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 戦略研究会

 「シリア攻撃から読み解くトランプ大統領の戦略的メッセージ」
-戦略的コミュニケーションの観点からの評価―

(コラム098 2018/4/27)

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   2018年4月13日(金)、米国を中心とした英仏との共同による、シリア攻撃が実施された。昨年4月にも同様に、化学兵器を使用したとして、トランプ大統領はシリアへの攻撃を命じた。これらの攻撃はいかなる意味、対外的メッセージを含むのか戦略的コミュニケーション(Strategic Communications)の観点から分析を試みる。
   まず、2017年4月7日(土)に実施された攻撃であるが、これは地中海に展開する2隻の米海軍駆逐艦から発射された、トマホーク巡航ミサイル59発による攻撃であった 1
   米国ではこの時、米中首脳会談の最中であった。報道によれば、トランプ大統領から攻撃について知らされた習近平主席は10秒間沈黙した後、通訳に「もう一度言ってほしい。」と述べ、トランプ大統領の「たった今、59発の巡航ミサイルをシリアへ発射した。あなたに知らせたかった。」との発言を確認すると、最終的には「OKだ。」と答えた、とされている2。その後、トランプ大統領は北朝鮮のミサイル問題で中国の協力を要請したとされている3
   他方、ロシア側の報道によれば、攻撃の2時間前にロシア軍に通報があり、空港から撤退する猶予があったとされている4。同様の話は米国防省からも説明され、ロシアに対しては、事前に情報が提供されたことは確かであると言えよう5
   これらの事実から、トランプ大統領は中国を通じて北朝鮮に圧力をかける、ロシアとは決定的な対立を避ける、習主席に自ら伝える事で中国の協力を期待する、といった複数の戦略的な狙いを持ちシリア攻撃を実施したと言えよう。もちろん、国内的にも「俺はやるときにはやる、強い大統領」というメッセージも伝わった。
   この翌日に米太平洋艦隊は空母カールビンソンを中心とする機動部隊を西太平洋北部に派遣すると発表し、政府当局者の話として朝鮮半島付近の軍事プレゼンスを高める狙いがあると述べている6。これ以降、米朝の緊張は徐々に高まり、北朝鮮の弾道ミサイル発射や軍事演習等の動き、安保理決議等を通じた外交的・経済的圧力、そして双方の発言による非難の応酬と、緊張が高まっていったのである。
   そして、今年に入り、平昌冬季五輪にあわせて訪韓した北朝鮮の高官代表団と文在寅大統領との会談に金与正、朝鮮労働党第1副部長が金正恩氏の特使として出席し、正恩氏の親書を手渡して以降、急速に対話ムードが高まり7、南北対話、さらに米朝首脳会談への道筋が見えてきたところで、4月13日のシリアへの再度の攻撃となった。

海警の指揮系統の変更
(出所:三池淵管弦楽団の公演後、金与正・朝鮮労働党第1副部長(左)の手を取る韓国の文在寅大統領=4月11日、(ソウル聯合=共同))

   それでは、今回のシリア攻撃ではどのようなメッセージが込められているのだろうか。
   まず、攻撃規模とその内容から読み解けるのは、欧米、特に米英仏の連携である。発射されたミサイルは昨年の攻撃の約2倍の105発(米85発、英仏20発)であり、地中海東部や紅海などに展開する米仏艦艇や原子力潜水艦に加え、キプロス島を拠点とするB1爆撃機も攻撃に参加し、フランス空軍機が護衛にあたり、米海兵隊の電子戦機が支援に、英軍機も攻撃に加わったとされている8。また、着弾時刻に関してもシリアの夜明け前を計算し、付随的被害、民間人へ被害も最低限に抑えるように計画されたという9
   異なった海域から、異なる発射プラットフォームを使用し、さらには有人機を参加させた事から、昨年の攻撃よりもより、強い決意と更なる実力を誇示する姿が見える。遠隔地から巡航ミサイルを発射するだけなら、味方の人的被害をほとんど顧慮せずに武力行使は可能である。しかしながら、有人機を飛行させるとなると、当然、ハードルは上がるはずである。それを同盟国と共に実施するという所に、米英仏の連携の強化をロシア、シリアは当然ながら、北朝鮮や中国、あるいはその他の国に見せつける意図があったと推察される。

海警の指揮系統の変更
(出所:Sam LaGrone and Ben Werner,“U.S., French Warships Launch Attacks on Chemical Weapons Targets in Syria; U.K., French Fighters, U.S. Bombers Also Strike”USNI NEWS, April 14, 2018)

   我が国でも、安倍首相は4月14日(土)、米国が英仏両国と共同で行ったシリア攻撃について、「化学兵器の拡散と使用は絶対に許さないという米英仏の決意を支持する。」と表明し、米英仏3か国との連携を打ち出している。さらに、日本政府内にも米朝首脳会談を控える中での今回の攻撃が、「北朝鮮へのメッセージになる」と見る向きがあると報道されている10
   国際情勢は、一つの事象ではなく多面的に連動している。本コラムで見てきたように、ただ一度の攻撃でも数多くの相手への複数のメッセージが込められていると解釈できる。これらをきちんと読み解く努力をすること、あるいは逆にわが方の活動が他国にどのように解釈されるかを考えることが、戦略的コミュニケーションでは重要である。

(幹部学校防衛戦略教育研究部 戦略研究室 石原敬浩)

(本コラムに示された見解は、幹部学校における研究の一環として発表する執筆者個人のものであり、防衛省、海上自衛隊の見解を表すものではありません。)

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1 BBC NEWS Japan, 2017年4月7日。
2 『読売新聞』2017年4月15日。
3 同上。
4 ロシア『独立新聞』2017年4月10日。
5 BBC NEWS Japan, 2017年4月7日。
6 『読売新聞』2017年4月10日夕。
7 『日経新聞電子版』2018年2月10日。
8 Sam LaGrone and Ben Werner,“U.S., French Warships Launch Attacks on Chemical Weapons Targets in Syria; U.K., French Fighters, U.S. Bombers Also Strike”USNI NEWS, April 14, 2018.
9 Jim Garamone,“Pentagon Officials Describe Syria Strikes, Hope Assad Gets Message,” US Department of Defense, WASHINGTON, April 14, 2018.
10 『読売新聞』2018年4月15日。