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 戦略研究会

 中国の第3列島線への進出

(コラム144 2019/08/19)

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    中国の海洋進出に関し、近年、「第3列島線」という用語や太平洋島嶼国への関与に関する報道がたびたび見られる。2018年4月、ニュージーランドのアーダーン首相が、太平洋島嶼国のバヌアツにおける中国による軍事化の可能性がある港湾開発に対し、軍事化反対の旨のコメントを表明した1 。本年6月には、フランスがインド洋・南太平洋地域への関与を続ける旨の主張をアジア安全保障会議で行ったほか、オーストラリアのモリソン首相が太平洋島嶼国のソロモン諸島を訪問し、今後10年間で188億円もの経済支援を行うと発表した2
   これら諸国の動きは、中国の太平洋島嶼国への影響力拡大に対する警戒心の表れと言えるだろう。そこで本項では、中国の太平洋島嶼国への影響力拡大を象徴する政治、経済と軍事を絡めた活動状況について概観する。

    中国と太平洋島嶼国との公的な関係は、2000年代中頃まで活発ではなかった。
   2006年、中国は太平洋島嶼国との間で「中国・太平洋諸国経済発展フォーラム」を初めて開催した。その後しばらく動きは停滞していたが、2013年の第2回同フォーラム開催以降、政治的な動きと軌を一にして急速に太平洋島嶼国との交流を拡大している3
   2014年11月には習近平国家主席がフィジーを訪問し、国交のある太平洋島嶼国8か国との首脳会談を行った。また、2017年3月には「一帯一路国際協力サミット」にフィジーのバイニマラマ首相を招待している。これらの動きに連動し、中国による太平洋島嶼国への経済援助も急増した。オーストラリアのロウィ研究所によれば、2006年から2016年までの中国による太平洋島嶼国への経済援助額は約18億ドルであり、域内最大の援助国であるオーストラリアの約77億ドルには及ばないものの、約12億ドルの日本を凌駕し、第2位の援助国であるアメリカの約19億ドルとほぼ肩を並べる水準にある4。このように、中国は経済規模が小さい太平洋島嶼国にとって、経済的になくてはならない国になろうとしているように見受けられる。

   中国は経済援助を強化する一方、2000年代以降、南太平洋海域での海軍所属艦艇の活動も活発化させている。満載排水量25,000トンの衛星追跡兼弾道弾観測艦「遠望6号」などを南太平洋海域で行動させており、2013年までにフィジーのスバ港に8回ほど寄港させている5。また、2014年と2018年には、満載排水量23,000トンの「アンウェイ」級病院船を南太平洋海域で行動させており、フィジーのスバ港、パプア・ニューギニアのポート・モレスビー港等において医療活動を行っている6
    これらの艦艇は、純粋な戦闘艦ではない補助艦である。病院船の行動自体は平和的活動として受け取れるものだが、中国の軍事的進出による域内各国の警戒心やアレルギーを緩和させるための方策と見ることもでき、今後の動向に引き続き関心を払い続けるべきであろう。
    一方、中国による太平洋島嶼国への政治と経済を複合した活動も見受けられる。
    全人口が2万人あまりのパラオは経済規模が小さく、海洋資源・旅行業に多くを依存している国である。パラオに対する中国人旅行客の渡航数は2015年だけで8万人余りであり、中国人旅行客による観光収入がパラオの政財界に大きな影響を与える状況となっていた7
    このような状況にあって、中国は、2016年の台湾蔡英文政権誕生以降、パラオ等、台湾との外交関係を維持する太平洋島嶼国への外交攻勢を強めており、2017年にパラオに対する中国人旅行客の渡航制限を行った。この結果、中国人旅行客による観光収入に依存していたパラオ経済は大きな打撃を受けたという8
    中国が2国間の経済的関係を深化させた後に、該当国周辺での政治、軍事活動を活発化させることは、インド洋地域でも見られる事象だと言える9

   現在の太平洋島嶼国に対する日本の経済的影響力が相対的に低下している状況を考慮すると、海上自衛隊が現在実施している遠洋航海やアメリカ・オーストラリア等と連携した行動(パシフィック・パートナーシップ等)を今後とも継続することは、太平洋島嶼国に対するプレゼンスを示し続けられるという観点から意義がある。
    また、ODA等の経済援助を増額することは容易にできないかもしれないが、現在実施している能力構築支援の枠組みでの巡視船艇の供与等を一歩進め、OPV(Offshore Patrol Vessels)等の哨戒艦艇の供与や訓練支援など、支援対象の拡大も考慮する必要があるだろう10

(幹部学校運用研究部ロジスティクス研究室 石原明徳)

(本コラムに示された見解は、幹部学校における研究の一環として発表する執筆者個人のものであり、防衛省、海上自衛隊の見解を表すものではありません。)

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1 The Sydney Morning Herald,10th April 2018.
2 和田大樹「中国が南太平洋を狙う理由」『NewSpare』2019年6月11日。
   https://newsphare.jp/world-report/20190611-2/2/
3 八塚正晃「中国の太平洋島嶼国への進出と「一帯一路」構想」『NIDSコメンタリー』〔vol73 2018年5月〕、2頁。
   https://www.nids.mod.go.jp/publication/commentary/pdf/commentary073.pdf
4 Lowy Institute,Chinese Aid in the pacific
   https://chineseaidmap.Lowyinstitute.org/
5梁甲瑞「南太平洋地区海上戦略通道安全与戦略支点港口的構建」『戦略決策研究』〔2017年第2期〕、63-79頁。
6 中国は2014年に「アンウェイ」級病院船をRIMPAC訓練に連接して南太平洋海域に派遣したほか、2018年にも再度「アンウェイ」級病院船を南太平洋海域に派遣し、ポート・モレスビー港、スバ港を含む3港以上の港湾に寄港させた。
   「医療船「平和の箱舟」、パプアニューギニアの任務完了」『新華社NEWS』、2018年7月19日。
   「中国の医療船「平和の箱舟」、フィジーを友好訪問」『新華社NEWS』、2018年8月3日。
7 八塚、2-4頁。
8 「中国の観光禁止で来訪者半減のパラオ「量より質」で対抗へ」『ロイター』、2018年8月21日。
9 中国は、スリランカ、モルジブ等インド洋地域の国においても経済的関係を深化させた後に軍事活動を活発化させている。
   栗田真広「第3章「一帯一路」と南アジア―不透明さを増す中印関係―」防衛研究所編『中国安全保障レポート2019―アジアの秩序をめぐる戦略とその波紋―』防衛研究所、2019年2月1日、42-58頁。
10 平成30年度にはフィリピンに新造巡視船10隻、スリランカに巡視艇2隻を供与している。「令和元年度版 海洋の状況及び海洋に関して講じた施策」内閣府総合海洋政策推進事務局、2019年7月、25頁。