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 戦略研究会

 もはやGame Changerではない
-現実にゲームの様相を変えてゆくUAV:サウジ石油施設攻撃事件から-

(コラム147 2019/11/14)

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“The game is now changing!”
    米2019年9月14日未明、中東サウジアラビアの石油関連施設がUAVに攻撃された事件(以下、「サウジUAV攻撃事案」)は、もはや戦い方の様相が現実に変わりつつあることを否応なく私たちに見せつけた。これまでGame Changerと表現されていた無人兵器は、今日すでに新しい戦い方のスタンダードを示している。
    このサウジUAV攻撃事案に関しては、いまだ報道等においても情報は断片的であり不明な点が多いが、本稿ではこの事案を通じ、UAVがもたらす今日の戦い方の様相について考えてみたい。

サウジUAV攻撃事案
    複数の報道に基けば、9月14日に生起したサウジUAV攻撃事案の特徴として、以下の3点が考えられよう。
    (1) 米国製防空システムが、UAVによって突破された
         サウジ王室防空軍に配備されていた防空システムは、AN/FPS-117フェーズドアレイレーダー、
       AN/TPS-43三次元戦術レーダーなどのレーダーシステムと、THAAD、MIM-104ペトリオット、改
       良ホークなどのミサイルシステムから成る米国製の高水準防空システムであった1。しかしなが
       ら、18基の自爆型UAV及び7基の巡航ミサイルのいずれも探知できず、領空侵入及び攻撃
       遂行を許した2
    (2) UAVは米国製のコピーの可能性がある
         2011年12月、イランは領空侵入した米空軍のステルスUAVを鹵獲した。イランによって公開さ
       れた映像によれば、このUAVは米空軍RQ-170センチネルであり3、後日米政府が実物と認め
       公式に返還を要求している4。イランはRQ-170と酷似したデルタ・ウイング型UAVシームルグを
       2014年に、同攻撃型サーエゲを2016年にそれぞれ公開しているが、サウジUAV攻撃事案の数
       日後、サウジは攻撃に使用されたとされるUAV及び巡航ミサイルの残骸の映像を多数公表し、
       UAVはイラン製「デルタ・ウイング型」、巡航ミサイルはイラン製「ヤ・アリ」であるとしている5
       今回の攻撃に参加したUAVは、イランが米RQ-170のエッセンスをコピー若しくはリバース・
       エンジニアリングした、安価な自爆型UAVである可能性がある。
    (3) 攻撃は精確であった
         米国が16日に提供した被攻撃施設の衛星画像 では、各種タンク外壁や輸送パイプと建造物
       の結合部など、施設内の重要ポイントと思われる箇所が適確にダメージを受けていることが分
       かる7。安価なコピーUAVが米国製防空ネットワークを突破し、未明の攻撃活動にもかかわら
       ず、相当の攻撃成果を挙げたことになる。

米揚陸艦Boxerによるイラン軍UAV撃墜事案
    サウジUAV攻撃事案と対称的な事案に、2019年7月、米海軍Wasp級強襲揚陸艦Boxerがホルムズ海峡においてイラン軍UAVを撃墜した事案がある8。正確に表現すれば、この事案は実弾によるUAVの ”撃墜” ではなく、新たな電子妨害技術によりUAVを ”無力化” したものであるとされる。
    新たな電子妨害技術とは、LMADIS(Light Marine Air Defense Integrated System:軽・海洋防空統合システム)と呼ばれる、機動車両に搭載された可搬式EMWシステムである。米海軍はイラン軍UAVの脅威を無力化するための装備として、2015年からMADISの開発を進めてきた9。攻撃プラットフォームであるMk1(攻撃車)と、レーダー及び光学カメラを搭載したMk2(指揮車)から成るこのシステムは、スキャンと敵味方識別により敵性UAVを探知、警告の後も脅威と判断されると、UAVが使用している周波数帯域を強力に妨害し無力化する10。米国防総省はBoxerによるUAVの ”撃墜” 手段が何であったかを明らかにしていないが、その日のBoxerの飛行甲板にはカムフラージュされたLMADIS車両が据えられていることが確認されている11
    サウジUAV攻撃事案の場合、前述のサウジ王室防空軍が装備していた防空レーダー12は、既存の航空機や地対空ミサイル、弾道ミサイルを想定して構成されていたため、超低空の数十~百数十メートルを極めて低いRCS(Radar Cross Section:レーダー反射面積)で侵入してくるステルスUAVや巡航ミサイルを探知することができなかった。仮に探知に成功しFCSへ移管できたとしても、THAAD・ペトリオット・ホークといった対弾道ミサイル/航空機用火器では、不規則な速度変換と3次元軌道を伴う小さなUAVや巡航ミサイルを撃墜することは困難だったであろう。
    一方、イランUAVを撃墜したBoxerが使用したLMADISは、初めからUAV脅威に対抗するために開発された装備である。Mk2(指揮車)に搭載されるRPS-42戦術広域監視レーダーは、特に既存の防空レーダーでは探知不能な低速・低RCSの目標を正確に検出・識別・追尾し、同時に脅威発生点から予想影響点をも算出する。Mk1(攻撃車)には、Mk1(攻撃車)には、多機能電子戦(EMW)機能が備わる。これらの対UAVに特化したアセットにより、BoxerはイランUAVを正確に探知し、撃墜(無力化)に至らしめたと言えよう13
    このように、従前の防空センサーやキネティックフィジカルな対空兵器では、小さく、低く、ゆっくり侵入してくるUAVを探知・攻撃することは、もはやできないということである。そして、UAVやドローンに代表される無人兵器に対する有効的かつ実効的な防御手段は、既に新たな戦い方の領域となったEMWの中にあるということである。

おわりに
    安価で大量のUAVに対し、従前の高水準の兵器システムでは対処できないという非対称な構図が、我々の目の前で既に生起している。これは、かつてGame Changerと呼ばれていたUAVがまさにゲームを変えているという現実である。UAVは今や軍事大国の専売特許ではなく通常兵器同然に拡散し、UAVによる戦いが、効果的な軍事作戦となっている。そして、サウジUAV攻撃事案やBoxerによるイラン軍UAV撃墜事案を踏まえれば、対UAV戦で勝利するためには、レーザーやEMP、HPM などのノンキネティックフィジカルな防御手段は必須の装備であろう。

   ~2XXX年、任務行動中の護衛艦「○○○」艦橋では、艦内一斉マイクにより今まさに戦闘号令が下令されようとしていた…
    「対UAV戦用意、レーザー防御システムモードフリー、HPMバリア出力最大、EMP弾撃ち方用意!」~

(幹部学校未来戦研究室 遠藤 友厚)

(本コラムに示す見解は、海上自衛隊幹部学校における研究の一環として執筆者個人が発表したものであり、防衛省・海上自衛隊の見解を表すものではありません。)

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1 MSNニュース「恐るべき無人機攻撃、世界最強の防空システムも突破」2019年10月3日。
2 また、攻撃されたサウジ石油施設は、ペルシャ湾岸から近いアブカイク(Abqaiq)及びクライス(Khurais)にあったが、この時ペルシャ湾には米イージス艦3隻が行動していた。Tasnim News Agency, “US-made Saudi Air Defenses Unfit for Real Combat : Russian Military”, September20, 2019.
3 AFPBB News「イラン、『撃墜した米無人偵察機』の映像を初公開」2011年12月9日。
4 YOMIURI ONLINE「無人偵察機返して…米大統領、本物と認める」2011年12月13日。
5 AFPBB News「サウジ攻撃の武器はイラン製 連合軍発表」2019年9月17日、及びREUTERS 「サウジ、攻撃使用の無人機残骸を公表 イラン関与『疑いない』」2019年9月19日。巡航ミサイルについては、親イラン武装組織フーシ派がもつイラン製ヤ・アリ(Ya Ali)の派生型クッズ1(Quds1)とする指摘もある。Navigation Japan「ドローンによるサウジ石油施設攻撃 日本は?」2019年9月25日。また、UAVについては、フーシ派が使用を主張しているカセフ(Qasef)とは形状が全く異なり、デルタ翼と尾部にプロペラを持った機体で今回初めての確認だとされる。Yahoo!Japanニュース「サウジ石油施設への攻撃はイラン製の新型巡航ミサイルと初確認の新型自爆ドローン」2019年9月19日。 
6 Newsweek日本版「数千億円かけたサウジ防空システムに欠陥」2019年9月20日、ほか。
7 一例として、石油施設内に一直線・等間隔に並ぶ4個の球状タンク外壁のほぼ同位置に、同方向から同規模の攻撃を加えられた痕を認めることができ、4機のUAVが同方向から同時に突入して攻撃を行った可能性がある。
8 日本経済新聞「米、イランの小型無人機を撃墜 ホルムズ海峡」2019年7月19日、ほか。
9 Livedoorニュース「アメリカ海軍、イラン無人機撃墜に新兵器『MADIS』使用。妨害電波で強制的に墜落」2019年7月22日。
10 Military.com“Here’s the New Marine Corps Weapon that Just Destroyed an Iranian Drone”18JUL2019、及びGlobal Security.org“Light Marine Air Defense Integrated System [LMADIS]”
11 Livedoorニュース、2019年7月22日。
12 AN/FPS-117はアラスカ~カナダ~グリーンランドに至る北方空域の戦略警戒監視システムとして開発された固定式レーダー。AN/TPS-43は局地防空用の可搬式戦術レーダー。
https://missiledefenseadvocacy.orghttps://www.radartutorial.eu ほか。
13 以上のLMADIS諸元については、Global Security.org“Light Marine Air Defense Integrated System [LMADIS]”から引用。
14 EMP=Electronic Magnetic Pulse(電磁パルス)HPM=High Power Microwave(高出力マイクロ波)