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 戦略研究会

 ホルムズ海峡の封鎖について

(コラム137 2019/06/05)

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    イランのファルス通信などによれば、米国トランプ政権がイラン産原油の禁輸から日本など8か国・地域を除外した措置の撤廃を決めたことに反発し、イランの最高指導者ハメネイ師直轄の軍事組織、イラン革命防衛隊のタングシリ海軍司令官は4月22日、原油輸送の大動脈であるホルムズ海峡の封鎖に言及したと我が国の複数の報道機関が伝えている1。日本の河野外相も、日本のエネルギー供給の生命線であるホルムズ海峡周辺での対立は極めてゆゆしき事態とし、海峡が封鎖される事態も想定して対応を検討する考えを示した2。このように我が国では「封鎖」という用語を使用して報道されているが、果たしてイランの示唆すると伝えられる行為が、国際法上の「封鎖」に該当するかについて検討した後、仮にイランがその行為を実行に移した場合、国際法上いかなる評価を受けることになるかについて、整理することとする。
    封鎖(blockade)とは今日では武力紛争時の用語であり3、敵国又は敵国占領地への出入りを阻止するために行われる。封鎖を有効ならしめるためには、①これを宣言し各国に通告すること、②当該海域に十分な兵力を維持すること、③全ての国の商船に公平に適用すること、④敵地に出入りする商船に限定し、中立国に出入りする航海を妨害しないことが要求される4
    前提が武力紛争中であるので、仮にイランと米国(状況によりイスラエル)の間に武力紛争が発生したとしても、この要件に照らせば、「封鎖」されるべき陸地はホルムズ海峡の内海側となる湾岸諸国であり、これらの湾岸諸国が米国側に立って参戦しない限り、イランと武力紛争の関係にはない。したがって、報道されているようなイランのホルムズ海峡封鎖は、④の要件に合致しないことになり、我が国報道機関が伝えている“封鎖”は国際法上の封鎖(blockade)には該当しない。
    一方、英字紙等は今回の報道では、“close”5、 “block”又は“blocking”6の語を使用している。2012年に情勢が緊迫した際も、“closing”と報道されており7、イランの示唆する行為は戦時国際法上の封鎖(blockade)ではないと考えられる。また、確認できた現地のメディア報道によれば、欧米メディアの報道の元となったとみられるイランの海軍司令官の発言は、「ホルムズ海峡が通航できなくなれば誰も恩恵を受けることができなくなる」等というものであり、直接的にイランが船舶のホルムズ海峡の通航を妨害するような趣旨の発言とするには疑問がある8。したがって、イランが国際武力紛争法上の封鎖(blockade)はもちろん、“close(closing)”も企図していると断じることもできない。このため、以後、本コラムではイランが示唆すると伝えられる行為の訳語として「閉鎖」の用語を仮に用いることにする9

    イランが「閉鎖」を実行するとしても、そのためにいかなる手段を用いるかは明らかではない。想定し得るものとしては、船舶に対し停船、臨検、反転等を要求するなどの手段から、拿捕、対艦ミサイルによる攻撃、機雷敷設等が考えられる。
    以上を踏まえ、イランが仮にこれらの手段を実行に移した場合、国際法上いかなる評価を受けることになるかについて、整理することとする。
    まず、前提となるホルムズ海峡の国際法上の位置づけについて確認する。

ホルムズ海峡と湾岸諸国             ホルムズ海峡拡大図

    ホルムズ海峡は、オマーン湾の公海又は排他的経済水域とペルシャ湾の公海又は排他的経済水域を結ぶ国際航行に使用される海峡(以下、「国際海峡」という。)であり、最狭部は沿岸国であるオマーン(飛び地のムサンダム半島)の領海とイランの領海に覆われ、両国とも国内法で等距離中間線を境界線とする旨を規定している10。同海峡にはIMO(国際海事機関)により採択された分離通航帯が設定されているが、同通航帯は中間線よりオマーン側に位置する11
    海洋法に関する国際連合条約(以下、「海洋法条約」という。)の規定に照らせば、地理的基準及び国際航行の実績からも同海峡には通過通航制度が適用される12。通過通航制度においては、すべての船舶及び航空機が航行及び上空飛行の自由を継続的かつ迅速な通過のために行使することができる13。潜水艦の潜没航行も、条文には明記されていないが、潜没航行が潜水艦にとって「通過の通常の形態」(海洋法条約第39条1項(b))であるとして、一般的に肯定されている14。沿岸国は通過通航を妨害してはならず、また停止してはならない15。ただし、オマーンは海洋法条約締約国であるが、条約批准に際しての解釈宣言で、領海について無害通航の原則に関する本条約の規定に合致して領海において完全な主権を行使するとしている16。また、イランは海洋法条約を締結しておらず、通過通航は慣習国際法を明文化したものではなく、海洋法条約締約国のみに適用されるとして、ホルムズ海峡について無害通航を主張している17。一方、海洋法条約は通過通航以外の国際海峡における通航制度として、「停止されない無害通航」を規定する。この通航制度は、公海又は排他的経済水域の一部と公海又は排他的経済水域の他の部分との間にあるが沿岸国の本土と沖の島から成り、島の外側に航行上水路上便利な公海又は排他的経済水域の航路が存在する海峡(例、イタリアのメッシナ海峡)及び公海又は一国の排他的経済水域と他の国の領海との間にある海峡(例:アカバ湾口のチラン海峡)に適用される。

    一般の領海においては、沿岸国が自国の安全保護のため不可欠な場合に無害通航を一時停止できるが18、これらの国際海峡ではこの権利を行使することはできない19。ところがホルムズ海峡は、地理的基準が「停止されない無害通航」が適用される海峡とは合致しない。そこで、海洋法条約以前に国際海峡の通航について規定した1958年の「領海及び接続水域に関する条約」(以下、「領海条約」という。)を見ると、同条約第16条4項は、「外国船舶の無害通航は、公海の一部分と公海の他の部分又は外国の領海との間における国際海峡においては停止してはならない。」と規定している。海洋法条約締約国のオマーンはさておき、非締約国のイランはこれを根拠に無害通航を主張しそうだが、実は両国ともに領海条約を締結していない。さらにイランは国内法で安全保障等のため領海の無害通航を停止できると規定し、この規定を国際海峡について除外するかについては触れていない20。しかし、同条約成立からさかのぼる1949年のコルフ海峡事件の国際司法裁判所判決は、国際海峡においては沿岸国が無害通航を停止することは禁止されるとしている21。本判決の判断がその後の海洋法の発展に大きな影響を与え、前述の領海条約の規定や海洋法条約第44条及び第45条2項に反映されており、前者への反映は慣習国際法の結晶化とされる22。このことは、領海条約及び海洋法条約いずれの締約国でなくとも、通過通航か無害通航かにかかわらず、国際海峡の通航を停止することは困難であろう。
    以上、ホルムズ海峡の国際法上の位置付けを確認したところで、次に、米国とイランが武力紛争に至らない平時において、ホルムズ海峡の「閉鎖」の措置がとられた場合について検討する。この場合において、イランが通航船舶に対し何らかの権限を行使し得るのは海峡のイラン側の領海である。米国が主張するように通過通航制度が慣習国際法化したとするならば、イラン側領海においても、既述のとおり、通過通航は妨害することも停止することもできない。したがって、イランが「閉鎖」の効果を得るようないかなる行為も違法となる。イランが主張するように、無害通航が適用されるとすればどうであろうか。この場合には、無害でない通航(海洋法条約第19条2項の列挙事項)を防止するために必要な措置23として、停船、臨検等を行うことは許容される。しかし、通航自体を拒否して強制的に引き返させる、あるいは通航のみを理由に拿捕するなど、イランによる海峡の閉鎖の手段が、同海峡の通航を妨害するものであれば、違法と言わざるを得ない。
    海峡のオマーン側における船舶の航行妨害は、いかなる手段を用いるかに拘わらず、オマーンの主権侵害を構成し違法となる。
    続いて、イランと米国(状況によりイスラエル)の間に武力紛争が発生した場合に、ホルムズ海峡の「閉鎖」の措置がとられた場合について検討する。
    中立国の軍艦、補助船舶、軍用機及び補助航空機は、武力紛争中に交戦国の支配下にある国際海峡において、一般国際法が規定する通航権(通過通航又は停止されない無害通航)を行使することができる24。ここでは中立国商船が含まれていないが、軍艦に対し許容されるものは商船にも当然許容されよう。このため、交戦国イランの領海部分においても、中立国船舶は少なくとも停止されない無害通航を行うことができる。一方、国際海峡と言えども、交戦国は自国の領水及び国際水域において海上作戦を実施することができる。したがって、交戦国イランは、ホルムズ海峡のイラン領海及び国際水域において、敵国の軍事目標に対する攻撃、軍事目標以外の敵国商船の拿捕、中立国商船に対する臨検及び拿捕事由を確認しての拿捕を実施することができる。中立国オマーンの領海においては、これらの行為は、オマーンの中立を侵害することとなり違法である25
    また、交戦国は、自国が沿岸国となる国際海峡において、敵国潜水艦及び水上艦等の軍事目標の通峡を阻止するため、機雷を敷設することができる。しかし、中立国船舶が国際航行に使用している海峡では、海峡を完全に閉鎖して中立国船舶の通航を遮断することは認められない26。本来は中立国船舶の安全を確保できる水路を設定し27、当該水路を航行する船舶に対し臨検捜索等の権利を行使することによりその効率を高めることとなる。ホルムズ海峡のように、海峡南側が中立国オマーンの領海となる海峡では、海峡内に安全水路が確保され、敷設国としての義務は確保できる。ただし、既述のように、主要な航路である分離通航帯はオマーン領海内となるため、上記の「閉鎖」の措置では、イランにとって実効性はほとんど得られないことが予想される。
    このため、イランが意図した「閉鎖」の効果を完全ならしむるためには、オマーン側においても、軍事目標の攻撃、商船の臨検・拿捕又は機雷敷設を行う必要があるが、このいずれの手段もオマーンの主権侵害かつ中立侵犯となるので、違法と言わざるを得ない。
    以上が、イランが示唆したと伝えられるホルムズ海峡の封鎖(閉鎖)について、具体的な行為を仮定した上での評価であるが、今後の事態の展開により、具体的な措置がとられた場合、今回の評価の適否も含め再度考察することとしたい。

(幹部学校 作戦法規研究室 塩川 洋志)

(本コラムに示された見解は、幹部学校における研究の一環として発表する執筆者個人のものであり、防衛省、海上自衛隊の見解を示すものではありません。)

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1 2019年4月24日、毎日新聞(http://mainichi.jp/articles/20190424/k00/00m/030/162000c)(2019年5月20日アクセス)。2019年4月23日、日本経済新聞。
2 2019年5月14日、毎日新聞(http://mainichi.jp/articles/20190514/k00/00m/010/310000c)(2019年5月27日アクセス)。、同16時42分NHKニュース。
3  ここで取り上げた武力紛争時(戦時)の封鎖に対する「平時封鎖」の語があるが、今日では、いかなる封鎖であっても、武力によるものは対象国と封鎖国との武力紛争に該当し、武力紛争法の適用を受けるので、戦時封鎖と平時封鎖を区別する法的意味はない。国際法学会編「国際関係法辞典」三省堂、773頁、「平時封鎖」新井 京。The Max Planck Encyclopedia of Public International Law[hereinafter “Encyclopedia of Public International Law”],vol.I, ‘Blockade’ para.5 by W. H. von Heinegg, p.961.
4 ロンドン宣言(海戦法に関する宣言1909年)第1条~第11条。ロンドン宣言は未発効であるが、同宣言の封鎖に関する規定は、サンレモマニュアル及び各国のマニュアルに採り入れられている。海軍大臣官房「戦時国際法規綱要」127-132頁。Department of the Navy, “The Commander’s Handbook on the Law of Naval Operations, NWP1-14M,2017[hereinafter: “NWP1-14M”], para. 7.7. Dieter Fleck ed., “The Handbook of Humanitarian Law in Armed Conflicts,” Oxford University Press 1995,para.1051. Louise Doswald-Beck ed.,“San Remo Manual on International Law Applicable to Armed Conflicts at Sea Explanation,” Cambridge University Press [hereinafter “ SRM Explanation”], p.176 “Blockade, preliminary remarks,” para.93-100.
5 原文は“If we are prevented from using it, we will close it,”(アラビア語を著者が仮訳から)としている。 “Iran Raises Stakes in U.S. Showdown With Threat to Close Hormuz,” By Arsalan Shahla and Ladane Nasseri. ( https://www.bloomberg.com/news/articles/2019-04-22/iran-will-close-strait-of-hormuz-if-it-can-t-use-it-fars)(2019年5月21日アクセス)。 “Iran may close Hormuz Strait if not able to use it: IRGC navy commander,” Mon Apr 22, 2019 01:49PM.( https://www.presstv.com/Detail/2019/04/22/594063/IRGC-Tangsiri-Al-Alam-Strait-H...)(2019年5月22日アクセス)。 Iranian Naval Commander Threatens to Close Strait of Hormuz A confrontation in this vital sea-lane will affect oil trade and the entire world. By Daniel Di Santo • April 29, theTrumpet.com -World News, Economics and Analysis Based on Bible Prophecy
6 BBC News, “Iran facing ‘unprecedented’ pressure from International sanctions, Rouhani says,19 May 2019, (http://www.bbc.co.uk/news/world-middle-east-48242997) (2019年5月22日アクセス)。
7 NEW YORK TIMES , Rick Gladstone, ‘Noise Level Rises Over Iran Threat to Close Strait of Hormuz,’ Dec. 28, 2011、ASSOCIATED PRESS, Ali Akbar Dareini, ‘Iran Warns of Closing Strategic Hormuz Oil Route,’ Dec. 28, 2011.ICJ Report (1986), para.195.
8 https://www.alalamtv.net/news/4180296/ قائد-في-الحرس-اذا-منعنا-من-استخدام-مضيق-هرمز-فلن-يستخدمه-أحد
9 SRM Explanation, para.86.2, “ …the effect of permanently closing the waters concerned to innocent passage…by the belligerents”について、人道法国際研究所「海上武力紛争法サンレモ・マニュアル解説書」東信堂の訳を参考とした。この他に、「遮断」又は「通航阻止」などが考えられる。
10 “Royal Decree concerning the territorial sea, continental shelf and exclusive economic zone,” 10 February 1981, Article 8. “Act on the Marine Areas of the Islamic Republic of Iran in the Persian Gulf and the Oman Sea, 1993,”[hereinafter “Marine Areas Act Iran,”] Article 4. イランの条文には「他の合意がない限り」の文言が入っている。オマーンは海洋法条約締約国として、同様の文言入りの第15条に特段の宣言等は付していない。
11 書誌第408号「航路指定(IMO)平成16年2月刊行」、海上保安庁( “Ships’ Routeing (IMO) 2004”の訳)、72頁。分離通航帯がオマーン側寄りとなったのは、深喫水となるタンカーの航行に適する水深を考慮したためである。
12  わが国は、地理的基準に加え、国際航行の使用実績を、通過通航の適用条件としている。山本草二「国際法〔新版〕」(有斐閣、1994年)376頁。ただし、地理的基準のみを主張する国もある。
13 海洋法条約第38条。
14 坂元茂樹「国際海峡」東信堂、6頁。
15 海洋法条約第44条。
16 The Declarations of the Sultanate of Oman Made Upon Ratification of the UN Convention on the Law of the Sea : declaration No.1,on the territorial sea. しかし、この宣言は、国際海峡の通航に敢えて沈黙しており、このことはオマーンが海洋法条約に規定される通過通航権を尊重する立場をとると解する研究者もある。Encyclopedia of Public International law vol. IX, Transit Passage para.30,by Said Mahmoudi, p.1039.
17 Sharp, Marine Areas Act Iran, Article 5. Interpretative declaration on the subject of straits upon signature, Iran(Islamic Republic of).
18  海洋法条約第25条3項。
19  海洋法条約第45条。
20 Marine Areas Act Iran, Article 8.
21 International Court of Justice ,”The Corfu Channel Case judgment of April 9th, 1949, p.26-30.
22 Encyclopedia of Public International law vol. IX, “Straits,International,”para.4 by Ruth Lapidoth, p.620.
23 海洋法条約第25条1項。
24  SRM Explanation, para.26, para.26.2. para.32. UK Ministry of Defence, “The Manual of the Law of Armed Conflict,” [hereinafter “UK Manual”], para.13.13
25  SRM Explanation, para. 15-16. UK Manual, para.13.8-13.9.
26  NWP1-14M, para.9.2.3.6. SRM Explanation, para.89.
27  海戦法上の封鎖においても、国際海峡においては国際航行のための安全で自由な通航を確保しなければならない。Encyclopedia of Public International law vol.I, Blockade para.39, by Heinegg, p.968.