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 戦略研究会

 サプライチェーンの強靭化

(コラム135 2019/04/26)

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   防衛生産・技術基盤とは、防衛省・自衛隊の活動に必要な装備品などを開発・生産・運用・維持整備・改造・改修するための人的、物的、技術的基盤を指すが、わが国では、その多くの部分をいわゆる防衛産業が担っており、特殊かつ高度な技能や設備を有する広範な企業が関与している1
   防衛産業に関する先般の報道として、陸上自衛隊の主要装備品である装甲車の生産企業による防衛装備品新規開発からの撤退表明が耳目を集めている2。これは、防衛装備品の高性能化に伴う調達単価及び維持・整備経費の増加などによる防衛装備品の調達数量減少により、防衛産業の受注量が減少し、企業内における技能の維持・伝承が困難になったことによることが大きいと思われる。
   このような状況のなか、防衛省は「防衛生産・技術基盤戦略」を策定し、防衛力を支える重要かつ不可欠な要素である防衛生産・技術基盤の維持・強化を図ることとし、この戦略を具現化するための一施策として、「強靱なサプライチェーンの維持」を掲げている3
   防衛産業は、プライム企業を頂点とする重層的なサプライチェーン(SC)からなる。そのSCの中で、他社では代替不能な技術・技能を有する企業が撤退すれば、チェーンが寸断されることになる。このため、同戦略では、国とプライム企業が連携して主要防衛装備品におけるSCの実態を適切に把握するとともに、その維持について検討することが挙げられているほか、開発段階からSCを考慮することにより、強靱な生産・技術基盤の構築を検討すること等が挙げられている4
   平成27年の防衛装備庁発足以降、同戦略を具現化するための防衛装備庁独自の施策が平成28年度予算から盛り込まれている。主として防衛産業への参入企業数の増加を図る各種施策として、SCの可視化及びリスクへの対応、海外で開発される防衛装備品への国内企業の参画、 防衛装備品調達の資となる中小企業等の発掘・活用、最適な産業組織のあり方の検討、契約制度等の検討が行われているが、今後もこれに係る諸施策を積極的に打ち出す必要があるだろう5
   一方、新たな社会情勢として、企業全般に対するサイバー攻撃リスクの高まりが指摘され、なかでも、プライム企業だけでなくSCを構成する部品等供給企業を標的としたSCに対するサイバー攻撃への対応の必要性が、官民を挙げて声高に叫ばれるようになった。
   経済産業省は、日本企業のサイバー攻撃対策が遅れている状況に鑑み、「サイバー・フィジカル・セキュリティ対策フレームワーク」を立ち上げ、産業分野別サイバーセキュリティガイドラインの策定に向けて、ビル(エレベーター、エネルギー管理等)、電力、防衛産業、自動車産業、スマートホームの各産業分野別にワーキンググループを設置し、官民合同の検討を開始した6
   これを受け、防衛装備庁はSC攻撃対策を始めとするサーバー攻撃リスクへの対応を進めるため、防衛産業との間で情報セキュリティ官民検討会を開催し、対応策の検討を開始している7

   海上自衛隊の装備品に目を転じると、最も大きい護衛艦を例にとれば、その建造企業数は、平成13年に就役した07DD(いかづち)の建造時に5社であったものが、企業の集約の結果、平成29年の30FFM建造企業選定時には3社に減少している。
   護衛艦のみならず、海上自衛隊の主要装備品である艦船・航空機は、他の防衛装備品に比べて建造・製造に関わる企業が非常に多い。特に艦船の建造に関わる部品等供給企業数は、護衛艦が約2,500社、潜水艦が約1,400社、掃海艇が約1,000社と、他の装備品と比較しても格段に多いという特徴を有する8
   これら部品等供給企業の約8割が、一般的にサイバー攻撃リスクへの対応が遅れているとされる中小企業に属している9
   海上自衛隊としても、既存装備品の維持について、防衛装備庁、経済産業省とともに防衛産業への参入企業数の増加やSC構成企業のサイバー攻撃リスク対応等を進める一方で、新規装備品の調達先の選定に当たっては、強靭なSCの構築を図るため、SC構成企業のサイバーセキュリティ対処能力評価などを含めた調達先選定基準策定の検討を進める必要がある。

(幹部学校運用研究部ロジスティクス研究室 石原明徳)

(本コラムに示された見解は、幹部学校における研究の一環として発表する執筆者個人のものであり、防衛省、海上自衛隊の見解を表すものではありません。)

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1 防衛生産・技術基盤研究会最終報告-「生きた戦略」の構築に向けて-」防衛生産・技術基盤研究会(24.6),3頁
2 「防衛産業、採算低く コマツが一部撤退」日本経済新聞(2019.2.21)
3 「防衛生産・技術基盤戦略」防衛省(26.6),17頁
4 同上
5 「『[防衛装備・技術政策に関する有識者会議]報告書』を受けた最近の防衛装備庁の取組について」防衛装備庁(30.4)
6 『サイバー・フィジカル・セキュリティ対策フレームワーク』について」経済産業省サイバーセキュリティ課(30.9.4)
7 「防衛装備庁第6回情報セキュリティ官民検討会」防衛装備庁(30.3.29)
8 「防衛生産・技術基盤研究会最終報告-「生きた戦略」の構築に向けて- 別添資料2『分野別防衛産業の現状』」防衛生産・技術基盤研究会(24.6),17頁
9 「サイバー対策、中小企業・若年層に重点=政府、取り組み加速」時事ドットコムニュース(2019.1.24)