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 戦略研究会

 中国の月面裏側着陸から見る宇宙活動に関連する法的考察

(コラム130 2019/02/20)

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   本年1月3日、中国が打ち上げた無人探査機が世界で初めて月の裏側への軟着陸を成功させ、今後は月面に研究基地を建設する構想などを進めると報じられた1。人類にとって画期的な出来事である一方、もし月面基地が建設されれば、資源開発の拠点や軍事的な要素をもつ基地としての用途などが考えられるが、月を含めた天体における活動においては宇宙条約を中心とした規制が存在する。また、中国は2007年にASAT(Anti-Satellite weapon)実験によってスペースデブリを発生させており、人類の自由な宇宙利用について問題を生じさせている。
   宇宙開発は1957年のIGY(International Geophysical Year:国際地球観測年)における計画の一環として、旧ソ連が同年10月に人類初の人工衛星「スプートニク1号」を打ち上げたことから始まり、1961年には同国がガガーリンの搭乗する宇宙船「ヴォストーク1号」により人類初の有人飛行に成功したことなどから、人類による宇宙開発が急速に進展することとなった2。宇宙の開発・利用は、科学的調査研究から軍事、そして商業目的の活動へと広がり、特に軍事的な使用方法としては偵察、監視、早期警戒、位置測定といったものが挙げられる。急速な開発活動に伴い、その技術の発達も急激であったことから、宇宙における活動を規制する法規範の形成は、国際法の他の分野に比べて短時間であった。
   本コラムは、中国の月面着陸に象徴されるような宇宙における国家実行の活発化を踏まえ、国家の宇宙活動を規律する枠組みを概観し、宇宙に関する国際法の現代的課題を提示することを試みるものである。

1 宇宙活動に関連する条約等
   宇宙開発においては、それに関する技術発達が急激であったこと、そして宇宙活動に関する問題の特殊性、当初の宇宙開発活動参加国が少なかったことから、宇宙法諸条約の成立は比較的短時間であった。国際法の主要な法源として、「条約」、「慣習国際法」、「法の一般原則」が挙げられるが3、宇宙における法規範のほとんどは条約によって形成され、法源としての条約が慣習法に対して圧倒的に優位を示している4。それは急速に発達する宇宙関連技術に対応して執られるべき処置はすでに緊急性を要し、宇宙開発活動に伴う慣習国際法の成立を待っていては必要な事態に対応できなかったためである。
   スプートニク1号打ち上げ直後の1957年11月の国連総会において、決議1148(XⅡ)が採択され、これは宇宙空間の利用の態様を「もっぱら平和的目的(exclusively for peaceful purpose)」でなければならないと記述した初めての国連総会決議であり、同年12月の国連総会決議1348(XⅢ)では、宇宙空間がもっぱら平和的目的に利用されることが人類の共通目的であると謳うとともに、アドホックな国連宇宙空間平和利用委員会(Committee on the Peaceful Uses of Outer Space : COPUOS)の設置が定められた。1959年12月の国連総会決議1472(XⅣ)でCOPUOSは常設委員会となった。COPUOSでは、宇宙における活動の基本となるものとして以下の四条約(以下「宇宙条約等」という。)を作成し、それらは「月その他の天体を含む宇宙空間の探査及び利用における国家活動を律する原則に関する条約」(「宇宙条約」、1967年成立)、「宇宙飛行士の救助及び送還並びに宇宙空間に打ち上げられた物体の返還に関する協定」(「宇宙救助返還協定」、1968年成立)、「宇宙物体により引き起こされる損害についての国際的責任に関する条約」(「宇宙損害責任条約」、1972年成立)、「宇宙空間に打ち上げられた物体の登録に関する条約」(「宇宙物体登録条約」、1974年)である。特に「宇宙の憲法」と呼ばれることのある「宇宙条約」は、1963年12月に国連総会において「宇宙空間の探査と利用における国家活動を律する法原則に関する宣言」と題された決議における宇宙法原則宣言、すなわち「宇宙活動自由の原則」(宇宙条約第1条)、「宇宙空間領有禁止原則」(同条約第2条)、「宇宙平和利用原則」(同条約第4条)、「国家への責任集中原則」(同条約第6条、第7条)を条約化したものである5

2 宇宙条約等の国際規範と月の利用
   中国による月面着陸のような宇宙開発活動は、「宇宙活動自由の原則」における「すべての国がいかなる種類の差別もなく、平等の基礎に立ち、かつ、国際法に従って、自由に探査し利用することができる」という宇宙条約第1条に規定される活動に該当する。しかし、宇宙条約第2条によって国家による宇宙空間及び天体の領有自体は禁止されているものの、もし月面において宇宙資源採掘を行った場合、同条約においてはそれを禁止または許可するという明確な規則は存在していない6
   また、COPUOSで作成された最後の条約として、「月その他の天体における国家活動を律する協定」(「月協定」、1979年成立)が存在し、その特徴として第一に宇宙条約第4条の平和利用原則を徹底しており、月をもっぱら平和的目的の利用に限定し(月協定第3条1項)、月におけるいかなる武力による威嚇や行使、その他のいかなる敵対行為やそれによる威嚇も禁止し(同条2項)、さらに核兵器や大量破壊兵器を運ぶ物体を月の周回軌道や月に到る飛行経路に乗せることを禁止し(同条3項)、同原則を天体の中でも特に月について徹底した。第二に、その第11条では、宇宙条約第2条の領有禁止原則を具体化し、月の天然資源を「人類の共同の財産」(Common Heritage of Mankind:CHM)と規定、月およびその天然資源にCHM原則を導入した。しかし、「月協定」はその当事国が17ヶ国と少なく、中国を含め主要な宇宙活動国は未加入であり、その実効性を欠いている。

3 ASATとスペースデブリ7
   衛星への攻撃として2007年の中国によるASAT実験は注目を浴び、大量のスペースデブリを発生させ、宇宙における安全保障と宇宙環境保護に関する問題が注目されるようになった。スペースデブリは確認されているものでも3000個を超え、レーダー等で確認できない1cm以上のものを含むと10万個近くが地表から300から4000kmの軌道上に発生したと言われている8。ASATに関しては、宇宙条約第4条において月その他の天体における軍事的な活動は否定され、宇宙空間(軌道上)に大量破壊兵器を配置することは禁じられているものの、通常兵器の配置は禁じられていないため基本的には違法とされず、この事例については自国の衛星に対してであるためやはり違法とはならない。
   こういった状況に対し、現在の法的規制をかける動きとしてハードロー、ソフトローによる制限が模索されている。ハードローとしては、ロシア、中国を中心に国連の軍縮会議に2008年に提出された「宇宙空間への兵器配置および宇宙空間物体に対する武力による威嚇または武力の行使の防止に関する条約(PPWT)」案9があげられる。このPPWTは、2014年にも案が提出され、条約という形で宇宙の兵器化を制限する法的枠組みを構築しようとしている。それに対し、EUは「行動規範」と呼ばれるソフトローによる制限を模索している。この「宇宙活動に関する行動規範(International Code of Conduct for Outer Space Activities : ICOCという。)10」案は、2010年9月、2012年6月、2014年3月と改訂がなされ、各国の国内制度の整備を通じて各国の行動を抑制しようとし、宇宙監視能力を持つ国家は、影響を受ける可能性のある主体に対し、可能な限り通報することを求めている(6条2項)。また、このICOCでは、「透明性、信頼醸成措置」が不可欠であるとの立場をとっており、これは第一に、各国がこのICOCに従って行動するという政治的意思を明確にすること、第二に、ICOCが設定する行動基準に従っているかどうかを検証すること、第三に、ICOCに合致しない行動に対する社会的制裁(国際的孤立など)を行うメカニズムを指すものであるといわれる11
   また、スペースデブリに関しては、第一に宇宙条約では第9条において宇宙空間の汚染については、「条約の当事国は、月その他の天体を含む宇宙空間の有害な汚染及び地球外物質の導入から生ずる地球の環境の悪化を避けるように月その他の天体を含む宇宙空間の研究及び探査を実施し、かつ、必要な場合には、このための適当な措置を執るものとする。」と規定し、国際的な措置を講ずる場合の根拠となりうる。第二に、COPUOSでは1990年代半ばからデブリが衛星システムに悪影響を与えているとの認識が高まり、2007年に「宇宙デブリ低減ガイドライン」を採択している12。これは、従来から進められてきたデブリ低減策にASAT問題を埋め込んだ形のものであったが、法的拘束力をもたないガイドラインとして採択された。1993年に設立された「国際機関間デブリ調整委員会」においても、国際的に法的拘束力はないがガイドラインを作成し、これを基礎としていくつかの機関においてもデブリ対策が行われている。

   以上、宇宙における活動を規制する条約等の状況を概観しつつ、現在の宇宙開発活動の課題とその取り組みについて確認した。現状の宇宙空間に関する法的課題の中心は、中国のASAT実験に触発された宇宙環境の保護、すなわちスペースデブリ問題への対策に関心が集まっている。しかし、米中2国間の軍事競争の激化が予想される中、今後は特に宇宙空間の軍事的利用の一層の活発化が見積もられる。こうした情勢下、近年は国際法の枠組みに関して、国家や国連といった主体以外による多様な取り組みが活性化しつつある。既にWoomera manualプロジェクト13や、MILAMOSプロジェクト14といったものが存在し、これらは宇宙空間の合法的な利用の範囲を明らかにしようとする試みである。
宇宙諸条約成立当初と現在の宇宙活動実施国数の違いから、条約成立へのコンセンサスの形成がかつてよりも困難になっており、条約のようなハードローでなく、EUが提案する行動規範やその他のプロジェクトのようにソフトローによる規範の作成が目指される傾向にある。これらは、法的拘束力をもたないものの、その柔軟性が科学技術の発展が著しい宇宙分野においては適合しているようである。ただし、拘束力をもたないことから信頼醸成措置は不可欠であり、特にその透明性は保持されなければならない。今回の中国の月面裏側への着陸の成功に関して言えば、月の裏側という第3者の目が届かない領域における活動について、どのように透明性を確保するのかが課題となる。ハードローにせよソフトローにせよ、国際的な取り組みとしてそれらの遵守を担保するためには、透明性の確保と信頼醸成措置のあり方が今後の課題となるであろう。

(幹部学校付 3等海佐 長谷川 和浩)

(本コラムに示された見解は、幹部学校における研究の一環として発表する執筆者個人のものであり、防衛省・海上自衛隊の見解を表すものではありません。)

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1 「中国が月の裏側着陸に成功 世界初」『日本経済新聞』(2019年1月3日)
2 国際法学会(編)『陸・空・宇宙』(三省堂、2001年)187頁。
3 柳原正治、森川幸一、兼原敦子編『プラクティス国際法第3版』(信山社、2017年)21-22頁。法の一般原則の法源性については見解の対立が存在する。
4 青木節子『日本の宇宙戦略』(慶応義塾大学出版、2006年)55頁。
5 UN Doc. A/RES/1962(ⅩⅧ)
6 Setsuko. Aoki, “The Future of Space as Global Commons from the Perspective of Inter-national Law,” The Future of Space as Global Commons, Japan SPOTLIGHT July/August 2018, JEF, p.22.
https://www.jef.or.jp/journal/pdf/220th_Cover_Story_05.pdf (2019年1月28日アクセス)
7 スペースデブリとは、宇宙物体の意図的爆破または偶発的な衝突により軌道上で生じた破片や、宇宙ミッションの過程で排出される物資などの総称をいう。細部については、龍澤邦彦『宇宙法システム』(丸善プラネット、2000年)86頁。
8 Kelso. T. S., “Analysis of the 2007 Chinese ASAT Test and the Impact of Its Debris on the Space Environment,” Proceedings of 2007 AMOS Conference, pp.321-330. https://celestrak.com/publications/AMOS/2007/AMOS-2007.pdf(2019年2月5日アクセス)
9 Conference on Disarmament, “Letter Dated 27 June 2002 from the Permanent Representative of the People's Republic of China and the Permanent Representative of the Russian Federation to the Conference on Disarmament,” CD/1679, June 28, 2002.
その後、2008年、2014年に案を提出している。
10 International Code of Conduct for Outer Space Activities - Version 31 March 2014, Draft, EEAS.
https://cdn3-eeas.fpfis.tech.ec.europa.eu/cdn/farfuture/05ntjiVf8oPvMqMbHUg mbT3jt81mZ8mAZUXdPiGiFwQ/mtime:1479119506/sites/eeas/files/space_code_conduct_draft_vers_31-march-2014_en.pdf(2019年2月5日アクセス)
11 鈴木一人『宇宙開発と国際政治』(岩波書店、2016年)263頁。
12 Report of the Committee on the Peaceful Uses of Outer Space, General Assembly Official Records, Sixty-second Session Supplement No.20(A/62/20), 2007.
13 The Woomera Manual, The University of Adelaide.
https://law.adelaide.edu.au/woomera(2019年2月4日アクセス)。
14 Manual on International Law Applicable to Military Uses of Outer Space, McGill University.
https://www.mcgill.ca/milamos/research#StageI