており、我が国にとって今後ますます重要な国になることは間違いありません。このように大きな可能性を秘めた国において、様々なことを学べる機会が得られたことに、私は大変感謝しています。
   日本とインドネシアは、現在に至るまで大変良好な関係が続いています。この素晴らしい関係は、長い間、両国の関係構築に携わってこられた、日本、インドネシア双方の多くの方々の努力の賜物です。そして今後は、この関係をさらに前に進めていくことが求められています。その際には、私も海上自衛隊の一員として、微力ながらその一役を担えるよう、今後も自己研鑽に励んでまいります。