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 戦略研究会

 防衛駐在官の見た中国(その24)
-中台は今も「敵対状態」にある-

(コラム073 2015/11/24)

   このコラムは、筆者が在中国日本国大使館防衛駐在官在勤中に得た経験にもとづいた筆者個人の雑感をご紹介するものです。読者の皆様が、我が国の防衛・安全保障を考える上で、幾ばくかの参考となれば幸いです。

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分断後初の中台首脳会談

   11月7日、シンガポールにおいて中国の習近平(XI JingPing)主席と台湾の馬英九(MA YingJeou)総統が、1949年(昭和24年)の中台分断以降初となる歴史的な首脳会談を行った。中国側では会談を肯定的評価で報じる一方、台湾側の報道は会談の実施そのものの賛否を含め評価は多様であった。年明け早々に台湾総統選挙が控えていることもあり、今回の中台首脳会談が今後の中台問題にどのような化学変化を惹き起すことになるのかを予測するには時期尚早である。

   会談において習主席は「両岸関係は1949年以来最良の時期にある」1と述べたのに対して、馬総統も「(分断後)66年間で最も平和的で安定した状態にある」2と応えている。中台関係は「経済協力枠組取決め」3が発効するなど経済分野の連携が進展するとともに、観光旅行を含む人々の往来も急速に活発化しており、両首脳が述べたように、今日の中台関係が1949年の中台分断以後最も平穏かつ緊密な状態にあることは疑うべくもない。

   一方で馬総統は「敵対状態を低下させ、争いを平和的に処理しよう」4と発言し、現在もなお中台間が「敵対状態」にあることに言及している。また馬総統は会談後の単独記者会見 の場でもこれについて触れて「多くの台湾民衆は、(内モンゴルの)ジュルフ基地 や(地対地)ミサイルを含む大陸の台湾に向けた軍の配備に関心を持っている」との懸念を習主席に対して伝えたと答えている。

中台関係は「内戦状態」にある

   中台関係は未だ敵対状態にある。馬総統の前述の発言を読み、筆者は中国国際問題研究所6の郭震遠(GUO ZhenYuan)研究員が発表したレポートを思い出した。郭研究員は2011年(平成23年)に本校を訪問し我々と議論したこともある著名な台湾問題専門家である7。郭氏は2010年(平成22年)に次のように述べている8

   「1946年(昭和21年)6月に勃発した中国の内戦は、1949年初めには勝敗が決し、大勢を逆転できない状態となったが、今日まで内戦は続いている。1949年以降、最初の3年間が内戦の主要時期であり、1949年から1978年(昭和53年)までは両岸双方が厳しい軍事対決状態を継続した。1979年(昭和54年)から2008年(平成20年)5月までは軍事衝突こそ発生しなかったが終始軍事対決状態は存在し、政治的対立は更に激化した。2008年5月以降、両岸の軍事・政治対立は顕著に緩和・改善し、平和発展の歴史的新段階に進んでいるが、両岸の軍事・政治対立は完全に消滅していない。
   1979年に全人代が「台湾同胞に告げる書」9を発表して平和統一を呼びかけ、1991年(平成3年)に台湾が『反乱平定動員』を終了10し、両岸の経済貿易関係や人員往来が急増したことにより、両岸の民衆にとっては内戦関係にあることは受け入れ難いことであるが、法律上、内戦は継続していることは否認できない事実である。
   内戦を終結させるためには、軍事的相互信頼関係を確立し、敵対状態を終結させた上で、和平協定を結ばなければならない。」

   台湾が「一つの中国」という認識を共有しない陳水扁(CHEN Shuibian)民進党政権であった2005年(平成17年)に、中国は「反国家分裂法」11を制定した。これによって中国は非平和的手段による中台統一、すなわち台湾への武力行使を国内法理上において正当化した。「92コンセンサス」12 の受け入れを表明した国民党が2008年に台湾の政権党に復帰した後も今日に至るまで中国はこれを破棄していない。

   郭レポートが出た2010年と現在と時間の中で、中台関係に対立を低減させるような大きな変化はない。むしろ2014年(平成26年)3月に台湾で「ひまわり学生運動」 13が起きたことは記憶に新しい。

   中台関係と類似した状況が朝鮮半島にも存在するが、休戦協定を締結し法理的にも安定している朝鮮半島の状況14と、休戦協定すら結ばれずに半世紀以上が経過しているところが中台関係の特異な点である。

   2007年(平成19年)、筆者は中国国防大学15において中台問題についての講義を受け、議論に参加した。冷静かつ客観的な議論が行われたが、最後に同期である一人の人民解放軍大佐が台湾統一の民族的必要性・歴史的必然性について我々外国人学生に嗚咽しながら訴え、外国軍留学生はあらためて中台問題解決の困難性を理解した。当時の彼の姿を思い出すと、武力衝突の再発の可能性が皆無であるという自信は筆者にはない。

台湾の軍事力

   中台間が未だに「敵対状態」にあることは、中台ウォッチャーや安全保障専門家からすれば至極当然のことではある。しかし、中台はもとより日中、日台の経済相互依存関係が進む今日、「国共対立」は過去の歴史であると感じている日本人は少なくない。

   中国が地対地ミサイルを配備し、台北の総統府を模したビルを作って突入作戦を訓練する等、武力による台湾解放の準備を整えている一方で、台湾も中国による攻撃を抑止・排除するための相応の軍事力を保持していることが「ミリタリーバランス2015」16から窺える。

   海上戦力に焦点を当ててみると、海軍兵力45,000人は海上自衛隊とほぼ同数であり、海兵隊15,000人は中国海軍陸戦隊(10,000人)を上回り、北東アジアでは韓国海兵隊(27,000人)に次ぐ勢力である。潜水艦戦力(4隻)は劣勢であるものの、駆逐艦、フリゲイトといった主力の水上戦闘艦艇のほか、掃海艦艇、揚陸艦艇、対潜用航空機はいずれも韓国海軍(23隻)とほぼ同等の数量を有している。
   コーストガード分野(海岸巡防署)についても韓国海洋警察の巡視船艇(50隻)を上回る138隻の巡視船艇及び17,000人の人員を擁しており海上保安庁(395隻、12,650人)に次ぐ勢力である。
   航空戦力についても、F-16を主力とする戦闘機416機を擁しており、韓国空軍のそれ(488機)とほぼ同数である。

   海軍や海警(国家海洋局)17の質的・量的増強と活動の拡大が急激に進む中国の軍事力と比較すると、台湾の軍事力は年を追うごとに劣勢となっているのは事実である。しかし、他の周辺諸国の軍事力と比較した場合、圧倒的な数量を誇る中国のそれには及ばないものの、台湾はこの地域において韓国と並ぶ強力な実力を保有していることも事実である。

まとめに代えて

   台湾海峡を含む台湾周辺は東シナ海と南シナ海を繋ぐ結節点に位置しており、我が国の安全保障において死活的に重要な海上・航空交通路の一つである。台湾島は我が国の先島諸島に隣接18しているばかりか、未だに台湾は与那国島周辺空域を防空識別圏に含めたままである。2012年(平成24年)7月26日には台湾海軍の駆逐艦が誤って与那国島周辺の我が国領海付近に接近するという事態19も起きている。したがって台湾周辺の軍事情勢は我が国の安全保障に直結した問題であり、我が国は中台問題を他人事として看過することはできない。

   また、台湾は中国と同様に我が国の領土である尖閣諸島20の領有権を主張し、2012年9月25日には、台湾漁船とともに台湾の巡視船が尖閣諸島の領海内に侵入するという事態21も生起している。一方で、ARF、ADMM plus、WPNS、アジア海上保安機関長官級会合22、北太平洋海上保安フォーラム23などの地域枠組みに台湾が参加していないことは、地域の安全保障コミュニティー24を通じた安全保障の分野における台湾と地域関係諸国等との意思疎通を難しくしている。

   その上、今回の中台首脳会談の中で台湾側の懸念に対して「大陸の軍の配備は台湾に向けられたものではない」と習主席が応えたことを馬総統は記者団に披露した25。それが事実であるならば、大陸沿岸に配備されたミサイルがどこに向けられているのか、その射程にある我が国を含む中国の近隣諸国は強い関心を抱かざるを得ない26

   中台関係が「敵対関係」にあることは我が国のみならず地域の安全保障環境に不確実な変数を与えている。

(幹部学校 山本 勝也) 

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1新华网「习近平同马英九会面(習近平が馬英九と会談)」
http://news.xinhuanet.com/tw/2015-11/07/c_1117071846.htm、2015年11月10日アクセス。
2中華民國總統府中国総統府「馬英九總統出席『兩岸領導人會面』(馬英九総統が『両岸指導者会談』に出席)」http://www.president.gov.tw/Default.aspx?tabid=1127、2015年11月10日アクセス。
3経済協力枠組取決め(ECFA:Economic Cooperation Framework Agreement):2010年6月に中国と台湾が締結した自由貿易協定(FTA)の一種。
4中華民國總統府中国総統府「總統出席『兩岸領導人會面』後召開國際記者會」総統が『両岸指導者会談』後に開催した国際記者会見に出席)」
http://www.president.gov.tw/Default.aspx?tabid=131&itemid=36074&rmid=514、2015年11月10日アクセス。
5ジュルフ(朱日和)基地:内モンゴル自治区にある人民解放軍基地。2015年6月に実施した演習「跨越2015」において台湾の総統府庁舎をイメージさせる建物を当該基地内に建設し、特殊部隊が当該建物を攻撃し突入する市街地戦闘訓練を実施したことがCCTV(中国中央テレビ)で紹介された。
6中国国際問題研究所(China Institute of International Studies):中国外交部直属の研究所。
http://hk.crntt.com/doc/1013/3/9/5/101339565.html?coluid=7&kindid=0&docid=101339565&mdate=0705103924、2015年11月10日アクセス。
7海幹校ニュース「中国国際問題研究所 郭震遠研究員 来校」参照。
8中國評論新聞網「結束內戰方能促進兩岸關係持續地和平發展(内戦の終結が両岸関係の持続的な平和発展を促進させる)」
9新华网「全国人大常委会『告台湾同胞书』(全人代『台湾同胞に告げる書』)」
http://news3.xinhuanet.com/ziliao/2003-01/23/content_704733.htm、2015年11月11日アクセス。
   米中国交樹立(1979年1月1日)と同時に発表した文書。平和統一、三通(通航、通商、郵便)、四流(学術、文化、体育、科学技術の交流)を呼び掛けたものであり、その後の中国の対台湾政策の原則を規定した。
101991年に「反乱平定動員(動員戡乱時期臨時条項)」(1948年2月制定)を廃止した台湾は、これによって中国共産党の位置づけを従来の「反乱団体」から大陸地区を支配する政治実体として認めて中国共産党との「内戦状態」の終結を宣言したものと意味していた。ただし、当時の台湾・行政院大陸委員会の馬英九スポークスマンは当該条項が廃止されても、法律上・司法機関の見解では共産党は依然として反乱団体であると言明し、中国に対する警戒感を払拭したわけではなかった(JETROアジア経済研究所「憲政改革への出発 1991年の台湾」
http://d-arch.ide.go.jp/browse/html/1991/105/1991105TPC.html.standalone.html、2015年11月11日アクセス)。
11駐日中国大使館「反国家分裂法(前文)」
http://www.china-embassy.or.jp/jpn/zt/www12/t187198.htm、2015年11月11日アクセス。
1292コンセンサス:中台双方の窓口機関(海岸両岸関係協会と海峡交流基金会)が1992年(平成4年)に合意したとされる「一つの中国」という共通の認識。
   民進党政権期では当該コンセンサスの存在は否定されていた(台湾・行政院大意委員会、2007年11月)が、2008年(平成20年)に政権復帰した国民党は当該コンセンサスを基礎に中台関係を進めるとしている。
   ただし、当該コンセンサスについて合意したとされる大陸側(共産党)と台湾側(国民党)との間においても当該コンセンサスの解釈に相違がある。
13ひまわり学生運動:2014年3月18日、台湾の学生たちが市民らと我が国の国会にあたる立法院を占拠したことから始まった学生運動。
   前述のECFAの発効を受けて中台間の通信、保険、金融等のサービス貿易の解除等を目指した「両岸サービス貿易協定」締結に対する台湾市民や学生の反対が原因の一つとされている。
14コラム067「朝鮮戦争 中国 国際連合 日本」参照。
15コラム007「人民解放軍国防大学への留学」参照。
16“THE MILITARY BALANCE 2015”, International Institute for Strategic Studies
17コラム071「中国海警は第2の中国海軍」参照。
18日本最西端に位置する与那国島は、石垣島(東へ118km)より台湾(西へ111km)に近い。
19フォーカス台湾「台湾海軍、日本領海付近で“迷走”、艦隊長処分」
http://japan.cna.com.tw/news/apol/201208030005.aspx、2015年11月11日アクセス。
20産経ニュース「尖閣をめぐる争い『避けられない』馬英九総統、習近平氏に伝える」
http://www.sankei.com/world/news/151108/wor1511080029-n1.html、2015年11月11日アクセス。
21朝日新聞「台湾漁船と巡視船約50隻、尖閣周辺の日本領海に侵入」
http://www.asahi.com/special/t_right/SEB201209250001.html、2015年11月11日アクセス。
22海上保安庁「アジア海上保安機関長官級会合」
http://www.kaiho.mlit.go.jp/mission/kokusai/ajia/kaigou.html、2015年11月11日アクセス。この枠組みには香港も加盟している。
23海上保安庁「北太平洋海上保安フォーラム」
http://www.kaiho.mlit.go.jp/mission/kokusai/kitataiheiyou.html、2015年11月11日アクセス。
24コラム063「中国海軍と海軍コミュニティー」参照。
25中華民國總統府中国総統府「總統出席『兩岸領導人會面』後召開國際記者會」
26人民网「中国反制日本围堵 岸基导弹射程覆盖日『间谍岛』(中国が日本の封じ込めに反撃、海岸配備の弾道ミサイルは日本の「スパイ島」を射程に収めている)」http://military.people.com.cn/n/2015/0408/c1011-26813491.html、2015年11月11日アクセス。与那国島に陸自・沿岸監視隊を新編することに対して、梁芳(LIANG Fang)中国国防大学戦略教研部教授(海軍上級大佐)がCCTVのインタビューに答えたもの。


 本コラムに示された見解は、幹部学校における研究の一環として発表する執筆者個人のものであり、防衛省または海上自衛隊の見解を表すものではありません。