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 戦略研究会

 中東諸国からのエネルギー調達について-我が国のシーレーン防衛を見据えて-

(コラム146 2019/08/22)

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トランプ大統領のホルムズ海峡通過船安全確保への言及
    米国とイランの緊張緩和に向け、現職首相として41年ぶりにイランを訪問した安倍首相が最高指導者ハメネイ師と会談した6月13日、ホルムズ海峡周辺のオマーン湾で日本の海運会社が運航するタンカーが攻撃を受け炎上するなどタンカーを狙った攻撃が相次いだ1
    このような事態を受けて、米国トランプ大統領は、6月24日、中東のホルムズ海峡の原油輸送路防衛を長年にわたって米国が担っている状況に疑問を投げかけ、ホルムズ海峡を原油輸入の経路にしている日本や中国を名指しして、自国の船舶は自ら守るべきとツイートした。また、7月9日には、米国ダンフォード統合参謀本部議長が、中東ホルムズ海峡などのシーレーンの安全を確保するため、有志連合の結成に向けて関係国と調整していることを表明した1
    国内の反応としては、菅官房長官が、ホルムズ海峡における航行の安全確保は我が国のエネルギー安全保障上、死活的に重要とし、中東の緊張緩和と情勢安定化に向けた外交努力を継続する考えを示した3 。また、電気事業連合会の勝野哲会長も、ホルムズ海峡封鎖など最悪のケースなども描きながら、危機感を持って対応していきたいと話すなど、エネルギー各社は危機感を強めている4
    トランプ大統領の発言の真意は不明であるが、このように、我が国に向かう船舶の安全確保を米国に依存することが難しいと考えざるを得ない状況である。そこで、本コラムでは少し視点を変えて、中東諸国から輸入している第1次エネルギーの状況を今一度確認し、その対応について考えてみたい。

第1次エネルギー調達の状況
    我が国の2017年度の第1次エネルギーの国内供給は、石油39.1%、石炭25.2%、天然ガス23.4%、原子力1.3%、水力を含む再生可能エネルギー11.0%であり、全体の約9割を化石エネルギーに依存している5。そのうち石油と天然ガスは、ほぼ全てを輸入に頼っていることから、以下、この二種について述べる。
○石 油
    最大のエネルギーである石油は、2017年度の中東依存度が87.3%であり、そのほとんどがホルムズ海峡経由で運ばれてくる。50年ほど前、1967年度の中東依存度は91.2%であったが、1970年代の2度のオイルショックを経て、輸入先の多角化を図った結果、1987年度には67.9%まで低下させた。しかし、インドネシア、メキシコなど非中東地域における国内需要増による輸出減少などにより、近年は、90%弱と再びオイルショック前と同等の高い中東依存度となっており、米国や欧州が20%強であることを考慮しても、極めて高い水準にある6
○天然ガス(液化天然ガス:LNG)
    我が国におけるLNGの用途は、約6割が火力発電用、約3割が都市ガス用である。従来、我が国において、天然ガス利用は国産に限られていたが、1969年の米国を皮切りに、東南アジア、中東、豪州からの輸入が開始され、現在は我が国の第1次エネルギー供給の1/4程度をLNGが占めるに至っている。LNG輸入量全体に占める中東依存度(2017年度)は20.8%と石油と比較し大幅に低く、オーストラリア、東南アジア、ロシアなど輸入先の多角化が進んでいることから、地政学的リスクも相対的に低い7。特に、都市ガス各社の中東依存度は全般的に小さく、都市ガス各社が加盟する日本ガス協会によると、各社のホルムズ海峡経由での調達比率(2016年度)は3%程度にとどまる8
    一方、電力各社のLNG調達における中東依存度は比較的高く、東京電力と中部電力が出資する燃料調達企業「JERA」のホルムズ海峡経由でのLNG調達比率は32%(2018年度)にも達する9。また、電力10社全体の発電方法の内訳=電源構成(2017年度)をみると、LNG火力(39.8%)と石炭火力(32.3%)がほぼ同率であるが10、各社の構成比は大きく異なり、北海道電力、北陸電力、中国電力、四国電力などは石炭火力が50~60%と主力であるのに対し、LNG火力を主力としているのが、大都市圏や工業地帯を支える東京電力(60%)、中部電力(57%)、関西電力(42%)である11。これら3社の石炭火力の比率は20~26%程度にとどまり、中東依存度が比較的高いLNG火力に大きく依存していることから、不測の事態に対応できないことも考え得る。

今後の対応
    中東依存度の高い石油は、価格の急激な上昇や供給不足に備えるため、208日分の備蓄量(2017年3月末)があり、スポット(現物売り)でも調達可能なことから、不測の事態が長期化しない限り、我が国における企業活動及び国民の生活は現在とほぼ同様の状態が維持可能とされている12。しかしながら、90%あまりの中東依存度が我が国の弱点であることは明白であり、欧米と同等の20%程度は困難としても、輸入先の多角化を推し進め、その割合を低下させることを考慮すべきであることは間違いない。
   一方、LNGの備蓄量は約20日と言われているが、これは、石油が常温で液体であるのに対し、LNGは、マイナス162度以下の低温の液体で貯蔵する必要があり、また、この低温はLNGの気化熱によって保たれていることから、気化したLNGは取り出して使ってしまう必要があるためである13。つまり、この20日程度の備蓄量とは、ほぼ国内で流通している在庫であり、輸入量が大きく減少すれば、石油と比べ、かなり早い段階で在庫が底を突くこととなる。前述のとおり、都市ガス各社は、輸入先の多角化を実現しており不測の事態に備えていることが伺えるが、特に、東京電力など大都市圏や工業地帯を支える電力各社は、更なるLNG輸入先の多角化を推し進めるなど中東依存度を低下させることを検討すべきではないだろうか。また、我が国としても、LNG火力そのものの比率を低下させることも含め、不測の事態にも対応できるよう、エネルギー資源をバランスよく組み合わせた最適電源構成(エネルギーベストミックス)を早期に再構築することも考える必要がある。

(幹部学校運用教育研究部ロジスティクス研究室 本蔵 隆昭)

(本コラムに示された見解は、幹部学校における研究の一環として発表する執筆者個人のものであり、防衛省、海上自衛隊の見解を表すものではありません。)

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1 「日本に警告か=安倍首相、イラン訪問中-タンカー攻撃」時事ドットコムニュース(2019.6.14)
2 「米、ホルムズ海上警備…有志連合結成へ調整」読売新聞オンライン(2019.7.10)
3 「ホルムズ海峡の安全「死活的に重要」菅官房長官、トランプ氏発言で」産経ニュース(2019.6.25)
4 「ホルムズ海峡「タンカー攻撃」で日本への影響は」東洋経済オンライン(2019.7.18)
5 『エネルギー白書2019』P.108
6 『エネルギー白書2019』P.109、P.122
7 『エネルギー白書2019』P.126
8 「ホルムズ海峡「タンカー攻撃」で日本への影響は」東洋経済オンライン(2019.7.18)
9 「ホルムズ海峡「タンカー攻撃」で日本への影響は」東洋経済オンライン(2019.7.18)
10 『エネルギー白書2019』P.126
11 電力各社ホームページ「電源構成」
12 独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構ホームページ「我が国の石油・石油ガス備蓄」(http://www.jogmec.go.jp/library/stockpiling_oil_003.html
13 「貯められる石油、貯められないLNG」日本エネルギー会議事務局(2012.11.13)