海上自衛隊幹部学校

交通案内 | リンク | サイトマップ |  English

HOME / 戦略研究会 / コラム / コラム140

 戦略研究会

 新技術導入に伴う覇権争い

(コラム143 2019/08/05)

*******

    2019年4月3日、米国、韓国において、世界初のスマホ向けモバイル第5世代移動通信システム(以下、「5G」という。)の商用サービスが開始され、日本、欧州や中国においても2020年から5G商用サービス開始予定に向けて、官民が一体となって5Gの規格・標準化の策定、通信装置等の開発・整備が急ピッチで進められている1.2.3
   この5Gの特徴は、「超高速・大容量」、「多数接続」、「超低遅延・超高信頼性」というものであり、導入においては、多くの通信に係る高度な技術が必要となり、かつ、高密度化された基地局の構築等のインフラ整備が必要であり、大規模な投資が見込まれ、更に、5Gを利用した新たなサービスの創出が見込まれており、国内への経済的波及効果が大きくなると期待されている1.2.3
   それだけに、この分野での主導権を獲得すれば、技術的な優位性を有するだけでなく、大きな利益が得られることから、欧米等の先進国は自国の開発した製品を標準規格として採用されるよう鎬を削ることは当然なことであると考える。
   この5Gの導入に関連した最近の情勢として、米国政府は、中国を後ろ盾にもつファーウェイの製品が5Gネットワークを構築する基地局等に使用されることの安全保障上の危険性について指摘し、ファーウェイが5Gネットワークへの関与から排除することを明言し、米国の5Gネットワークに連接することになる他国にもファーウェイ製品の排除を呼びかけている4ことは、報道のとおりである。米国政府がこのような行為を行う背景として、「中国製造2025」により中国の生産技術が進歩、特に5G分野において米国を差し置いて中国が先行することを許さないということが根底にあり、ファーウェイを5G分野から排除することで、5Gやその関連する自動運転、AI、IoTなどの中国における先端技術開発を遅らせ、米国の先進技術分野での覇権を維持しようという思惑がある4ことがうかがえる。
   過去に起こった新技術導入による覇権争い的な事例について振り返ると、国内の有名な事例として、1967年から2002年にかけて家庭用VTR (Videotape recorder)の争い、いわゆるベータ・VHS戦争があり、この争いでは、国内家電メーカーだけなく、欧米のメーカーを巻き込んで行われ、最終的にVHS方式に統一された5.6.7というものである。この事例では、当初国内での規格争いが世界規模での規格争いまでに拡大したものであったが、当該争いでは、国が関与していない民間レベルでの競争であった。
    また、そのほかに、近年の事例として、電気自動車の充電器分野における規格の覇権争いがあり、日本が「チャデモ」、欧米が「コンボ」、中国が「GB/T」という3つの規格に大きく区分され、それぞれの現在シェアが、7%、3%、87%となっており、日本がシェアの大きな中国と「共同」することにより、欧米の規格を排除し、国際規格の統一を図ろう8.9としている。この事例でも、家庭用VTRの争い同様、政府等が関与せず、民間レベルでの競争が現在行われている。
    このように、新技術導入において各種覇権争いはあるが、特に政府等が関与することなく、民間レベルで行われており、覇権争いのレベルが異なる。その理由は、目的が当該品の国内・海外市場でのシェア拡大・専有であることが明白であり、当該製品・規格に統一されたとしても、国内へのインフラ、国への施策や安全保障等に対して何らかの大きな影響を与えるものではないため、国の関与の必要性が低くなっていると推察できる。
    一方、5Gを使用した通信ネットワークのような、国内の社会的経済基盤や生産基盤に関係し、その整備が大規模となり、かつ、軍事面においても極めて重要な位置を占め、現代戦に必要不可欠である技術の導入は、国内外の企業間の市場争いという単純に経済的な面だけなく、国の安全保障分野においても大きな影響を与えることは十分予測することができる。
    このように、導入される規模や内容によって国の安全保障にも影響が考えられる新技術を導入する場合、我が国においても、国家として積極的かつ深く関与し、自国の安全の維持・強化を図る必要がある。

(幹部学校運用教育研究部 ロジスティクス研究室 荒木 伸夫)

(本コラムに示された見解は、幹部学校における研究の一環として発表する執筆者個人のものであり、防衛省、海上自衛隊の見解を示すものではありません。)

--------------------------------------------------------------
1 平成29年度情報通信審議会 情報通信技術分科会新世代モバイル通信システム委員会報告(平成29年7月20日新世代モバイル通信システム委員会)
2 5Gとは何か|5Gリスク情報室(https://ww.goojii.info/page-24/)
3 第5世代移動通信システム「5G」とは?-第5世代モバイルフォーラム(https://5gmf.jp/about-5g/)
4 東洋経済オンライン(2019.6.19)「ファーウェイつぶしは中国の5Gをたたく手段だ」
5 「VHSの世界制覇―その成功要因―」明治大学大学院経営学研究科M2柳義久(平成28年6月18日)
6 VHS対ベータの家庭用VTR規格統一戦争(http://www.icom.co.jp/beacon/backnumber/electronics/005.html)
7 ソニー「Sony History」(http://www.sony.co.jp/SonyInfo/CorporateInfo/History/SonyHistory/2-02.html) 
8 日本経済新聞電子版(2018.8.23配信)「EV充電規格、日中統一 世界シェア9割」
9 EV充電器規格の世界覇権、日本が中国を取り込み反転攻勢の成否(https://diamond.jp/articles/)