海上自衛隊幹部学校

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 留学制度

米海大指揮課程

1等海佐 江畑 泰孝

 

はじめに

   私は、2018年7月から2019年6月下旬の約1年間、米国ロードアイランド州ニューポートに所在する米海軍大学(The U.S. Naval War College:米海大)において、指揮課程(Command Course)の学生として学んでおります。
   米海大は1884年に創設され、初代校長のスティーブン・ルース提督のリーダーシップとビジョンによって築かれた米海軍の専門的な研究の基盤は、以後1世紀以上にわたって多くの研究成果と人材を生み出しています。


指揮課程について
   米海大の指揮課程には、Command of Naval Warfare(CNW)とNaval Command College(NCC)の2課程が設置されており、前者が、米国の学生のみを対象とした課程で、後者は世界各国から派遣された学生を対象とした課程です。

   米国の学生は、米海軍の他、米陸空軍、海兵隊、沿岸警備隊及び国務省や国防省といった省庁から派遣された文官が所属しています。一方で、私が所属するNCC課程は、米国を含む世界各国から派遣された学生で構成されております。
   NCC課程は、1956年に当時の米海軍作戦部長であったアーレイ・バーグ大将の発案により創設されました。大将自身の経験を通じ、紛争を抑止するためには、世界各国の海軍間の交流や協力が不可欠であるとの認識から、旧敵国であった日本やドイツを含む世界各国から次世代を担う海軍士官(中佐・大佐級)を受け入れ、米海大において共に学び、生活することで掛け替えのない絆を醸成することが目的とされています。今年度は、米国(米海軍2名、米空軍1名、米海兵隊1名)及び51か国の陸軍、海軍、海兵隊から派遣された計55名の学生が共に学んでいます。


カリキュラムについて
   指揮課程には、学術プログラムのほか、実地研修プログラム(Field Study Program:FSP)や文化交流プログラムが設置されています。
   学術プログラムでは、必須科目として秋学期:統合軍事作戦(Joint Military Operations:JMO)、冬学期:国家安全保障意思決定論(National Security Decision Making:NSDM)及び春学期:戦略・政策論(Strategy and Policy:S&P)を履修します。授業は、10数名のCNW学生と3、4名のNCC学生が合同でセミナーを構成し、モデレーターと言われる教授等の指導により、討議を中心に内容の理解を深めていきます。加えて、通年を通じてリーダーシップ講座(Leadership and Ethics)を受講します。また、学術プログラムには、各学期において幅広い項目で選択科目が設置されております。修士課程学生は、各学期に履修することが必須となりますが、私のように修士課程ではない学生も選択することが可能です。選択科目においては、指揮課程学生と大尉・少佐級を対象とした指揮幕僚課程学生が合同で学んでいます。
   実地研修プログラム(FSP)は、留学生に対し、米国各地の歴史散策、基地研修、企業研修、シンクタンク等を通じて幅広いトピックに触れることで、米国の社会、組織、文化を理解することを目的に設置されています。

   文化交流プログラムは、米国だけでなく、各国の文化、慣習等について理解を深めることを目的としており、ハロウィンパーティーやクリスマスパーティーといった季節イベントのほか、各国の食文化を紹介するCuisine Night、夫人ミーティングにおける各国を紹介するカントリープレゼンテーション等が実施されています。

留学を通じて
   上記のプログラム及び米国での日々の生活を通じ、公私にわたり様々なことを学ぶことができ、とても貴重な経験をさせていただいております。
   各授業では、相当の読書量が要求されるとともに、それらに基づく自己の考えを述べることが必要とされており、CNW学生に交じっての討議への参加は、私自身かなりの困難を伴い、満足のいく結果は得られておりませんが、非常によい勉強となっております。それは、学問の内容だけではなく、CNW学生の視点と日本人としての私の視点の違いを学ぶことができるからです。留学生同士で会話をしたときにも同様の意見を聞きますが、米海大で学ぶ国家レベルの安全保障政策における意思決定等は、米国視点に立って考えられていることが多く、モデレーターもその観点を十分に把握したうえで授業を進行していきます。そのため、授業における留学生の視点に基づく発言は、CNW学生のそれと異なることも多く、良い刺激になるとの事でした。ごくわずかですが、私の些細な質問で討議が盛り上がったこともあり、そのときは驚きました(その討議には、ついていけませんでしたが)。一方で、私自身が狭い視点に立って物事を考えていたことに気づくこともよくあります。一例を述べれば、授業中に米国との同盟関係について討議することが多々あります。日米同盟の重要性は、海上自衛隊での勤務や共同訓練等を通じた自己の経験からも学んできたため、討議においてもトピックになると考えられました。しかしながら、日本以外での勤務が多いCNW学生や各留学生は、当然それぞれの地域を中心に討議するため、日米同盟とは米国の数ある重要な同盟の内の一つであるということを感じさせられました。米国のグローバルな視点を双方から学ぶこと、多様性を学ぶことが、ここNCC課程で学ぶ意義でもあると感じております。
   FSPでは、近郊のボストン、ニューヨークをはじめ遠く西海岸も訪問し、米国の社会、組織、文化の理解に努めています。企業研修において印象的だったことは、訪問した企業では、多くの退役軍人、予備役軍人を雇用していたことです。軍隊とは全く異なる職場において、軍務で培ったリーダーシップや意思決定要領は、十分に応用が利くとともに企業が彼らに期待する部分でもあるとの事でした。

   文化交流プログラムを通じて、米国の文化はもとより、各国の文化、慣習、宗教の違いについて理解を深めております。ただし、これらのプログラムはきっかけであり、日々仲間と交流すること自体がプログラムの主要なものであるとも言えます。
   その他、私は米海大や留学生が企画するサッカー、ランニング等のスポーツイベントに積極的に参加するようにしています。共に汗を流し、相互に称えることは、言葉の壁を越えた万国共通の概念であり、スポーツを通じてNCC学生だけではなく、CNW学生や指揮幕僚課程学生とも交流を深めております。


米国生活について
   米海大は、留学に際して家族の帯同を推奨しているため、私も家族を帯同して渡米しました。家族全員での海外生活は初めてということもあり、当初は何をするにも手探りで不安な状況でした。各学生には、米海大からスポンサーと呼ばれるボランティアで学生の面倒を見てくれる米国人家族を指定され、その方々に通年にわたって様々な支援を頂いております。また、米海大だけでなくニューポートをはじめとする地方自治体や市民の方々も米海大のインターナショナル学生に対する理解が深く、地域全体で我々を温かく見守って頂いているという印象を受けます。60年以上に及ぶNCCの歴史により培われたこのようなサポート体制も米海大の魅力の一つと言えます。

   NCC学生の約7割程度が家族を帯同しています。留学生には、私の子供と同年代の子供も複数いるため、地元のMiddle schoolにおいても子供同士の交友関係が構築されています。またNCC課程の各種イベントでの交流だけでなく、学生同士が相互に家庭に招いて食事をする等、まさに家族ぐるみの交流をしております。
   これらは私にとって、非常に意義深い経験だったと感じています。


さいごに
   学生相互の理解促進、信頼関係の構築が、ひいては国家間の安全保障環境の構築につながるというNCC課程の崇高な理念のもとに、Leadership、Friendship、Relationshipを通じて、様々なことを学ばせていただいております。この結果は形として見えるわけではなく、また完成形や模範解答があるわけではありません。私だけではなく、各留学生がカリキュラムを通じて、自問自答しながらNCC学生の絆を少しずつ築いていると感じております。留学期間も残りわずかとなってきましたが、卒業する日まで、その絆を少しでも大きなものにできるよう学業や各種交流に精進していく所存です。
   最後になりますが、このような素晴らしい環境の中で学ぶ機会を与えていただくとともに、様々なご支援に対し改めてこの場をお借りして感謝申し上げます。今後ともご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします。