海上自衛隊幹部学校

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 戦略研究会

 島の地位の喪失は領海の減少になるのか

(コラム141 2019/07/16)

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○島が消失!?

    2019年5月20日から5月24日までの間、小樽に本部を置く海上保安庁第1管区海上保安本部は、北海道猿払村沖合約500メートル(宗谷岬の南東約30キロメートル)にあるとされている「エサンベ鼻北小島」の測量を行うと発表した1。本調査は、エサンベ鼻北小島が「消失」した可能性があると2018年10月に住民からの通報を受けたものである2。この「エサンベ鼻北小島」は、1987年に発見され、当時は海面から約1.4メートルほどの高さであったが、その島が海面から見えなくなってしまったようだ3。そして「消失が確認されれば、日本の領海が狭まる恐れもある」とも報道されている4
   本コラムでは、自然に形成された陸地(地形)と領海の関係について法的観点から整理し、若干の考察をしたい。

エサンベ鼻北小島の位置(国土地理院電子国土Webより)
エサンベ鼻北小島の位置(国土地理院電子国土Webより)

○自然に形成された陸地の区分及び派生する権利

    海洋法に関する国際連合条約(以下、「国連海洋法条約」という。)上、「島」とは、自然に形成された陸地であって、水に囲まれ、高潮時(満潮の時)においても水面上にあるものをいうと定義されている(第121条第1項)。また、島は、領海、接続水域、排他的経済水域及び大陸棚を有する(同条第2項)。つまり、島とは、自然にできた陸地で常に海面上にあるものであり、領海等すべての権利を有しているということができる。
    ただし、島のうち、人間の居住又は独自の経済的生活を維持することのできない岩(以後、「いわゆる岩」という。)は、排他的経済水域または大陸棚を有しないとされている(同条第3項)。したがって、いわゆる岩は、領海及び接続水域を有しているということができる5
    自然に形成された陸地であって高潮時に水面上にないものとして、「低潮高地」と「暗岩」に区分することができる。
    国連海洋法条約上、「低潮高地」とは、自然に形成された陸地であって、低潮時(干潮の時)には水に囲まれ水面上にあるが、高潮時には水中に没するものをいうと定義されている(第13条第1項)。また、低潮高地単体では領海を有しないが、本土や島からの領海内に存在する場合は、領海を測定するための基線として使用できる(同条第2項及び第3項)。さらに、基本的に低潮高地と海岸線や島との間に直線基線を引くことはできないが、低潮高地の上に恒久的に海面上にある灯台等の施設がある場合及び低潮高地との間に直線基線を引くことが一般的な国際的承認を受けている場合に直線基線を引くことができる(第7条第4項)。この直線基線とは、海岸線が著しく屈折していたり、海岸に沿って至近距離に一連の島がある場所において領海の幅を測定するための基線として使用できると規定されている(第7条第1項)6
    「暗岩」という明確な定義は国際法上ないものの、海図図式では低潮時においても水中に没しているものを暗岩(暗礁)と呼んでいる7。この暗岩には、領海を始めとする各種の海洋区分による権利は何も生じない。
    これらを簡単にまとめると以下のとおりである。

(表)自然に形成された陸地の区分と海洋区分
(表)自然に形成された陸地の区分と海洋区分
  ※ただし、低潮高地は、基線又は直線基線の基準となりうる場合がある。

(図1)自然に形成された陸地の断面のイメージ図
(表)自然に形成された陸地の区分と海洋区分
 (塩川洋志「低潮高地の埋め立てに関する国際法的考察」『波濤第235号』より(かっこ書きは筆者が追記))

(図2)低潮高地と領海
(表)自然に形成された陸地の区分と海洋区分
 (塩川洋志「低潮高地の埋め立てに関する国際法的考察」より)

○エサンベ鼻北小島の再確認

    海上保安庁によるエサンベ鼻北小島の調査結果は本年7月頃に出されるという8。エサンベ鼻北小島の法的地位がどうなるのかはその調査結果を待つことになるが、ここでは島でなくなった場合の領海への影響を見てみよう。
    まず、エサンベ鼻北小島の状況を再確認すると、地理的位置は北海道本島から沖合500メートル、島を目視で確認できない状況9、島の上に灯台等の施設は存在しない。
    エサンベ鼻北小島がいわゆる岩と判断された場合であるが、いわゆる岩はそれ自体で領海を有するため、領海に関しては何ら変化は生じないことになる。しかし、島を目視することができない状況であるため、岩、つまり、高潮時においても水面上に露出している可能性は低いであろう。
    次に、低潮高地と判断された場合であるが、エサンベ鼻北小島の位置は、北海道本島から約500メートル沖合であるため、本島の領海内に存在している。したがって、本土からの領海内にある低潮高地は基線として使用できるため、領海に関しては変化がないということができる。また、エサンベ鼻北小島の上に灯台等の施設を建設した場合は、直線基線を引くことができる低潮高地となる。しかし、同島を含む北海道オホーツク海沿岸には、直線基線は引かれていない。これは、海岸に沿って至近距離に一連の島があるか海岸線が著しく湾曲しているという国連海洋法条約第7条第1項の要件を満たしていないと判断された可能性がある。
    最後に暗岩と判断された場合であるが、残念ながら領海の幅を測定するための基線としては使用することができず、灯台等の施設を建設したとしても、それは単なる人工物とみなされ直線基線の基準点とはならない。また、暗岩を埋め立てて高潮時においても水面上にある人工島を建設した場合であるが、エサンベ鼻北小島の状況に当てはめると、港湾工作物には合致しない可能性が高く、単なる沖合の施設又は人工島と判断され、領海の画定には影響を及ぼさないであろう(第11条及び第60条第8項)。

○領海が狭まるの?

    エサンベ鼻北小島が消失すると領海が狭まるという報道もあるが、上記検討から一概にそうではないことが分かる。
    つまり、エサンベ鼻北小島が低潮高地と判断されれば、本土からの領海内であるため基線の基準となり、また、恒久的に海面上にある灯台その他これに類する施設を低潮高地たるエサンベ鼻北小島の上に建設した場合は直線基線の基準とすることができるからである10
    さらに、エサンベ北小島以遠の領海内に島、いわゆる岩又は低潮高地の存在が確認された場合には、エサンベ鼻北小島の存在自体が領海の判断に影響しなくなる。これは現実的でないともいえず、現に沖縄県与那国島では高潮時も水面上にある陸地が確認され、日本政府が把握していた地点よりも日本の最西端が西側へ約110メートル動く可能性が出ている(ただし、既に与那国島の低潮線とされているため、領海等の面積には影響しない。)11。また、小笠原諸島にある西之島での噴火による島の面積の増加12や千島列島における火山活動 も報道されており、新たな島の誕生・発見もあながち夢ではないかもしれない。
    いずれにせよ、島を発見する又は島の消失を防ぐためには、継続的に我が国の領域及び周辺海域を把握する必要があり、「排他的経済水域及び大陸棚の保全及び利用の促進のための低潮線の保全及び拠点施設の整備等に関する基本計画(平成22年7月13日閣議決定)」及び「海洋管理のための離島の保全・管理のあり方に関する基本方針(平成27年6月30日、総合海洋政策本部)」に従って、その活動のひとつである我が国の管轄海域の外縁を根拠付ける離島の保全、調査等に努める必要がある。海上自衛隊も平常の活動において、自然的な低潮線の後退等を現認した場合には、関係省庁への情報提供に努める必要がある 。そして、あってはならないことではあるが、万が一にも島の地位を失った場合は、領海の画定への影響を最小限にするため、政府一丸となって速やかにその施策を講じ、的確な海洋管理を行わなければならない。

(幹部学校 作戦法規研究室 上薗 智昭)

(本コラムに示された見解は、幹部学校における研究の一環として発表する執筆者個人のものであり、防衛省、海上自衛隊の見解を示すものではありません。)

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1 「広報資料 エサンベ鼻北小島での測量を実施します」海上保安庁第一管区海上保安本部、平成31年4月24日
2 「島が“見あたらない” 北海道の海で何が」NHK、2019年5月20日、https://www9.nhk.or.jp/nw9/digest/2019/05/0520.html(2019年6月21日アクセス)。
3  「北海道の小島消失か、調査始まる 領海狭まる恐れも」日本経済新聞、2019年5月21日、https://www.nikkei.com/article/DGXMZO44144640U9A420C1000000/(2019年6月21日アクセス)
4 「北海道の無人島『エサンベ鼻北小島』存在確認へ調査」日本経済新聞、2019年4月24日、https://www.nikkei.com/srticle/DGXMZO45051870R20C19A5CR0000(2019年6月21日アクセス)
5 日本政府は、国連海洋法条約には「岩」自体の定義がない上に、島と岩との区別が明確ではなく、領海、排他的経済水域等を有することができると考えている(第145回衆議院建設委員会議事録第8号(1999年)21頁)。
6 我が国は、「領海及び接続水域に関する法律(昭和52年法律第30号)」に基づく「領海及び接続水域に関する法律施行令(昭和52年政令第210号)」により、平成9年から全国で162本の直線基線を採用している。
7 船舶の運航や海図では、「暗岩」という用語は一般的に使用されている。 「海図に採用されている水深・高程の基準面一覧図」海上保安庁第7管区保安本部、https://www1.kaiho.mlit.go.jp/KAN7/sakuin/zusiki/kijyun.htm(2019年6月27日アクセス)
8 「北海道の無人島『エサンベ鼻北小島』存在確認へ調査」日本経済新聞
9 「エサンベ鼻北小島、目視できず=第1管区海上保安本部が途中経過を発表」時事通信、2019年5月28日、https://www.jiji.com/jc/article?k=201905280841&g=soc(2019年6月21日アクセス)
10 なお、低潮高地の埋め立てに関する詳細な考察については、塩川洋志「低潮高地の埋め立てに関する国際法的考察」『波濤第235号』(2016年1月)を参照されたい。
11 「日本の最西端が移動 これまでより約110m西に」NHK、2019年6月11日、https://www3.nhk.or.jp/news/html/20190611/k10011948811000.html(2019年6月25日アクセス) 「日本最西端260メートル先へ 地理院が与那国島の岩を地形図に」日本経済新聞、2019年6月10日、https://www.nikkei.com/article/DGXMZO45920050Q9A610C1CR8000/(2019年6月25日アクセス)
12 「西之島の地形図と海図を改版~我が国の管轄海域がさらに約50平方キロメートル拡大~」国土交通省国土地理院、2019年5月22日、https://www.gsi.go.jp/kanri/kanri61003.html(2019年6月25日アクセス)
13 「千島列島で噴火 噴煙高さ1万m以上に 旅客機はルート変更も」NHK、2019年6月22日、https://www3.nhk.or.jp/news/html/20190622/k10011965041000.html(2019年6月25日アクセス)
14 なお、低潮線保全と自衛隊の関係については、塩川洋志「低潮線保全法について」『波濤第211号』(2010年11月)を参照されたい。