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 戦略研究会

 中国海警局の指揮系統の変更について

(コラム097 2018/4/23)

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中国海警の指揮系統上の軍事組織化
   2018年3月21日に中国共産党中央委員会が公布した「党及び国家機構改革案」によれば、従来、国家海洋局隷下にあった海警組織及び関連機能が武警部隊の隷下になることが明らかになった1。海警組織は日本の海上保安庁に相当するが、海上保安庁が海上交通の整理や、海難事故等への対応から領海警備、排他的経済水域の保全までを担当しているのに対し、海警組織は、領海警備や排他的経済水域の保全を主な任務にしているという点で異なる。
   今回の指揮系統の変更を単純にみれば、海警組織が非軍事組織である国家海洋局の指揮系統を外れ、軍事組織の根幹ともいえる中央軍事委員会の指揮下にある武警部隊の隷下に入った点が着目される。一般的に国際社会においては、二国間における国際紛争等に関し過度に緊張が高まることを防止するための政治的工夫として、法執行機関に対し軍隊ではなく法執行機関が対応するという形がしばしば散見される。南シナ海や東シナ海で中国が関係している海上における二国間の係争においても、同様の対応がとられている。これまでに日中双方でも、領海警備や排他的経済水域の保全につき海警、海監に対して海上保安庁が対応してきた。しかし、今回の中国側の指揮系統の変更により、我が国においては非軍事組織である海上保安庁がこれらの任務を担当する一方、中国においては武警指揮下の軍事組織である海警が担当することになった。

図: 海警の指揮系統の変更
海警の指揮系統の変更

実質的な変化とその影響
   もう一点注目すべき事実として、今回の報道から2カ月遡る本年1月に、武警部隊が中央軍事委員会の指揮下に一元化されたことがある。(従来、武警部隊は国務院と中央軍事委員会の2重指揮下であった)2。これまで、武警部隊の主要な任務は国境警備や国内の治安維持等であったが、指揮系統の変更にともない、新たに「海上権益維持のための法執行」も任務とされた。しかし、現在のところ、指揮系統の変更以降、武警部隊の活動が活発化、先鋭化したというような報道は見られない。また、南昌工程学院の軍事法学者である曾志平(Zeng Zhiping)は「海警組織の指揮系統変更が、地域の緊張を高めたり、更なるリスクを生み出したりはしないだろう」、「担当部隊の人員は従来どおりであり、この場合、組織内部の任務分担は変わらない。」と述べている3
   他国の例をみれば、ロシアではかつて国境軍(現在は行政機関であるロシア連邦保安庁国境部の所掌に変更されている。)が領海警備や排他的経済水域の保全を行っていた。すなわち、ロシアにおいても軍事組織がこれらの任務を担当していたということである。また、米国の海上における法執行機関である沿岸警備隊も平素から軍人としての地位を有している。そして、米国沿岸警備隊は戦時においては海軍に編入される。その他、イタリアの国家憲兵隊やフランスの海上憲兵隊も平素から軍隊の地位を有している。さらに、イギリスにおいては、領海警備は海軍の所掌であり、海軍が警察権を行使して取締りを行う。

今後注目すべき事項
   今後、注目すべき事項としては、中央軍事委員会の指揮下にある武警部隊の隷下に入った海警が平素から軍の地位を保有するのか否かが挙げられる。(また、根拠法規たる「中華人民共和国人民武装警察法」や「国防法」が改正されるかどうかも注目される。)
   他方で、今回の組織変更で言えることは、領海警備や排他的経済水域において起こる様々な事態に対し、党中央の主要メンバーが枢要な配置を占めている中央軍事委員会、つまりは国家意思決定機関ともいえる組織が、事態への対応をダイレクトコントロール出来ることになった、ということであろう。一般的に、民主主義国家では、喫緊の事態に際し、最終的な国家意思が現場の部隊等に行き届くまでに時間を要することがある一方で、中国では迅速な意思の伝達が可能な態勢となったとみられる。今後は、海警組織の主要人事の動向、所属艦艇の塗装や乗組員の制服の変更などの他、中国海軍艦艇と海警局指揮下にある公船の協同訓練等の連携状況は海上保安庁のみならず、海上自衛隊にとっても着目すべき事項である。

(幹部学校企画部企画課国際計画班 熊谷貴和)

(本コラムに示された見解は、幹部学校における研究の一環として発表する執筆者個人のものであり、防衛省、海上自衛隊の見解を表すものではありません。)

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1 『新華網』2018年3月22日。
2 『新華網』2018年1月11日。
3 “Military control of Chinese coast guard adds edge to sea disputes,” The Japan Times, March 27, 2018.